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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2014年08月15日 12時13分58秒

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    白鳥伝説異聞・28

    ヤマトタケルの一行は相模の国に入った。
    この国の国造は、一応「国造」という称号で呼ばれているものの、大和朝廷に与しているわけではなかった。
    今まで通ってきた国はどこも好意的にタケルたちを受け入れていたが、ここはそうはいかない。――タケルは覚悟して国造の居城に向かった。
    だが、思いの外に一行は歓待を受けることとなった。国造は恭しく居城から出て来ると、自らタケルを招き入れ、食事を振る舞ったのである。
    「改めて聞くが......」と、タケルは国造に言った。「大和の王に付き従う意思はおありか?」
    「もちろんでございます」と、国造は言った。「大和朝廷にお仕え申し上げましょう」
    その態度がとても恭しく、嘘を言っているようには見えなかったタケルは、彼の言うことを信じることにした。
    国造は自らタケルやレーテーに酌をしてきた。レーテーはその時に何気なく国造の指先に触れて、心を読もうとしたのだが......。
    「この人、心が読みにくいわ」と、レーテーはテレパシーでタケルに言った。「あなたの父親と同じね。絶対に本心は見せないっていう意志の強さがあるのよ。だから、この人の心を読むには、この人の頭部に直接触らないと......」
    「この場でそんなことをすれば、不自然だ。かえって警戒させることになるから、やらなくていいよ」と、タケルも心の内で思って、レーテーに読み取ってもらった。
    国造が口を開いたのは、そんな時だった。
    「実はタケル様にお願いがあるのです」
    「なにか?」と、タケルは答えた。
    「この先の野原に、荒ぶる神と化した大猪(おおいのしし)がいるのです」
    「猪? 荒ぶる神と化したということは、元は神獣だな」
    「はい、左様で。そうとは知らずに猟師が矢を入り、それが目に刺さって荒ぶる神と化してしまったのです。荒ぶる神は人間を憎み、我々を襲うようになりました。どうかタケル様、そのお力で我々を御救い頂けませんでしょうか?」
    「その大猪を退治しろというのだな?」
    妖怪退治などやったことはないが、ここで断れば「大和朝廷の王子は腰抜け」だと笑い者にされるだろう。
    『いざとなったらレーテーもいることだし、引き受けようかな......』
    タケルは思うと、
    「分かった。わたしが退治しよう」と、返事をした。

    翌日、国造はタケルとレーテーを荒ぶる神がいるという野原に案内した。兵団は野営地に残してきた――相手が荒ぶる神だと、大人数で向かっては却って身動きが取れないこともあろうし、何よりレーテーが神力を使うところを見られてはいけない。
    それなのに、タケヒコが走って追いかけてきたのだった。
    「やはり、わたしもお連れ下さい。オトタチバナ様と二人だけでなど、危険すぎます」
    来てしまったものを追い返すのも不自然なので、タケルは同行を許した。
    そして、野原に着いた。
    「あっ! 居ました! あれでございます!」
    国造は遠くの方を指差した――そこに、何かがうずくまっているのが見えるが、なにしろ遠くの方なので、それが猪なのかどうかまでは分からない。
    「どうやら、こちらには気付いていない様子。タケル様、今が好機でございます」
    国造が言うので、確かにそうだと感じたタケルは、弓に矢をつがえた。
    目を凝らして良く見ると、確かに大きな猪に見える。それの眉間を狙って、タケルは矢を放った――すると、矢は見事に命中した。
    が、大猪はピクリともしなかった。
    不思議に思ったタケルたちは、その大猪に近付いた。すると、
    「タケル様、これは!?」と、タケヒコが驚いて言った。「これは、大猪の形にそっくりな、ただの岩でございますぞ」
    その通り、遠目で見ると大猪に見えたが、たまたまそんな形をしている大きな岩だった。眉間にあたる所にタケルが放った矢も刺さっている。
    「むしろあの距離で、こんな岩に矢を刺すことができるなんて、流石ね!」
    と、レーテーが感心した時だった。
    焦げ臭い匂いが漂ってきた。
    「なに? この匂い......」
    レーテーは周りを見回して、驚いた。「タケル! 見て!」
    タケルたちを囲うように、火が近付いて来ていた。いつの間にか国造はいなくなっている......。
    「だまされたか......」と、タケルは言った。「初めからここで、わたしを殺すために一芝居うったのだな、あの食えない男め!」
    「そんなことより、逃げましょう!」と、タケヒコが言ったが、火は四方から近寄って来ていた。逃げ道など無い。あるとすれば上――空を飛んで逃げるしかない、が。
    『タケヒコの前でレーテーの力を使うわけにはいかない。やはり追い返すべきだったか......どうする?』
    手短な神頼みが駄目だとすると......タケルは遠くの神頼みを思い出した。
    ヤマトヒメにもらった物の中に、困った時には開けるように言われた小袋がある。タケルはそれを思い出して懐から取り出した。
    開けてみると、火打石が入っていた。
    『火に囲まれている状況なのに、さらに火打石って......あっ、そうか!』
    タケルは名案を思い付いた。
    「タケヒコ! 草を刈れ!」
    「ハッ?」
    「いいから! この周りの枯草を刈ってしまうのだ!」
    タケルも剣を抜いて、一気に草を薙ぎ払った。新春とは言え、まだ北の方のこの地は冬が明けておらず、草は乾燥していた。切るのはとても簡単だが、火が付けばすぐに燃え出すのもまた特徴である。だから急がなければならない。
    「オトタチバナはここで避難していろ」
    と、タケルはレーテーを岩の上に抱き上げて乗せた。「大丈夫だ、わたしに任せろ」
    「ええ、信じてるわ」
    レーテーの微笑みを受け取ると、タケルはまた草を薙ぎ払い出した。そして、岩の周辺だけ草を刈り取ると、火打石でこちら側からも火をつけるのだった。
    「タケル様!? 何を!?」と、タケヒコが驚くと、
    「これで良いのだ。おまえも岩に乗れ!」
    と、タケルは先に岩に飛び乗った。
    タケヒコも言われるままに岩に乗ると、足下には刈り取った草の残りに火がついて燃え広がった。
    「タケル様、これでは......」
    「いいのだ。先にこちら側の草を燃やしてしまえば......」
    タケルが説明しようとすると、急にレーテーが咳き込みだした......煙が喉に入ってしまったのだ。
    「大丈夫か、オトタチバナ......」
    タケルがレーテーの背を撫でてやると、髪の色が少しずつ亜麻色に変わり始めた。
    苦しさのために、変化の術を保てなくなっていたのだ。
    「駄目だ! 気をしっかり持て!」
    レーテーもそうしたかったが、無理だった――レーテーはすっかり、元の姿に戻ってしまったのだった。

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