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from: エリスさん
2014年10月03日 11時31分52秒
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白鳥伝説異聞・33
レーテーは尾張の国造の屋敷の傍まで来ると、地上に降りて翼を髪に戻し、オチタチバナヒメの姿に変じた。
そして屋敷の門の前まで来ると、中に聞こえるように言った。
「誰かある! お尋ねしたきことがあります!」
その声に反応して出てきたのは、ミヤズヒメと数人の侍女だった。
「まあ! 間違いない! あなたはオトタチバナヒメ様。御無事だったのですね」
ミヤズヒメが言うので、レーテーは、
「やはり、タケルは私のことを死んだと思っているのね」
「ひと月も経っているのです、無理もありませぬ。でも、本当に御無事で良かった。さあ、お入りくだされませ。タケル様たちはまた、こちらにお戻りなるおつもりですから、あなたもこちらでお待ちになれば、行き違いにならなくて済みましょう」
「そう、戻って来るの......」
ならばミヤズヒメの勧め通り、ここで待つのが賢明である。レーテーはミヤズヒメの案内で、タケルが宿泊している部屋に案内された。
部屋の中を見渡して、一つだけ奇妙なことに気が付いた。
「ミヤズ殿? タケルは、今どこにいるのです?」
「タケル様は、伊吹山(岐阜県と滋賀県の境にある山)におられます。そこに住む神様に戦いを挑むのだと仰せでした。
「神に挑むですって?」
「ええ。もはや自分に敵はいないと。相手が神だろうと成敗して見せるのだと、勇ましいことをおっしゃられておられました」
「馬鹿な!」と、レーテーは部屋の奥へと走った。
そこに、タケルがヤマトヒメから貰い受けた神剣・天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)が飾られていた。
「タケルが剣を置いていくなんて、ありえないわ!」
「私もそう思ったのですが、タケル様が――"わたしの力ならば、もう剣は必要ない。だからこの剣を預かってほしい"と......」
これらの話で、レーテーはすぐに分かった――タケルは死ぬ気だと。
『私がもう戻って来ないと思って、私の後を追うために、且つ英雄として華々しく散るために、挑まなくてもいい神への喧嘩を吹っかけたんだわ!』
「私、行くわ!」
レーテーは衝動的に部屋を飛び出していた。
「あっ、お待ちを! オトタチバナ様!」
ミヤズヒメの制止など聞く耳も持たず、レーテーは屋敷の門まで走った。そこでようやく追いついたミヤズヒメは、レーテーの袖を掴んだ。
「私、あなたに完敗いたしましたわ!」と、ミヤズヒメは言った。「あなたを失って、タケル様が半分自棄になっていたのは私も感じました。だから私、その心の弱みに付け込もうと致しましたの......でも、タケル様は私に手をお出しにはなりませんでした」
「ミヤズヒメ......」
深窓の姫として育ったはずの彼女が、そんな汚い手を使おうとは。それほど彼女もタケルを愛していたのである。
「どうか、タケル様といつまでもお幸せに、オトタチバナ様」
「ありがとう、ミヤズヒメ」
レーテーは、本当の姿に戻って見せた。それがせめてもの誠意だと思ったからだ。
「あなたにも幸福が訪れるよう、祈っているわ」
レーテーは翼を広げると、空高く飛び立った――その姿があまりにも美しくて、ミヤズヒメは跪くと手を合わせずにはいられなかった。-
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