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from: エリスさん
2014年10月31日 11時51分24秒
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伝説異聞のそのまた異聞・1
レーテーの側近としてオリュンポスに住むことになったタケルの為に、レーテーは彼女の衣食住を整えた。
先ず衣服として、オリュンポスの神々と同じくキトンを着せてみたところ、
「足もとが冷えて落ち着かないよ」
と、タケルは言った。
キトンは男物も女物もスカートである。女物の方が丈は長いとは言え、布の材質もひらひらと風に舞うような物。生まれた時からオリュンポス――ギリシアにいる者なら、そんな薄着でも大丈夫だが、タケルは幼い時から倭の男装をさせられてきた。倭の男装と言えば、足首までしっかり布が来る袴を履いている。
「タケルには今まで通りの格好をしてもらった方がいいわね」
レーテーは言うと、それまで一緒にタケルの着付けを手伝ってもらっていた侍女・エルアーの方に目を向けた。
「エルアー、この倭の服を作れる?」
レーテーに聞かれるまでもなく、タケルの服を広げてみていたエルアーは、ちょっと悩んでから言った。
「作れると思います。少々お日にちをいただければ」
「何日くらいで作れる?」
「三日......ぐらいでしょうか。なるべく急いで作ります」
「無理して急がなくていいわ。出来上がるまではタケルにはキトンを着ていてもらうから」
レーテーが言うと、タケルは、
「三日もこの格好でいさせられたら、風邪をひいてしまうよ」
「大丈夫よ。ギリシアは倭より暖かいのだから。現に私たちがこの格好で風邪なんてひいてないのですもの」
「それは、君は生まれた時からその格好だから、体が慣れてしまっているんだよ......袴だけでも、今まで着ていたのを履かせてくれよ」
「今は駄目。エルアーが同じものを作るための見本として預からせてちょうだい」
レーテーがそう言うと、
「いいえ、大丈夫ですよ」と、エルアーは言った。「大方の形は覚えました。あとは縫う際に分からないところがありましたら、拝見させていただければ......それまでは着ていてください」
そういうわけで、タケルは上半身は女物のキトンの上半分、腰から下はキトンの男物のスカートに倭の袴、という出で立ちでしばらく過ごすことになったが、その格好もなかなか似合っていた。
次に食事だが――大方の物はタケルでも食べられたが、一つだけタケルにとって苦手な物があった。それは、一番搾りのオリーブオイルである。現代でも「エキストラバージン」として親しまれているオイルだが、本場ギリシャのエキストラバージンは匂いが濃厚で、慣れていない人には辛い物があった。
「この国でもタコやイカが食べられるのは嬉しいんだけど」と、タケルは鼻をつまみながら言った。「どうして、こんな匂いのキツイ油をかけるの?」
「美味しいからよ。そんなにキツイかしらねェ」
レーテーはオリーブオイルのドレッシングがたっぷりかかったタコの切り身を口に入れた。「うん、柔らかくて美味しい」
「うん、見た目はすごく美味しそうなんだけど......」
と、タケルは鼻を摘まんだままタコを口に入れ、一口二口噛んで、言った。
「あ、美味しい!」
「でしょ?」
「でも、匂いはやっぱり駄目だ」
そこで給仕をしていたエルアーにレーテーは言った。「なんとかならないかしら?」
「でしたら、人間界で出回っている二番搾りのオリーブオイルを取り寄せてみましょう」
「二番搾り?」
「はい。神界では人間たちが奉納した一番搾りのオリーブオイルしかお使いになっていらっしゃいませんが、人間界では一番搾りを取った後、二番搾りも取っているのです。そちらはすっかり匂いも抜けているので、タケル様でもお召し上がりになられるかと存じます」
「手に入れることはできる?」
「料理長さんはもともと人間界の人ですから、頼めば取り寄せてもらえると思います」
「じゃあ頼んでもらえる? せっかくの美味しいお料理を、タケルだけ食べられないんじゃ可哀想だから」
「はい、畏まりました」
こうして食事の問題もクリアして、次は住むところだが......当然と言おうか、タケルはレーテーと同室で寝起きすることになった。
「側近がご主人様と同じ部屋に住んでていいの?」
タケルが疑問を口にしながら服を脱いでいると、
「結局は同じベッドに寝ることになるのだから、別室を用意しようがしまいが同じことよ」
と、レーテーはすっかり裸になってベッドに座っていた。「いいから、早く来て......」
「うん......」
タケルも服を脱ぎ終わると、レーテーの隣に座った。
二人はキスを交わしながらベッドに倒れ込んだ。
レーテーの白い肌と、タケルの桃色の肌が絡みあう。そしてタケルの手がレーテーの豊満な胸に触れた時、レーテーは悦楽の声をあげた。すると......。
「ねえ、レーテー」
「なァに?」
「この隣って誰の部屋?」
レーテーの部屋は角部屋だが、左側には隣室があった。
「妹のアルゴスの部屋だけど?」
「君のすぐ下の妹か。十二、三歳ぐらいに見えたけど」
「実際は十五歳よ。すぐ下じゃなくて、間に弟が二人いるけど......それがどうかして?」
「たぶん、聞き耳を立ててる......」
「ええ、立ててるでしょうね」
「気付いてたの?」
「もちろん。でも気にしないで続けて」
「気にしないでって言われても......」
「お願い......」
レーテーは媚びるような表情を見せた。「あなたが欲しくて堪らないの......」
その表情があまりにも艶っぽくて、タケルも堪らなくなった。
「手加減できないからね」
タケルが本気モードでレーテーを慈しんだので、レーテーのあえぎはその階の端の部屋まで聞こえるほど響いた。
翌朝、二人が起きて部屋から出ると、ちょうど隣室のアルゴスも洗顔のために洗面室へ向かうところだった。
「おはようございます、姉君」
恥ずかしそうに言ったアルゴスの姿は、昨日までの少女ではなく、すっかり大人の体に成長していた。おかげでキトンが超ミニスカートになっている。
「それじゃお辞儀をした時に、下着が丸見えになるでしょ? 私の服を貸してあげるわ」
と、レーテーは微笑んだ。
「はい、お願いいたします、姉君」
「ちょっと待っていて」
レーテーが一端部屋の中に引っ込むと、アルゴスはタケルに言った。
「あの......あなたは本当に女性でいらっしゃるのですよね?」
「如何にも。この通り、胸があるでしょ?」
もとより胸の谷間が見える作りになっているキトンを、さらに肌蹴させてタケルは見せた。
「でも、姉君はあなたのことを殿方として愛していらっしゃる」
「男として育てられましたから。でも今は、素に戻って女になったわたしのことも、愛してくれていますよ」
「羨ましいです......」
「だったら!」と言いながら、レーテーが出てきた。「あなたもそんな相手を見つければいいのよ。はい、私の服」
レーテーはアルゴスの手にキトンを押し付けた。
「わたし達はあの不和女神エリスの子よ。恋愛対象が同性になろうが、何も恥ずかしがることなんかないのよ」
「......」
アルゴスは服を受け取ると、黙って部屋の中へ戻っていった。
「あの子ね、初恋相手が女の子なのよ」と、レーテーは言った。「でもそれはいけないことだからって、自分から諦めて、それ以降誰とも恋をしていないの」
「まあ、分からなくはないけど」
「そうね、私も分かるけど......でも、私はあなたに出会ったわ。だから、同性愛なんか少しも恥ずかしくなくなったわ」
レーテーはそう言って歩き出した。「それはともかく、これで分かったことがあるわ」
「何を?」と、後を追いながらタケルは言った。
「成長の止まっていた妹たちを、大人にする方法よ」-
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