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from: エリスさん
2015年01月16日 12時06分58秒
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悠久の時をあなたと・1
冥界の最下層、奈落の底のことを「タルタロス」と言う。そこに、一柱の男神が幽閉されていた。
冥界の王ハーデースはその彼を訪ねて、タルタロスまで三日かけて降りてきた。
「父上、ご機嫌いかがですか?」
ハーデースに声を掛けられて、それまで闇の中の、一筋だけ流れてくる光を見上げていた彼は、振り返った。
「おお、ハーデース。久しいな」
「ご無沙汰をしております、父上。お変わりはありませんか?」
「この通りだ」と、彼は微笑んだ。「そなたこそ、変わりなさそうだな」
「今のところは......」
「今のところ、とな?」
彼は、息子が何か含んだ言い方をしたので、そう聞き返した。
ハーデースは答えた。「近々、エリスが帰ってきます」
「エリス? あの、ニュクスの娘か?」
「ヘーラー姉上の娘でもあります」
「そうそう、ヘーラーが養女にしたのだったな......つまり、わたしにとっても義理の孫にあたるのか」
「はい」
「不思議な縁(えにし)だな......エリスが帰ってくるということは......」
「はい。近く、世界に変革の時が訪れます。そうなれば、我ら神々もどうなるか分かりません」
ハーデースの言葉に、彼は黙って頷いた。
「父上、そろそろ母上にお会いになられては如何ですか?」
「......わたしは、罪人だ」
「その罪はとうに消えております。あれから悠久のような時が流れ、もはや父上はここをお出になっても宜しいのです。その証拠に......」
ハーデースは彼の手を握った。
「ここに落ちた時のような霊体ではなく、父上はすでに実体を取り戻されている。それは神に戻ることを許されたということです」
「......そうだな......そうなのだろう」
と、彼はハーデースの手を離すと、一筋の光の方へ近づいた。
「いつからか、日の射さぬはずのこの奈落に、一筋の光が降りてくるようになった。きっと、あの光に触れれば、わたしは地上に帰れるのだろう。だが、わたしは怖いのだ」
「怖い? 何を恐れておいでです」
「また、彼女を傷つけてしまうかもしれぬ」
「そのような......父上、あの光こそ、母上の御心なのですよ!」
その言葉に、彼はまたハーデースの方を振り返った。「あの光が?」
「そうです。母上が、父上にお戻りいただきたい――父上にお会いしたい一心で、日々祈り続けたからこそ、このような不思議な現象が起きているのです」
「そうか......これは、彼女が起こした奇跡だったのか」
彼は、それは愛おしそうに、一筋の光を見上げた。
「ああ、わたしも......彼女に会いたい。そなた達の母に......かつてはわたしの姉でもあった、愛する妻に......」
「父上、では......」
「......そう、だな......」
それは、遥か遥か昔のこと。
オリュンポス神界はまだ女神ガイアが束ねていた。
ガイアの娘・レイアーは、もうすぐ十七歳になろうとしていた。蝶よ花よと育てられた彼女も、そろそろお年頃となれば、オリュンポス中の男神から「妃に」と望まれていた。それらをレイアーは光栄に思いながらも、すべて丁重にお断りしていた。
求婚者の中には誰一人、レイアーが心をときめかすような相手が見つけられなかったのである。
それに、自分はまだ若い上に、女神はある程度年を取ったら、もう容姿が老けることもないことも知っていた。だったら、まだまだ青春を謳歌してからでも、結婚は遅くないと考えていたのである。
そんなレイアーの気楽さが打ち破られたのは、思いもかけないことからだった。
母・ガイアが、自分の産んだ子供たちを急に呼び集めたのだった。
「我が子供たちよ! 聞いておくれ! そなた達の父は、そなた達の同胞(兄弟)を地の底へ押し込めた!」
ガイアの言葉に、子供たちは誰もが動揺した。
「そして、この先も、これから生まれてくるそなた達の同胞は、すべて地の底へ落とすと言っている。誰か、この極悪非道な父親に、正義の鉄槌を食らわしておくれ!」
「ちょっとお待ちください、母上!」
そう言ったのは、レイアーの一つ上の姉・テイアーだった。「それだけでは、私達は理解できません。ちゃんと初めからお話し願えませんか?」
「いいでしょう。聞いておくれ。そなた達の父・ウーラノスは......」
ガイアは話し始めた......。-
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