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from: エリスさん
2015年11月19日 21時50分37秒
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悠久の時をあなたと・最終回
そして二〇〇五年の春を迎えた。
両性具有の英雄守護神として復活したエリスと、その正妃エイレイテュイアとの間に女児が誕生した。
エイレイテュイアの子を助産師として取り上げたキオーネーは、その子を産湯に入れながら、みるみる成長していくのに目を見張った。
「我が君!(エリスのこと) このように成長のお早い姫御子(ひめみこ)を見るのは、初めてです!」
キオーネーの言葉に、エイレイテュイアを労っていたエリスもその場へ行くと、先ほど生まれたばかりの子供は、もう産湯の中で自分の足で立っていた。
「なんと! 古代の神には生まれてすぐ大人になった者もいるとは聞いているが......」
そこへエイレイテュイアもゆっくりとした足取りで入って来た。
「私が取り上げたアルテミスは、生まれた次の日には五歳児ぐらいになって、一緒にアポローンを取り上げるのを手伝ってくれたのよ。でもこの子はそのアルテミスよりも早い......それにこの子......」
エイレイテュイアが我が子をまじまじと見ていると、その子が口を開いた。
「クロノスはどこ!」
「あっ、やっぱり!」と、エイレイテュイアは言った。「あなた、レイアーおばあ様ね」
一九九九年の聖戦の折に、地球を浄化するために犠牲になった神々は、二〇〇一年からぞくぞくと転生を始めていた。すでにこの社殿でも、エリスとエイレイテュイアの子としてヘーラーが男神ヘーラウスとして、そしてエリスとキオーネーの子として夜の女神ニュクスが転生している。神王となったアテーナーとヘーパイストストの所ではゼウスが女神ゼノーとして転生し、昨年にはヘスティア―も生まれていた。
「そうよ、私はレイアーよ!」と、その子は言った。「クロノスはどこ!」
「クロノスおじい様は、まだ転生していないわ」
「そんなことないわ! 一緒に転生させるって"宇宙の意志"が約束して下さったのですもの」
そこへ、水晶球を手に持ったヘーラウスとニュクスが走って来た。
「父様! 母様たち! 陛下から電話です!」
「陛下から?」と、エリスが水晶球を受け取ると、中にアテーナーの姿があった。かなりの薄着なのは、エイレイテュイアと同様に先程までお産をしていたからだろう。
「エリス殿、エイレイテュイアお姉様、そしてキオーネー殿。このような格好で失礼します」
アテーナーが言うので、
「こちらこそ」と、エイレイテュイアが言った。「私もお産を終えたばかりなの。アテーナーも無事にお産みになられたようね」
「ええ、お姉様。それで少々困ったことになりまして」
「困った事とは?」
「失礼ですけど、お姉様がお産みになったのは姫御子でいらっしゃいますか?」
「ええ、そうよ......あっ、もしかして!」
察しがついたエイレイテュイアは、レイアーの方を見た。
「やはりお姉様がお産みになったのは、レイアーおばあ様でいらっしゃいますか?」
「ええ! そしてあなたがお産みになったのは」
クロノスおじい様ね、と言おうとした時、水晶球の画面に一人の少年が写った。
「レイアー! 聞こえるかい!」
水晶球からの声を聞いて、キオーネーに体を拭いてもらっていたレイアーは、彼女を跳ね除けて駆けだしていた。
「クロノス! クロノス!」
水晶球に飛びつこうするレイアーに、危ないからとエイレイテュイアは水晶球を高く持ち上げた。
「アテーナー、今すぐそちらに参っても宜しいかしら?」
「ええ、どうぞ。お子様たちもご一緒に」
オリュンポス社殿へ家族全員で訪れたエリスたちは、謁見の間でアテーナーとヘーパイストスの家族に対面した。
