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from: エリスさん
2015年06月05日 09時50分30秒
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悠久の時をあなたと・8
レイアーの出産の翌日、クロノスは庭園の中央に祭壇をつくり、様々な花を捧げた。
「ヘスティア―と名付けたよ」
クロノスは花を捧げ終ると、隣にいたレイアーに言った。
「死んでいたとは言え、生まれてきた子はわたし達の初めての娘――本来なら"宇宙の意志"に仕えるべき斎王(巫女)となっていたはずだった。丁重に供養して、またわたし達の娘として生まれ変わってもらおう」
「はい、あなた......」
クロノスは娘が死産だったと言う、レイアーの嘘を信じている。その遺体もないことに疑問も持たずに......それは、真実から目を背けようとするクロノスの心の弱さからなるものなのだろうか?
それでもいい――と、レイアーは思った。真実を知ってクロノスの心が壊れてしまうぐらいなら。
そして、その夜――。
レイアーはクロノスと一緒のベッドに眠っていて、突然のクロノスの悲鳴で目が覚めた。
見るとクロノスが飛び起きていて、頭を抱えながら震えていた。
「あなた、大丈夫?」
レイアーはクロノスの背を摩りながら声を掛けた。すると、クロノスはレイアーに抱きついてきた。
「レイアー、忘れさせてくれ!」
「え!? クロノス!?」
突然の行動にレイアーは戸惑ったが、クロノスにされるままに押し倒され、夜着をはぎ取られた。
「クロノス、待って! このままだと......」
子供ができてしまう――と、言おうとした口を、クロノスにキスで塞がれてしまう。
それに、言い訳など出来るはずもない。子供を作れないという理由を、クロノスに話したらそれだけでクロノスは壊れてしまうのだ。
『お母様、駄目......私、クロノスを拒めない......』
それからというもの、クロノスは悪夢を見るたびに、レイアーの魅惑的な肢体に溺れるようになった。そして三カ月後、レイアーに懐妊の兆しが現れた。
ガイアはそれを聞いて訪ねてきたが、レイアーを責めたりはしなかった。
「そなたがクロノスを拒絶できるわけがない......分かっていたことでした。こうなったからには、次こそは無事に子供が産まれて来れるように、考慮するしかありません」
ガイアはレイアーの出産に備えて、庭園の隅に頑丈な産屋を建てはじめた。その中にレイアーと助産師だけが入れるようにして、他は何人たりとも入れぬようにしたのだが......。
7か月後、いよいよレイアーが産気づいて、産屋に籠った。お産は順調に進み、レイアーは双子の女の子を出産したのだった。が......産屋の外から騒がしい声が聞こえ、そしてあっという間に産屋の壁が壊された。
壊したのはクロノスだった。その向こうに怪我をして倒れている従者や侍女たちの姿が見える。ガイアまで......。
そして、クロノスの表情は正気ではなかった。そもそも、かなり頑丈に作られた壁を瞬時に壊せるほど怪力でもない彼に、こんなことが出来ること事態が尋常ではないのだ。
「クロノス! やめてェ!!」
レイアーの叫びもむなしく、双子の赤子はクロノスに飲みこまれてしまったのである。
その途端、クロノスは気を失って倒れた。そして、目を覚ました時には、自分がしたことなど、何も覚えてはいなかったのである。
レイアーはまた、子供は死産だったとクロノスに嘘をついた。クロノスは心から悲しみ、そしてまた祭壇に花を捧げるのだった。
「ヘーラーとデーメーテール、という名を付けたよ。大丈夫、きっとこの子たちもすぐに生まれ変わってきてくれるよ。ね? レイアー」
クロノスの言葉に悲しみを押さえられないレイアーは、それでも落ち着きを保って、言った。
「あなた、しばらく子供を作るのはやめましょう」
「......なぜ?」
「きっと、こんなに死産が続いてしまうのは、私の体が未成熟だからです。私が子供を産むのに耐えられる体ではないから、死産になるのです。だから、しばらく子供を作るのはやめましょう」
「......君の体が未成熟だなんて、とても思えないよ。むしろ、原因はわたしではないだろうか」
クロノスのその言葉にドキッとしたレイアーだったが、クロノスは自分がしたことを自覚していたわけではなかった。
「わたしの体がまだ未成熟なのだ。だから、わたしの種を受け取っても、君の体の中で子供が育ちきれないのだと思う。だから死んで生まれてくるんだ。......そうだね、しばらく子供を作るのはやめよう。わたしの体が完璧な大人の体になるまで」
しかし、クロノスの悪夢はそれからも毎夜の如く続き、その度に彼はレイアーの体で恐怖を忘れようとした。そんな時の彼に、ちゃんとした避妊など出来るはずもなかった。
レイアーは再び懐妊したのだった。-
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