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from: エリスさん
2015年09月04日 00時12分22秒
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悠久の時をあなたと・15
レイアーが居城に戻ってから、かれこれ三カ月が経とうとしていた。
クロノスの悪夢は相変わらず続いていたが、その悲鳴がレイアーに届くことはなかった。何故ならクロノスはレイアーが居なかった間に地下室を作り、そこを自分だけの寝室にしていたのである。だから最上階のレイアーの寝室には何も聞こえてこなかったのだ。
それでも朝になって顔を合わせた時に、クロノスが昨夜どれだけ苦しんだか、レイアーは顔色や表情で察することができた。
「いっそのこと、私以外の者をお傍に置いては如何ですか?」
レイアーが思い余ってそう言うと、クロノスは苦笑いをした。
「他の者でも同じことだよ。その者が懐妊すれば、また生まれてきた子を呑みこむことになる」
「懐妊しない者なら良いのでは?」
「どうゆう意味だい?」
「そのままの意味です。子供を受胎することのできない女性を探し出して、第二妃となされば良いのでは」
「わたしに年寄りを妾(めかけ)にしろと言うのかい?」
クロノスは呆れたように笑ったが、レイアーは本気だった。
「年寄りでなくても、若くても何らかの理由で子供の作れない女性はいます。そういった......」
「もういいよ! やめてくれ!」
流石にクロノスも怒った。自分だって女性を傍に置きたくないわけじゃない。でもそれはレイアー以外考えられない。レイアーの美しくかつ芳しい肢体に包まれるからこそ、自分は悪夢を忘れられる。だがそうすれば、またレイアーを悲しませることになる。だからこそ、自分は一人で悪夢に耐えているのに、そのレイアーに「他の女性を」などと言われては、苦労も報われない。
クロノスは朝食もそこそこに、居城を飛び出して行った。
レイアーは追わなかった――そのまま失踪するような無責任な神王でないことは分かっている。自分も言い過ぎてしまった。だから、ここはそうっとしておいてあげようと思ったのである。
クロノスが水の精霊ピリュラーに手を付けたのは、この時だった。水浴びをしていたピリュラーが、出会ったばかりの頃のレイアーに似ていたこともあり(そもそも二人の兄弟であるオーケアノスの娘なので、レイアーの姪にあたる)、またレイアーに酷いことを言われた直後でもあったので、クロノスも魔がさしてしまったのだ。ただ冷静な判断もわずかに残っており、神の姿のまま契っては悪夢の通りになって、生まれてきた子が自分を殺しに来るだろうから、絶対に自分とは分からないように、馬の姿に変じてピリュラーに襲い掛かったのである。その結果、十か月後にピリュラーは半人半馬の男の子を出産した。その子はケイローンと名付けられてケンタウロス族の一員となった。
クロノスが出掛けている間、レイアーは庭の野菜畑の世話をしていた。せめて夕食は美味しい物をクロノスに食べてもらおうと思い、収穫できる野菜を選んでいたところで、キュクロープス兄弟に声を掛けられた。
例の物が出来上がったというので、三人は場所を変えた。
レイアーの部屋に行くと、ステロペースが布袋に入った物を木の枝に吊るしてレイアーに渡した――直接手渡すとレイアーが凍傷になるからだが、長い木の枝に吊るして渡せば冷気の影響が和らぐ。実際、受け取ったレイアーは「少し冷たい」ぐらいにしか感じなかった。
袋の中に入っていた物は、鞘に入ったナイフだった。
あの鉄鉱石から取れた"力を吸い取る鉄"に普通の鉄を混ぜて力を弱め、さらに鞘に入れて危険がないように細工したのである。
「これでクロノスを刺すのね、私の子が......」
レイアーが言うと、それまでは姉上が持っていてください、とプロンテースが言った。
「ええ、そうするわ......まだまだ先の事ですものね」
クレーター島に残してきた子は、大人になるまでまだまだ年月を要する、とレイアーは考えていた。いくら神族の子供は成長が早いとは言え、成人するのには10年ぐらいはかかるものだと。
だが、ゼウスは運命を背負って生まれてきただけに特殊な子供であることを、レイアーはこの時まだ知る由もなかった。-
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