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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2016年03月04日 02時05分29秒

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    2016誕生日特別企画「桜色の乙女」・1

    Bellers Formation Worldとは、淮莉須部琉が創作した世界のことである。
    そこでは彼女の執筆した小説のキャラクター達が自由奔放な生活を楽しんでいた。今日も物語とは関係のないところで、それぞれの生活を謳歌している様子......。

    〈Olympos神々の御座シリーズ・人間界の町〉の町長・片桐枝実子(かたぎり えみこ)はその日も自身の創作活動に勤しんでいた。そこへ親友であり特例で"町長の伴侶"とされた乃木章一(のぎ しょういち)が、ドアをノックしながら入って来た。
    「エミリー、お客さんが来てるよ」
    章一の言葉に、枝実子はパソコンから目を離すことなく、
    「お客? どなた?」と、聞いた。
    「乾殿(いぬいどの)だよ」
    「あら、アヤさんが?」
    そこで枝実子はマウスを操作して、パソコンのWordソフトを閉じた。
    「客間に通してくれた?」
    「もちろん。今、鍋島さんがお茶の用意もしてくれているよ」
    「すぐに行くわ」
    枝実子はパソコン用の眼鏡を外すと、章一と一緒に客間に向かった。
    客間に入ろうとすると、ちょうど鍋島麗子(なべしま かずこ)がティーセットを持って来た。
    「ありがとう、麗子さん。今日は何のお茶にしたの?」
    と枝実子が聞くと、
    「ティーポットの中はまだ空よ、エミリーさん。お湯だけ沸かしてきたの」
    「どうして?」
    「乾の町さまがそうして欲しいって仰るから」
    「お湯だけ飲むのかしら?」
    疑問に思いつつも枝実子が客間に入ると、そこには乾の町の長・北上郁子(きたがみ あやこ)がソファーに座って待っていた。
    「いらっしゃい、アヤさん。ご無沙汰だったわね」
    「ご機嫌よう、枝実子さん。ほぼ一年ぶりぐらいですね」
    自由奔放に生きているとは言っても、なかなか他の作品のキャラクターとは行き来できないものだった。
    「今日は自信作が出来上がったから、是非、枝実子さんにもお召し上がりいただきたくてお持ちしたのよ」
    と、郁子は紙袋を差し出した。
    「あら、何かしら」
    枝実子は郁子の向かい側のソファーに座って、紙袋を受け取り、中を開いて見た――紅茶の缶が入っていた。
    「我が町で生産している桜紅茶です。今年のは出来がいいのよ」
    「わァ! さっそく飲みたい!」
    枝実子はそう言いながら、紅茶の缶を麗子に渡した。
    「畏まりました」と、麗子はさっそく紅茶を淹れ始めた。
    「アヤさんの町は一年中、桜が咲いているのだったわね」
    と、枝実子が聞くと、
    「ええ。私の町は今でこそ〈芸術学院シリーズ〉に数えられてますけど、その前身は『淡き想い出』という、卒業を機に好きな人と会えなくなる女子高生を主人公とした物語でしたから、卒業シーズンになぞらえて桜が咲いているんです」
    「それで桜の特産品を作っているのね」
    「Olympos(オリュンポス)では年中オリーブが生っているのですよね? 何か特産品をお造りにならないんですか?」
    「うちのは住民が食べる分しか作ってないから......そんなに広大な土地があるわけじゃないもの」
    すると郁子はニコッと笑った。「そのうち、広い土地が割り当てられると思いますよ」
    「え? アヤさん、なにか聞いてるの?」
    ティーカップに紅茶が注がれたのは、ちょうどその時だった。すると辺り一面に桜の良い匂いが漂って、枝実子を心地よくさせた。
    「アロマ効果ね。すごいの作ったじゃない? アヤさん」
    「お褒めにあずかりまして。味も凄くいいのよ」
    「ええ、いただきます」
    枝実子はティーカップを口元に持っていき、ゆっくりとお茶を飲んだ。すると、口の中にも桜の香りが広がって、ホワッという気持ちになった。
    「ああ、美味しい。病み付きになっちゃう(^o^)」
    「良かった。またお持ちするわね」
    「ううん、買いに行っちゃう! 親戚だからって只でもらってばかりは悪いわ」
    「じゃあ、枝実子さんの町のオリーブと物々交換しましょ」
    「あっ、それいいわね」
    と、二人が笑い合った後、郁子は真顔に戻って言った。
    「うちの洋子(ひろこ)が耳に挟んだ話なんだけど......」
    「洋子って、侍従長(じじゅうちょう)の?」
    各町から一人ずつ、創造主である御祖(みおや)こと淮莉須部琉の居城に侍従を参内させているのだが、乾の町の今井洋子(いまい ひろこ)は、元は北の街のキャラクターでもあったので、侍従の中でも長に就いていた。
    「坤(ひつじさる)の町というのをご存知ですか?」
    「南西にある町ですね。元はアヤさんの町だったのでしょ?」
    郁子の物語がまだ『淡き想い出』だった頃は、彼女の町はまだ居城から見て南西――坤の方角にあったのだが、郁子が北の街の女王・佐保山郁(さおやま かおる)と、芸術の町・草薙建(くさなぎ たける)と義姉妹の盃を交わしたので、町ごと北西にある乾の町に引っ越したのであった。
    「それで坤の町は無人になっていたのですが、御祖に置かれましてはこの度、その町を枝実子さんにお与えになることをお考えのご様子とか」
    「ええ~いいのかなァ~」
    と、枝実子は露骨に嫌そうな顔をした。
    「あら、どうして?」
    「これ以上、私が出しゃばったりしたら、五大女王にますます睨まれそう......」
    五大女王とは、淮莉須部琉が昭和の時代に執筆した作品の中でも、特に有力な5人のヒロインのことである。東の街の北野真理子、南の町の武神莉菜、南東(たつみ)の街の流田恵莉、北東(うしとら)の街の水島有佐、北の街の佐保山郁の5人である。
    「そんなこと気にしなくても大丈夫ですよ」と、郁子は笑った。「枝実子さんには奥の手があるじゃないですか」
    「まあ......そうなんだけど」
    枝実子は紅茶を飲み干すと、何か思いついたらしく、郁子に言った。
    「ねえ、あなたの町の桜、見物に行ってもいい?」
    「ええ、もちろん。これからご案内しましょうか?」
    「ええ、是非!」

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