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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2015年09月11日 11時38分10秒

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    悠久の時をあなたと・16

    クレーター島にいるゼウスの養育は、殆どが島の精霊と雌山羊とでなされていたが、ときどきメーティスも様子を見に行っていた。そのメーティスがキュクロープス兄

    クレーター島にいるゼウスの養育は、殆どが島の精霊と雌山羊とでなされていたが、ときどきメーティスも様子を見に行っていた。そのメーティスがキュクロープス兄弟の鍛冶場を訪れて、何か作らせていると聞いて、レイアーも弟たちの仕事場を見学に行った。
    鍛冶場は熱気で溢れていて、今にも蒸し焼きになりそうだったが、ステロペースが用意してくれた椅子は程よく冷えており、さらにその背後の壁をステロペースが凍らせてくれたので、涼しい環境で見学することができた。メーティスもその場所から、自分が注文した物が出来上がるさまを見ていた。
    「あの子はどんな様子?」
    レイアーがメーティスに声を掛けると、最近急に大人っぽくなった彼女は何も言わずに微笑んで、前髪を上げて見せた。
    「記憶をご覧ください、お后様」
    言葉で説明することで、誰かに――特にクロノスにゼウスの隠れ家を聞かれてはならないと、判断してのことだった。それを察したレイアーは、メーティスの額に自分の額をくっつけた。
    メーティスの記憶が流れ込んでくる――ゼウスはもう、人間で言えば5歳ぐらいになっていた。あまりの成長の速さに驚いたが、もっと驚くことには、もうメーティスが相手になって剣術の稽古をしているのである。剣術と言っても手に持っているのは木の棒だが、それでもなかなか筋の良い動きをしていた。
    記憶を見終わったレイアーが額を離すと、メーティスは言った。
    「叔父上たちには、あの子のための剣を作っていただいているのです。そろそろ真剣を持たせてやりたくて」
    「真剣なんて、あの子には早いのではないかしら?」
    「大丈夫です。あの子はとても成長が早い。今はまだ真剣を重いと感じるでしょうが、すぐにその重量を持ち上げられる体格になります。そして、例の物を使いこなせるようにもなりましょう」
    "例の物"とは先日レイアーがキュクロープス兄弟から受け取った、あのナイフのことだった。
    「あの子には」と、レイアーは言った。「まだ、あの代物は無理です」
    「お后様、その判断は私が致します」と、メーティスは言った。「お后様に判断を委ねては、神王陛下のお命を惜しんで、その時を延々とお延ばしになるかもしれません」
    「......まっ」
    生意気な口をきくようになった......と、レイアーは思ったが、正直その通りになるかもしれない、という懸念も感じていた。
    「そうですね......決行の日時は、あなたに判断してもらった方が良さそうね」
    「はい、おまかせを」
    二人はそのまま話すのを止め、しばらくすると剣が出来上がって、二人の前の石のテーブルに置かれた。
    メーティスはそれを満足げに眺めてから、柄がプロンテースの熱から覚めた頃を見計らって、持ち上げた。
    「ちょうどいい重さだわ。ありがとうございます、叔父上方(おじうえがた)。これであの子の剣術も上達することでしょう」
    メーティスは二人に感謝の品として、島で取れたと言う大量の果物を置いて、帰って行った。
    仕事を終えたキュクロープス兄弟は、しばし休憩を取ろうとお茶の用意を始めた。
    「それじゃ私が果物の皮をむいてあげるわ」
    レイアーはテーブルの上にあった果物ナイフを手に取り、先ずはリンゴの皮をむき始めた。この果物ナイフもキュクロープス兄弟が作ったものだった。先日レイアーが受け取ったナイフもこれぐらいの大きさで、柄の模様もそっくりだった――そのことに気付いたレイアーは、リンゴの皮をむき終わる前に手を止めた。
    いつか、クロノスをあのナイフで刺さなければいけない――それは逃れられない運命だった。それなら......。
    悩んでいるレイアーの前に、ステロペースが石製のまな板を差し出した。
    「うほほ(この上に乗せて)」と、ステロペースが言うので、レイアーはまだむき掛けのリンゴとナイフを乗せた。
    プロンテースとステロペースは、ナイフでリンゴを真っ二つにすると、それぞれ手に持っていた串に刺して食べ始めた。
    「うほほい(果物は皮ごとが一番おいしい)!」
    「うほ(そのとおり)!」
    二人がおどけながらリンゴを食べている一方で、レイアーは新たな決意を固めていた。
    「ねえ、二人とも」
    レイアーは目の端に浮かんだ涙を拭い取ると、言った。「あのナイフとそっくりな物を作ってくれないかしら」
    二人はそれだけで、レイアーの決心を察することが出来た。
    「誰にも委ねたくないの。どうしても、そうしなければいけないのなら......」
    レイアーの言葉に、二人はただ黙って頷いたのだった。

