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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2014年03月21日 09時33分17秒

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    白鳥伝説異聞・21

    「母君が自らお出でになるとは思いませんでした」エイレイテュイアをタケルの私室に通すと、開口一番レーテーは言った。「一度見てみたかったのですよ、倭国を。

    「母君が自らお出でになるとは思いませんでした」
    エイレイテュイアをタケルの私室に通すと、開口一番レーテーは言った。
    「一度見てみたかったのですよ、倭国を。いずれ、エリスも辿り着くことになっている国だから」
    エイレイテュイアは部屋の上座に座った――ちゃんと正座で。(オリュンポスでは基本椅子に座るので、正座はしない)
    「その言葉と、倭国の礼儀作法はどなたから?」
    レーテーが聞くと、エイレイテュイアはニコッと笑った。
    「あなた同様、コトノハ殿から教わったのよ。この姿も彼女の二十年後をイメージして化けてみたの。どう? 誰も私をあなたの母親と信じて疑っていなかったでしょ?」
    「完璧です、母君」
    レーテーの返事に、エイレイテュイアは満足げに微笑んだ。
    「あの......それで」と、タケルが口を挟んだ。「フタヂの容体は?」
    「先程ご覧いただいた通り、もう大丈夫です」と、エイレイテュイアは言った。「長い闘病生活に出産の体力消耗が重なって、体が弱り果てていたのよ。だから妙薬だと言って、綺麗な湧き水に一滴だけネクタル(神酒)を混ぜて飲ませたの。そうしたら一瞬で治ったわ」
    「たった一滴で?」
    レーテーが驚きを隠せないでいるので、エイレイテュイアは諭した。
    「だから言ったでしょ。神が食する果実は、不死の妙薬であり劇薬。量をほんのちょっとでも間違えれば、死ぬこともできずに化け物に変化することもある。与える量を見極めるのは難しいのよ......私が自ら出張って来た理由が分かりましたか?」
    「はい。ありがとうございました......」
    レーテーがいうと、タケルも頭を下げた。「本当に、なんと御礼を申し上げたら良いか」
    「いいのですよ。娘の頼みを聞いてやるのも母親の勤め......それより、ご相談があるのですが、婿殿」
    婿――と言われて、タケルは少々照れた。
    「はっ、何でございましょう」
    「そろそろ、娘を返してはもらえませんか?」
    「え!?」
    思ってもいない言葉に、タケルは一瞬"女"に戻った。
    「母君!? どうして......」
    と、レーテーが言うと、
    「どうして、ではありません。私はあなたに旅に出ることは許可しましたが、結婚して永住することは許可しておりません」
    「そうですけど! でも、私......」
    この国で、タケルを好きになってしまった。もうタケルから離れることなんかできない......その気持ちは、口に出さなくてもエイレイテュイアには伝わっていた。
    「分かっています。ですが、あなたはオリュンポスの女神なのですよ。人間の中に埋もれて生きていくなど、もっての外です」
    「そんな!......でも以前、人間の男に嫁いだ女神がいましたよね。おばあ様(ヘーラー)のご友人で......」
    「テティスのことね......あなたがそれを語りますか」
    テティスというのは、ヘーラーが単身でヘーパイストスを産んだ時、それを面白く思わなかったゼウスがヘーパイストスを殺害しようとし、その場に居合わせてヘーパイストスの命を救った女神である。その縁でヘーラーとは昵懇になり、ゼウスの目に留まるようになったのだが、ゼウスはテティスを側室に迎えることはできなかった。それは、テティスが産んだ息子は必ず父親を超える、という予言があったからである。つまり、自分がテティスと結婚すると、生まれた息子にオリュンポスの王座を追われることになるからである。そこでゼウスはテティスを人間の王子に嫁がせることにしたのだった。この婚礼はオリュンポス中の神々に祝福されたが、ただ一人だけ招待されなかった女神に不幸の果実を投げ入れられた。その女神こそ不和女神エリスであり、かの有名な「黄金の林檎事件」である。
    ちなみに、テティスが産んだ息子というのが、これもまた有名な英雄アキレウスだった。
    「あれは我が父ゼウスによる策略です。本当の意味で祝福されての結婚ではありませんでした。ですが......人間の方から、神の世界に嫁いでくることは多々あること」
    と、エイレイテュイアはタケルに微笑んだ。「あなたが私どもの世界に来てくれるのなら、あなたに不老不死を差し上げましょう。幸い、あなたは高天原の天照さまに見込まれた者。神の血も、一族の中では一番色濃く受け継がれているはず」
    「つまり、タケルならアンブロンシア(神食)で不老不死になれるのですか!?」
    レーテーが嬉しそうに言うと、
    「恐らく可能よ。ですから、娘の伴侶として我らの世界に来ていただくか......それができないのなら、娘を返してください」
    エイレイテュイアの話に真剣に耳を傾けていたタケルは、軽く息をついた。
    「お話は分かりました......しばらく考えさせてください」
    すぐに返事をしてくれないタケルにもどかしさを覚えたレーテーだったが、フタヂやワカタケルの将来のことを考えると、今すぐレーテーと一緒に別世界になど行けないと思ったのだろうと、察することができた。
    エイレイテュイアが帰った後も、タケルは一人で部屋に籠り、考えていた。
    夜になり、そろそろ就寝しなくてはいけない時間になっても悩んでいたので、レーテーはとうとう自分から決断した。
    「私、帰るわ」
    レーテーの言葉に、ようやくタケルは我に返った。
    「別れるって言うの?」
    「別れないわよ......そんなに頻繁には来られないと思うけど、会いに来るわ。あなたが天命を終えるまで――死んでから神族に迎えられる英雄は何人もいるわ。あなたも、きっとその一人になる。そうなったら、わたし達、本当に結婚しましょう。あなたがオリュンポスに来てもいいし、私が高天原に嫁いできてもいいわ」
    「レーテー......」
    「だからね......」
    レーテーは腰帯を解いて、衣を脱いだ。
    「今夜はしばらく会えなくなる分、抱きしめて」
    「......うん」
    タケルはレーテーの肩を取ると、そのまま押し倒した。
    タケルの衣を脱がしながらも愛撫されているレーテーは、時折快感で手が動かせなくなる。そのうち、変身も解けてしまっていた。
    「やっぱりレーテーは、本当の姿の方が綺麗だ」
    タケルはそう言いながら、残りの衣を自分で脱いだ。「その橘のような髪の色も、透けるように白い肌も......」
    「あなたこそ......」
    レーテーはタケルの肩に両腕を回した。「すべてを脱ぎ去って、女性に戻ったあなたは本当に美しいわ」
    「レーテー......」
    二人が愛し合う甘い声は、少し離れたフタヂノイリヒメの部屋まで聞こえていた。フタヂはそれを耳にすると、微笑ましく思った。姪が本当に結ばれるべき相手と出会ったことに、叔母としてというより母親代わりとして嬉しく思うのである。

