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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2015年08月21日 10時45分29秒

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    悠久の時をあなたと・13

    レイアーがガイアのもとに身を寄せてから、早10カ月が過ぎた。レイアーのお腹もすっかり大きくなって、もういつ生まれてもおかしくない状態だった。
    鉄鉱石を託されたキュクロープス兄弟の方も、ようやく鉄鉱石から魔力を持った鉄を取り出すことが出来た。かなり量は少なかったが、その少ない量でも強烈な魔力を持っていたので、二人はそれに普通の鉄を混ぜて、魔力を和らげる工夫を研究し始めた。――それは、出来ることならクロノスを殺したくない、という二人の思いだったのかもしれない。
    そんなある日、レイアーは社殿の最上階に来て、風にあたっていた。故郷のエーゲ海の潮風が一番好きだが、最果ての海から吹きあがってくる風も心地よくて、レイアーを和ませてくれた。
    もうすぐ生まれてくる胎児が、お腹の中で元気よく動いているのが分かる。
    「よしよし......あなたもいずれ見られるわよ、この海が......空も、山も、他の子たちには見せてあげられなかった全てを、あなたには絶対に見せてあげる」
    その時だった。
    「そうだね。その子には絶対に見せてあげよう」
    どこからか声がする――それは、クロノスの声だった。
    レイアーは急いであたりを見渡した。だが、どこにもクロノスの姿はなかった。
    「探さないでくれ。わたしからは君のことが良く見えるよ、レイアー」
    クロノスの声は反響して、レイアーには彼がどこにいるのかがまったく分からなかった。
    「お願い、クロノス! いるのなら姿を見せて! あなたに逢いたい!」
    「駄目だよ......逢ってしまったら、わたしはきっと君への欲望を押さえられない。君もそうだろ?」
    「......ええ、そうね」と、レイアーは言った――自分もきっと、お腹に子供がいることなど忘れて、クロノスに抱かれることを望んでしまう。そんなことをすれば、この子は流産してしまうかもしれない。
    「この子が無事に生まれて来るまでは、私たちは直接逢わない方がいいのね、クロノス」
    「ああ、そうだ。だが......どうしても、君の姿が見たくなってしまって、こうして来てしまったんだ。許してくれ......」
    「許すだなんて。嬉しいわ、こうしてあなたの声が聞けるだけで。それに......あなたは怒ってはいないの?」
    「怒る? どうして?」
    「だって、この子はどう考えても、あなたとの子ではないのに。私とあなたは臥所を別にしていたのだから」
    「だからと言って、他の男の子供でもないのだろ? 君が母上の能力を受け継いでいると考えれば、その子は君が一人で宿した子だと言うことは、簡単に想像がつく。だったら、君の産む子はすべて、夫であるわたしの子供だよ」
    「クロノス......」
    レイアーはその言葉をとても嬉しく思った。
    「ありがとう、クロノス。そう言ってもらえて、きっとこの子も喜んでいるわ。でも、私はお母様のもとにいることを内緒にしていたのに、どうしてここにいるって分かったの?」
    「分かったと言うか、他に思い当たらなかったんだ。君が身を寄せられるような所は、そんなに多くないから」
    「それもそうね」と、レイアーは笑った。
    「だからレイアー、お願いだ。その子を産むときになったら、いやその前に別の場所に移ってほしい。またわたしが正気を失って、その子を食べに来てしまうだろうから、わたしも予想がつかないところへ逃げてくれ......」
    「ええ、心得たわ。あなたが決して見つけられないようなところへ、姿を隠します」
    「......じゃあ、わたしはこれで......」
    クロノスが行ってしまおうとするので、
    「待って!」と、レイアーは咄嗟に言った。「お願い、ほんの少しだけでいい、あなたの温もりを感じたいの! ほんの少しでいいから!」
    すると、レイアーが立っているすぐ横の壁から、レンガが一つ抜かれた。そこから、クロノスの右手だけが出てきた。
    「ここだよ、レイアー」
    「ああ、あなた......」
    レイアーはその右手を両手で包むと、そっと頬ずりをするのだった。
    「ありがとう、今日は来てくれて」
    「わたしこそ。こんなわたしをまだ愛してくれていて、嬉しいよ」
    クロノスの手が引っ込められて、彼が遠ざかって行くのを感じる。レイアーは、今にも隣室へ行って彼を追いかけたいのを、必死に堪えていた。
    彼もお腹の子が生まれて来るのを望んでくれている。だから、無事にこの子が生まれて来るまでは、自分は"女"でいることを忘れ"母"であろうと心に決めたのだった。

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