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from: エリスさん
2015年08月28日 10時40分00秒
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悠久の時をあなたと・14
レイアーの陣痛は突然やって来た。
だが、前もってガイアたちが打ち合わせをしていたので、皆の行動はスムーズだった。先ず、大洋の神でありレイアーの兄であるオーケアノスが、大きな貝の舟にレイアーを乗せて、クレーター島へと連れて行った。そこで待ち構えていた智恵の女神メーティスと島の精霊(ニンフ)達がレイアーを洞窟へと運んだ。洞窟でのお産はレイアーの陣痛の苦しみも、赤子の産声も外に漏らすことなく、無事に男の子を出産することができた。
本土にてクロノスの対応に当たっていたガイアも、赤子が生まれた頃にはこちらに駆け付けることができた。元気な赤子を抱きかかえることが出来て、ガイアも満面の笑みをこぼした。
「ようやく念願の跡継ぎが生まれました! あとはこの子が成人してくれれば......」
クロノスを倒し、彼の悪夢を終わらせてくれる――そう思ったが、ガイアはそれ以上は口にしなかった。
レイアーはまだ息を切らして横たわったままだったが、気になってガイアに聞いた。「クロノスは?」
「今はオーケアノスが対応してくれている......最初は我が屋敷に来たのだが、そなたが居ないとすぐに気付いて、海を泳ぎ出したのだ」
「泳いで!? ここまで来るつもりなのですか?」
「そうならないために、大洋の神であるオーケアノスが事に当たっておる。心配はいらぬ」
ガイアは言うと、赤子をレイアーに抱かせた。
「しばらく会えなくなるのだ。しっかりとこの子を抱いておやり」
「はい、お母様」
レイアーは赤子に頬ずりをしながら、しばらく抱きしめていた。そして、島の精霊たちに託した。
「頼みましたよ。くれぐれも、クロノスに見つからないように」
「心得ました、お后様」
こうして生まれた赤子こそ、後に全ギリシアを支配することになるゼウスである。ゼウスはクレーター島の精霊たちの手によって、そして雌山羊・アマルテイアの乳によって育てられるのである。
レイアーの体調も整ったところで、ガイアは産着に包まれた物を渡した――それは、赤子の大きさと同じぐらいの石だった。
「これを持って居城に戻りなさい。きっと気が立っているクロノスには、これが赤子に見えるはずですよ」
「分かりました、お母様」
我が子を守るために夫を騙す――それが母親というものなのだろうか? と、レイアーは思った。だが、どんなことをしても子供を守ると誓ったレイアーには、もう躊躇いはなかった。
来た時と同様、大きな貝の舟に乗って本土に戻ってきたレイアーは、海岸で倒れているクロノスを見つけた。
まだ悪夢の影響で気が立っているだろうか? そうっと近付いて見下ろすと、クロノスは気が付いて、レイアーにニコッと笑いかけた。
「やあ、無事に生まれたようだね」
「クロノス、どうしてこんなところに居るの?」
レイアーはクロノスの傍に座り、起き上がった彼の体から砂を落としてあげた。
「海を泳いで君の所に行こうとしたらしくて......あまり覚えてないけど。でもそれを、オーケアノス兄上が波で押し返してくれてたみたいだね。それで体力を使い切って、こうして気絶していたわけだ」
クロノスは自分でも砂を叩き落としながら、レイアーの腕の中にある物を見つめた。
「その子、動かないんだね。眠ってるの?」
「あっ、そう......眠っているのよ」
「ふうん」と言うなり、クロノスはそれを取り上げた。その素早い動きにレイアーは抵抗もできなかった。
クロノスは取り上げたものの産着を剥がし、それが石であることを見破って見せた。そして、神力でそれを小さくして、口の中に放り込んだのだった。
レイアーが呆気に取られていると、クロノスはまたニコッと笑った。
「帰ろうか、わたし達の家に」
「......ええ、あなた」
騙すつもりだったのに、騙せなかった。それなのに、夫は嘘に乗っかって、赤子の代わりの石を飲んで見せてくれた。
それはすべて、レイアーへの愛だと、レイアーにも分かっていた。
子供のために女であることを忘れようとしていたが、そんな愛を見せられたら、女である自分に戻りそうで、怖かった......。-
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