アテーナーが産んだばかりの男児・クロノスも、レイアーと同じく三歳児ぐらいに成長していた。クロノスとレイアーはお互いを見つけると、走り寄りあい、抱きしめあった。
「レイアー様とクロノス様の恋物語は、ヘーラー母君から何度か聞いたことがある」と、エリスが言うと、
「私もよ」と、エイレイテュイアが言った。「私たち姉妹は、夫を一途に愛したおばあ様のことを、教訓としてお母様から教えられていたのよね。話して聞かせた当の本人は、覚えていないようだけど」
するとヘーラウスが母親を見上げて言った。「僕には前世の記憶がありませんから。自分が女だったってことも信じられないし、ましてや父様と母様の母親だったなんて、想像もできない」
「まあ、普通はそうなんだろうが」と、エリスは言った。「でも、この二人は覚えているのだな」
「きっと前世で交わした約束のせいね」と、エイレイテュイアは言った。「生まれ変わったら、悠久の時を共に過ごすって言う......」
「それもあるかもしれませんが......」と、アテーナーが言った。「どうも、"ソラ"(宇宙の意志のことを、斎王たちは"ソラ"と呼んでいる)の思惑が働いているようで」
「そう言えば、レイアーもそんなことを......」
彼女たちには以前から大きな疑問があった――何故、ゼウスが女として転生し、ヘーラーが男として転生したのか。他の古代の神々は前世での性別通りに転生しているのに。
「前世での呪いが、再発しないように......という意図かもしれない」
と、アテーナーは言った。「前世において、クロノスおじい様は我が子に惨殺されるという呪いを掛けられていたので、正気を失って、我が子たちを呑み込んでいた。でもその呪いを成就させないために、神力を吸い取る妖刀を使ってレイアーおばあ様がクロノスおじい様を刺した。おかげで神力を失ったクロノスおじい様は霊体となり、タルタロスで安らかにしていらした」
アテーナーの言葉で、エイレイテュイアも察しがついた。「つまり、成就されなかった呪いが、まだ生きているかもしれないのね」
だからこそ、クロノスとレイアーよりも先にゼウスやヘーラー達が生まれていなければならなかったのだ。クロノスが先に生まれていては、また後から生まれてきたゼウス達に害をなすかもしれない。更にゼウスが女として生まれていれば、王位を狙ってクロノスに刃を向ける可能性も低くなる。
「そうなれば、ここで確約をしておきましょう」と、アテーナーは言った。「エリス殿、あなたの跡継ぎはヘーラウスで決まりでしょう?」
「はい、陛下」と、エリスは言った。「正妃腹(せいひばら)の長男ですから、当然の如くヘーラウスが跡継ぎです」
「では、ヘーラウスに我が娘ゼノーを、正妃としてもらっていただきたい」
「え!? よろしいのですか?」と、エリスは聞き返した。「ゼノーは陛下のご長女ですから、斎王(宇宙の意志に仕える巫女。神王の長女が就くのが慣例)にならねばならないのでは?」
「斎王には前世でも就いていたヘスティア―を、と"ソラ"にもご指名いただいた。だからゼノーはヘーラウスに貰っていただきたいのです」
「分かりました」と、エリスは微笑んだ。「願ってもない良縁です」
「従って、クロノスが我が跡継ぎとなります。そして、その正妃としてレイアーをいただけないでしょうか」
「これもまた、願ってもない良縁です」と、エリスは言った。「この二人なら、比翼の鳥のようにお互いを助け合って、仲睦まじい夫婦となるでしょう」
この後、クロノスとレイアーはすくすくと成長し、五年後には成人となった。そして晴れて王太子に任ぜられたクロノスの元に、レイアーは正妃として輿入れしたのだった。王太子のために用意された宮殿には広い庭があって、そこで二人は昔のように、公務の合間を縫っては畑や花壇などのガーデニングを楽しんだ。もちろんそれらに使う道具は、クロノスの弟として転生したプロンテースとステロペースが作ったものであった。
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