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from: エリスさん
2015年11月06日 05時41分28秒
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悠久の時をあなたと・20
それから時は移り、西暦2000年を迎えた。
冥界の最下層・タルタロスにいるクロノスは、地上の方が騒がしくなっているのを微かに感じ取っていた。
戦争とやらが起きているのだろうか......と、クロノスは察した。
それから三カ月、騒がしさは続いた。ハーデースが訪ねてきたのは、ようやく地上が落ち着いたころだった。
「父上は今、時が止まっていることを認識しておいでですか?」
ハーデースの問いに、クロノスは首を振った。
「ここにいると元より、時の流れなど感じないものだが......今、止まっているのか?」
「はい、ある人間の力によって」
「人間の?」
「ご説明しましょう。先ず、不和女神エリスが帰って来たところから......」
罪を償うという名目で、エリスの魂は人間界に転生していた。その間、エリスの本体は宇宙空間で"宇宙の意志"に守られていた。そして1999年の夏、エリスは人間界での修行を終えて自身の本体に戻って来たのだが、目覚めるまでに時間を要し、その間にエリスの本体から不和のオーラが放出され、人間界に降り注いだ。
ただでさえ負の感情を持つ人間が増えていたところに、エリスの不和のオーラが降り注いだおかげで、それらの感情が凝り固まって怪物が生まれた。
初めは各地の軍隊がその怪物に立ち向かっていったが、それが兵器ではどうにもできないものだと分かると、霊能力者たちが戦いの先頭に立つようになった。
特に日本の霊能力者たちの活躍は目覚ましかった。何故ならその中に、エリスが人間・片桐枝実子として育てた運命の女・三枝レイがいたからである。その三枝レイを補助する運命を負った高木(旧姓・北上)郁子は、自身が所属する大梵天道場と、祖母の実家である片桐一族を率いる形で応戦した。
その戦いは一進一退を繰り返し、もはやこれまでかと追い詰められたとき、片桐一族の一人・崇原(旧姓・紅藤)沙耶が眠っていた力を開花させた――時間が止められ、その止まった時間の中で動ける人間は、三枝レイと高木郁子、そして沙耶の夫の崇原喬志と、郁子の妹分の黒田建だけだった。
「この止められた時間の中で、彼らは怪物を消滅することができるでしょう。それまでの間に、止められた時間の中でも動ける我々は準備をしなければならないのです」
「準備とは?」
「"宇宙の意志"がおっしゃられたのです。人間界の戦いに神は手出し無用だが、この戦いで汚染された地球を浄化するのは神の役目だと――各地の神々が集まり、協議した結果、古い世代の神がこの地球を浄化する為に神力を放出することに決まりました」
そうハーデースが言うと、クロノスは言った。
「つまりそれは、死ぬと言うことだな?」
「父上の時と同じですよ。神力を失いますので、この体は保っていられない。魂だけとなって次の転生を待つことになります」
「その犠牲となる神の中に、レイアーは入っているのか?」
「もちろん。母上も古い神の一人です。このギリシアでは、ゼウスを筆頭とした世代までが、この身を地球に捧げます」
「では次の統治者はゼウスの息子の誰かか?」
「娘ですよ。ゼウスとメーティスの間に生まれたアテーナーが次の神王になります」
「"宇宙の意志"の斎王になっていた娘か......そうか、世代が代わるのだな」
「父上......この時を逃すと、母上と会う日がまた遠のきます。どうか勇気を出してください。あなたはもう許されているのです!」
「......分かったよ、ハーデース」
クロノスは、このタルタロスに差し込む一筋の光の方を向いた。
「レイアーに会いに行こう、この光を辿って......」
クロノスは光の下へ立った。すると、その光に導かれてクロノスの体が浮かび上がった。クロノスを包み込んだ優しい光は、彼を地上へ、そして天空へと連れて行った。
クロノスが着いたそこには、ギリシア中の神々が集まっていた。それぞれに別れを惜しんで、涙を流している者も大勢いた。
その中でゼウスがアテーナーに言った。
「後を頼むぞ、アテーナー。おまえなら立派に女王として、この世界を守ってくれると信じている」
そしてヘーラーは、アテーナーの隣に立つヘーパイストスの手を取りながら言った。
「あなたもアテーナーの良き夫として、彼女を支えていくのですよ」
「はい、母上」と、ヘーパイストスは言った。「ようやくこの長き恋が実ったのです。パラス(アテーナーの幼名)のことはわたしが全身全霊をかけて守ります」
「わたし達からも頼んだぞ、ヘース(ヘーパイストスの愛称)」と、プロンテースが言った。「おまえ達のことは、どこからでも見守っているからな」
「プロンテースおじさん、ステロペースおじさん......」
その時だった......ステロペースが気付いて、隣にいたレイアーの肩を叩いた。
ステロペースが指差した方にクロノスがいた。
レイアーは思わず駆けだしていた――神々が道を開け、彼女は一直線に夫の胸に飛び込んで行った。
「クロノス! ようやく......ようやく会えた......」
「待たせたね、レイアー」
二人は皆が見ていることなど構わず、口づけを交わした。
「わたしも君と行くよ」と、クロノスは言った。「君と一緒に、この地球に神力を捧げよう」
「クロノス......やっと会えたのに、またお別れなのね」
「大丈夫。必ず転生して、また君と巡り会うよ。その日はきっと、そう未来のことじゃない」
ハーデースがその場に辿り着いたのは、ちょうどこの時だった。彼も妻であるペルセポネーにお別れを言おうとすると、ゼウスが言った。
「ハーデース、おまえは残ってくれ」
「何故です!? 兄上。わたしもあなたの兄弟です。古い神の一人です」
「だが、わたしの娘・ペルセポネーの夫でもある。しかもおまえ達はまだ跡継ぎに恵まれていない。おまえたちの息子として転生する運命を持ったアドーニスは、まだ人間界で修行の身だ」
「しかしそれでは......」
「いいのだ。おまえの代わりに父上が来てくれると言うのだから」
ゼウスがそう言うと、目があったクロノスはニコッと笑った。
「そうしてくれ、ハーデース」と、クロノスは言った。「これから死者が大勢、冥界に降りてくる。それらをペルセポネー一人に任せるのは酷だ」
クロノスの言葉にハーデースも納得し、彼は残ることになった。
そして、時が動き出した――三枝レイ等の働きにより、怪物が退治されたのである。
「さあ、行こう!」
ゼウス達は天空を飛び立った――クロノスもレイアーと手を取り合って飛び立った。
「レイアー、約束するよ! 次に生まれ変わったら、今度こそ!」
「ええ、クロノス! 今度こそ、悠久の時をあなたと共に!」
世界各地で飛び立った古き神々が、その神力を放出して地球の大気に解けた。そしてその中の、時を司る神の力により、時間が巻き戻されていった。1999年の11月――怪物が出現する直前まで。
巻き戻されて歴史が代わったことを、人間たちは知らずにその後は平穏な日々を過ごしたのだった。-
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