    「ここって、物音とか隣の部屋に聞こえるわよね?」
    タケルに腕枕をしてもらいながらレーテーが聞くと、
    「まあ、だから隣室には誰もいないようにしてるんだけど......二つ隣にまで聞こえるかな。でも、気にしなくていいよ。どこの家でもそうだから、とくに王族に仕える采女たちは主人のあられもない声を聞いても、素知らぬ風にしているのが嗜みなんだ」
    「うん......うちでもそんな感じだわ。それでも、私の母たちは家人が寝静まってから"楽しんで"たけど」
    「......それを知ってるってことは、君、聞いてた?」
    「......たまに、夜中に目が覚めてしまうのよ」
    そうすると、エイレイテュイアの部屋の真下に住んでいるレーテーには、エリスに愛されて悦に入っているエイレイテュイアの声が聞こえるのである。
    「そのお声があまりに艶っぽくて......それで私、エイレイテュイア様が好きになってしまったの」
    「ああ、君の初恋って......」
    「ええ......それを恋と言っていいのか分からないけど、完全に意識しちゃってたわ。私がエリス母君になりかわって、エイレイテュイア様を抱きしめたいとまで思ってた。でもそれは叶わないんだって気付いたのは、母君がエイレイテュイア様に求婚しているのを聞いた時......それから私は、エイレイテュイア様を"母君"と呼ぶことにしたの」
    「境界線を引いたんだね......初めての失恋は苦しかっただろ?」
    「それがね、そうでもないの。案外あっさりと引くことができたのよね......」
    「じゃあ、それは恋じゃなくて、思春期の気の迷いだったのかな」
    「うん......そうかも。でもそれで良かったのよ。だって......」
    レーテーはタケルに抱きついて見せた。
    「私の"初めて"を全部あなたにあげられたから」
    「それは光栄......」
    タケルはそう言うと、掛布団をレーテーの肩まで掛けてあげた。
    「眠ろう。明日も早いから......」
    「うん......」
    明日になったら、自分はオリュンポスに帰るのだ......そう決意したレーテーだった――が。
    翌朝、予想もしない客人が尋ねてきた。
    「タケシウチノスクネ(武内宿禰)にございます。ヤマトタケルノミコト様にお取次ぎ願います」

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