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  • from: エリスさん

    2015年09月04日 00時12分22秒

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    悠久の時をあなたと・15

    レイアーが居城に戻ってから、かれこれ三カ月が経とうとしていた。クロノスの悪夢は相変わらず続いていたが、その悲鳴がレイアーに届くことはなかった。何故なら

    レイアーが居城に戻ってから、かれこれ三カ月が経とうとしていた。
    クロノスの悪夢は相変わらず続いていたが、その悲鳴がレイアーに届くことはなかった。何故ならクロノスはレイアーが居なかった間に地下室を作り、そこを自分だけの寝室にしていたのである。だから最上階のレイアーの寝室には何も聞こえてこなかったのだ。
    それでも朝になって顔を合わせた時に、クロノスが昨夜どれだけ苦しんだか、レイアーは顔色や表情で察することができた。
    「いっそのこと、私以外の者をお傍に置いては如何ですか?」
    レイアーが思い余ってそう言うと、クロノスは苦笑いをした。
    「他の者でも同じことだよ。その者が懐妊すれば、また生まれてきた子を呑みこむことになる」
    「懐妊しない者なら良いのでは?」
    「どうゆう意味だい?」
    「そのままの意味です。子供を受胎することのできない女性を探し出して、第二妃となされば良いのでは」
    「わたしに年寄りを妾(めかけ)にしろと言うのかい?」
    クロノスは呆れたように笑ったが、レイアーは本気だった。
    「年寄りでなくても、若くても何らかの理由で子供の作れない女性はいます。そういった......」
    「もういいよ! やめてくれ!」
    流石にクロノスも怒った。自分だって女性を傍に置きたくないわけじゃない。でもそれはレイアー以外考えられない。レイアーの美しくかつ芳しい肢体に包まれるからこそ、自分は悪夢を忘れられる。だがそうすれば、またレイアーを悲しませることになる。だからこそ、自分は一人で悪夢に耐えているのに、そのレイアーに「他の女性を」などと言われては、苦労も報われない。
    クロノスは朝食もそこそこに、居城を飛び出して行った。
    レイアーは追わなかった――そのまま失踪するような無責任な神王でないことは分かっている。自分も言い過ぎてしまった。だから、ここはそうっとしておいてあげようと思ったのである。
    クロノスが水の精霊ピリュラーに手を付けたのは、この時だった。水浴びをしていたピリュラーが、出会ったばかりの頃のレイアーに似ていたこともあり(そもそも二人の兄弟であるオーケアノスの娘なので、レイアーの姪にあたる)、またレイアーに酷いことを言われた直後でもあったので、クロノスも魔がさしてしまったのだ。ただ冷静な判断もわずかに残っており、神の姿のまま契っては悪夢の通りになって、生まれてきた子が自分を殺しに来るだろうから、絶対に自分とは分からないように、馬の姿に変じてピリュラーに襲い掛かったのである。その結果、十か月後にピリュラーは半人半馬の男の子を出産した。その子はケイローンと名付けられてケンタウロス族の一員となった。
    クロノスが出掛けている間、レイアーは庭の野菜畑の世話をしていた。せめて夕食は美味しい物をクロノスに食べてもらおうと思い、収穫できる野菜を選んでいたところで、キュクロープス兄弟に声を掛けられた。
    例の物が出来上がったというので、三人は場所を変えた。
    レイアーの部屋に行くと、ステロペースが布袋に入った物を木の枝に吊るしてレイアーに渡した――直接手渡すとレイアーが凍傷になるからだが、長い木の枝に吊るして渡せば冷気の影響が和らぐ。実際、受け取ったレイアーは「少し冷たい」ぐらいにしか感じなかった。
    袋の中に入っていた物は、鞘に入ったナイフだった。
    あの鉄鉱石から取れた"力を吸い取る鉄"に普通の鉄を混ぜて力を弱め、さらに鞘に入れて危険がないように細工したのである。
    「これでクロノスを刺すのね、私の子が......」
    レイアーが言うと、それまでは姉上が持っていてください、とプロンテースが言った。
    「ええ、そうするわ......まだまだ先の事ですものね」
    クレーター島に残してきた子は、大人になるまでまだまだ年月を要する、とレイアーは考えていた。いくら神族の子供は成長が早いとは言え、成人するのには10年ぐらいはかかるものだと。
    だが、ゼウスは運命を背負って生まれてきただけに特殊な子供であることを、レイアーはこの時まだ知る由もなかった。

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