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from: エリスさん
2015年07月10日 11時06分42秒
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悠久の時をあなたと・10
寝室を別にしたクロノスとレイアーだったが、クロノスの悪夢が終わったわけではなかった。
クロノスは毎夜の如く悪夢を見ては、悲鳴を上げながら跳ね起きるのだった。その悲鳴を聞きつけて、レイアーも飛び起きてクロノスの寝室へ駆けつけるのだが、寝室のドアは固く閉ざされて、中へ入ることができなかった。
「クロノス! 中に入れて!」
レイアーはドアを何度も何度も叩きながら、クロノスの名を呼んだ。だがクロノスは恐怖に声を震わせながらも、彼女を拒絶した。
「駄目だ! レイアー、入って来るな! 君が入ってきたら、またわたしは、恐怖を忘れたいがために君を抱いてしまう!」
「それでいいのよ!」と、レイアーは言った。「あなたが、ほんの少しでも恐怖を忘れられるなら、私を慰み者にして!」
「駄目だ!!」と、クロノスは凛として言った。「もう君に、悲しい思いをさせたくないんだ!」
「クロノス......あなただけを苦しみの闇に閉じ込めておけと言うの?」
そんな夜が幾夜も続いた......。
智恵の女神メーティスがレイアーのもとに行儀見習いとして参上するようになったのは、ちょうどその頃だった。実年齢は4歳だが、見た目はすでに17、8歳ぐらいに成長していた。レイアーの弟妹であるオーケアノスとテーテュースとの間に生まれた娘である。
メーティスは初めてクロノスを遠くから見かけた時、一緒にいたレイアーに言った。
「どうして神王の胃の中で、小さな男神と女神が連なって、胃壁にしがみ付いているのですか?」
この言葉に驚いたレイアーは、メーティスを人気のないところへ連れ行き、先ほどの言葉の意味を聞いた。
「意味も何も、そのまま申し上げました。陛下の胃の中で、小さな男神と女神がしがみ付いているのです。必死に胃液の中に落ちないようにと、頑張っているのでしょう」
「あなたにはそれが見えるの?」
「はい。私にはわずかですが、透視能力があるのです。......それから......」
「なに?」
「王后様も懐妊しておられますね?」
え!? っと驚いたレイアーは「まさか!」と叫んだ。
「間違いないと思います。王后様のお腹の中から、別の神力を感じるのです」
そんなはずはない――自分はクロノスと臥所を共にしていない。だから妊娠できるはずがないのだ。しかし、メーティスの特殊能力を信じたい気持ちもあったレイアーは、すぐに母・ガイアのもとへ相談に言った。
ガイアもレイアーの腹に直接手を触れて、中に新しい命が宿りつつあることを知った。
「なるほど......そうゆうことか」
ガイアはため息を付きつつ言った。「レイアー、そなたはやはり、私に一番似ているのかもしれない」
「どうゆうことです?」
「そなたも知っていると思うが、私はウーラノスと結婚する前は、一人で子供を作り産んでいたのだ。それが大地の女神として私に与えられた能力――単身出産能力です」
「単身出産!?」
レイアーはクロノスに会いたい、触れたい、という気持ちが折り重なって、想像で子供を作ったのである。人間だったなら「想像妊娠」で済むところだが、女神は想像を現実にしてしまう力を持っている。クロノスの対策はまったく無駄で終わったのだった。
「今度こそ、子供を無事に産ませましょう」
ガイアは、レイアーにこの最果てに移ってくるように勧めた。
「クロノスには行き先を告げるでないぞ。とにかく、王宮を出るのだ!」
「クロノスと別れろと言うのですか?」
「子供が産まれるまでの間だけだ。幸い、クロノスはそなたが妊娠したことなど知らぬ。想像もできないであろう、臥所を共にしていなかったのであれば! だから何とでも理由を付けて、子供が産まれるまでクロノスから身を隠すのだ!」
子供が産まれるまで約10か月間――その間だけなら、クロノスと会えなくても我慢できる。――そう思ったレイアーは、決心した。
「分かりました。しばらく、お母様のもとにご厄介になります」-
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