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from: エリスさん
2015年11月27日 02時47分27秒
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ギリシアの蜜柑の樹・1
アポローン神の所領であるデーロス島には、一本の異国の樹がある。その樹の名を「非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)と言った。
この樹はもともと、ギリシアに亡命してきた倭国の神・倭建命(やまとたけるのみこと)が、部下の体を治す薬をアポローンから貰い受ける際、お礼として非時香菓の種を渡したのだった。
アポローンはその種を娘のシニアポネーに託した。シニアポネーは森の精霊として育てられたため、植物を育てるのは得意だったのである。
シニアポネーが種を蒔き、それはすくすくと成長して、翌年には見事な実を実らせるようになった。
しかし倭国の土壌とはやはり違いがあったのか、不老不死の妙薬となるはずのその実は、せいぜい長寿を保つほどの効能しか持っていなかった。
とはいえ効能と引き換えに手に入れたものがあった。
「うん、甘くて美味いな」
味見をしたアポローンが言うと、隣に立っていたシニアポネーはニコッと満足そうに笑った。
「育てた甲斐がありましたわ、お父様」
「不老不死の力はないが、神酒(ネクタル)の代用品ぐらいにはなるだろう。毎日のように神酒を作らなければならないへーべー(青春の女神)の負担を軽くしてやれそうだな」
「早速お届けに参ります。今日はアルゴス社殿に出仕する日ですもの」
シニアポネーはオリュンポス神界の王后・ヘーラーに仕えていた。元はアルテミス女神に仕えていたが、アポローンの側近・ケレーンと結婚したことを機に配置換えとなったのである。
シニアポネーは籠に一杯の非時香菓を詰めて、アルゴス社殿へ参上した。先ずは主人であるヘーラー王后に見せると、あまりにも美味しそうな匂いを発していたので、ヘーラーは思わずニッコリとした。
ヘーラーによって呼び寄せられた娘と孫たちも、ありがたくその実を食べ始めた。先ずへーべーが言った。
「若さを保つだけなら、この実で十分補えますわ。むしろ、この実を使ったお酒を造るという手もありましてよ。シニアポネー、この実を少し私に分けてくれないかしら?」
「はい。明日にはご献上致します」と、シニアポネーは言った。
そしてそこにはヘーラーの孫のレーテー女神と、今はレーテーの側近となったヤマトタケルも来ていた。タケルは表向きはレーテーの側近なので、主人と一緒に頂き物を食べるわけにはいかなかったが、レーテーがこっそりタケルの口に一切れ入れてやると、その甘さにびっくりした。
「すごい!」と、思わずタケルが口にすると、皆が一斉に振り返った。
レーテーとタケルが恐縮していると、シニアポネーが微笑んで、言った。
「いいのです。率直な意見を聞かせて、タケル殿。本物のトキジクノカグノコノミを食べたことがあるのは、あなただけなのだから」
「恐れ入ります」と、タケルは言った。「正直、この実がここまで甘くなるとは思ってもみませんでした」
「日々、甘くなるように、食べやすくなるように、と樹に声を掛けてやりながら育てましたので、こうゆう結果になったのでしょう。そのことには満足しているのですが......」
シニアポネーは籠の中の実を一つ手に取った。
「死者を蘇らす力は宿らなかった。それだけが残念です」
するとヘーラーは言った。「アポローンは安心していたのではないか?」
その言葉にシニアポネーは驚いた。「どうしてご存知なのですか?」
「やはりそうであったか」
アポローンが生ったばかりの非時香菓を調べている時、不老不死はもちろん、死者を蘇らせる力もないことに気付いて、落胆するところか、安堵の表情を浮かべた。それを知っているのは、その場にいたシニアポネーだけである。それなのにヘーラーは何故分かったのだろうか。
「アスクレーピオスのことがあったからな」
「アスクレーピオス?」
「知らないのも無理はない。そなたが生まれる前に死んでしまった、そなたの異母兄だ」
その子は、アポローンと人間の娘との間に生まれた.........。-
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