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from: エリスさん
2015年10月16日 03時22分46秒
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悠久の時をあなたと・17
メーティスが例のナイフを受け取りに来たのは、それから間もなくのことだった。
レイアーはナイフを渡す前に、メーティスに聞いた。
「決行日はいつなの?」
するとメーティスは小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、言った。
「お后様はそれをお知りにならない方が宜しいかと」
その態度にムッとしたレイアーは、それでもその気持ちを悟られないように努めながら言った。
「どうゆうことかしら?」
「お后様が決行日をお知りになってしまうと、神王様を守りたいが為に逃亡させる可能性がございます」
「そう......それは一理ありますが」と、レイアーは自分自身に嘲笑し、そして真剣な表情に切り替えると言った。
「ですが、クロノスは神王の勤めを放り出して逃げるような、そんな真似は絶対にしない人です。私が逃げろと言っても、きっと最期の日まで神王の勤めを全うするでしょう」
「そうですか......そんな方を弑し奉る(しいしたてまる。貴人を殺す)のは心苦しいですが、しかしこれは、どうしても成さねばならぬこと」
メーティスはそう言うと、右手を差し出した。
「そのナイフを渡してください、お后様」
レイアーは覚悟を決めて、ナイフをメーティスに手渡した。
それからまた何週間かが過ぎた。一向にゼウスもメーティスも姿を現さなかったが、それによってメーティスはいつその日が来てもいいように、クロノスの補佐を精一杯務めることが出来た。
そして、今年の五穀豊穣を祝う新嘗祭(にいなめさい)の日がやって来た。その日は居城に国中の男神、女神が集まることになっていた。
今年実った作物で作ったご馳走を、若い女精霊たちが醸した酒を飲みながら楽しむ。――この時はレイアーも少し油断していた。まさか、メーティスがクロノスの盃に酌をした酒の中に、薬が入れられていたことなど思いもせず。
クロノスは激しい吐き気をもよおして、先ず大きな石を吐き出した。――その石はゼウスの代わりにクロノスが飲みこんだ石だった。
もしや、と思っているうちに、クロノスは次々と吐き出した。二人の男の子と三人の女の子を。
「やった! とうとう出られた!」
男の子の一人が歓喜の声を上げていると、水瓶を持ったゼウスが走って来た。
「兄上たち、御無事で! さあ、この水を被ってください!」
胃液にまみれた兄弟たちに、ゼウスは「いくらでも水が出て来る魔法の水瓶」で水を掛け、洗い清めてから服を着せた。
その間クロノスは、薬の作用が強すぎて床に倒れて悶絶していた。
レイアーはこの時、クロノスを助け起こしたい気持ちを我慢して、汚れた姿で、しかも裸で救助された娘たちを憐れんで、すぐに侍女を呼び寄せた。
「姫君たちを湯殿へ連れて行って。私は着替えを用意します」
そしてすっかり身支度を整えた男の子たちは、まだ苦しんでいる父親に向かって刃を向けた。
「よくも僕たちを、よりによって胃の中になど閉じ込めてくれましたね!」
そう言った栗色の髪の少年は、手にした鉾の刃先をクロノスの首の下に当てた。
するとクロノスはフッと微笑み、
「ポセイドーン......」と言った。
「なに?」と少年が聞き返すと、
「そなたの名だ、ポセイドーン。我が4番目の子にして長男。そして、そっちの黒髪のそなたは、我が5番目の子にして次男のハーデース。そして......」
クロノスはゼウスに目を向けた。
「我が末子にして三男のゼウス――髪がレイアーと全く同じ色の金髪。間違いない。わたしはそなたに殺される運命だ」
クロノスはポセイドーンの鉾を素手で掴むと、払いのけた。その反動でポセイドーンがひっくり返ると、クロノスは言った。
「まだポセイドーンとハーデースは外界に出て来たばかりで、力も弱かろう。それに比べてゼウスよ。そなたは歳の割に筋肉質のようだな」
「当然だ!」と、ゼウスはナイフを向けた。「あなたに勝つ! ただそれだけのために、この体を鍛えてきたのだ! そして、このナイフさえあれば!」
「そんな小さなもので、わたしを殺せると?」
「ただのナイフじゃない! このナイフの威力、とくと味わえ!!」
ゼウスはクロノスの胸倉を掴むと、彼の左胸にナイフを突き刺した......。-
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