｢裕子は飛龍の艦攻隊に交じって一路オアフ島へ亜空間飛行したわ。でも雲が結構厚くて、なかなかハワイを視認できないようなの。こんな時、ホノルルから流れてくるラジオ放送がいいナビシステムになったんだって。攻撃隊の人たちは今将に、日曜の朝番組のビッグバンドジャズを交えたディスクジョッキーを聞きながら、電波の方向通りに飛行してるの。そして、雲の切れ目がようやく見つかったわ。すると彼らは全く運が強いのね。その真下がオアフ島だったわ。そして、真珠湾上空に航空機が全く舞い上がってないことが確認できたので、航空艦隊と内地にいる連合艦隊に向けて我奇襲に成功セリ！“トラ・トラ・トラ”のモールス信号を発信したわ。｣

｢そして一斉に敬礼をして、愛機のもとへ走って散って行ったわ。エンジンがますます全開となる中、照明弾がピストルから発射され、1番機のゼロ戦が動き出したの。そして、メインマストのトップにペナント旗が揚げられ、頂点まで来た瞬間にサッと落下したのを合図に、傲然と走りだしたわ。帽ふれ〜の号令で、司令官、艦長以下参謀たちや整備兵たちが帽子を脱いで頭上で振り回したわ。この日、ゼロ戦18機、９７艦攻18機、９９艦爆18機が真珠湾を目指してこの航空母艦飛龍から飛び立って行ったの。｣

｢搭乗員たちがピシッと整列したの。すると偉いさんたちが出てきたわ。この船で一番偉い人は何といっても第2航空艦隊司令の山口多聞少将ね。艦長さんや艦隊参謀長さんや作戦参謀や航空参謀や通信参謀や政務参謀や10人ほど従えて、山口長官は朝礼台の上に上ったわ。そして、各員粉骨砕身努力せよっていう山本五十六連合艦隊司令長官の言葉を伝えた後、自分は今や言う言葉は何もないって言ったわ。今まで培ってきた力を存分に振ってこいって言ったのね。そしてみんなで一斉に敬礼して、自分の愛機のもとへ駆け足で散って行ったわ。山口長官て、最近の映画では堂々たる阿部博がやってたけど、本物は小柄な方なのね。｣

｢ここ航空母艦飛龍の飛行甲板には既に大勢のパイロットが集まっていて、飛行中隊ごとに出撃前のブリーフィングをやってたわ。中身はよく聞き取れなかったけど、“これから真珠湾を奇襲攻撃する”と言ったことを多分話してたのね。最後に人の輪の真ん中に整備兵曹が立って、“0530に合わせ〜、5秒前、４、３、２、１、テ〜！”て言ってたわ。そしてその掛け声に合わせて、みんなが大きな搭乗員用腕時計を合わせ、龍頭を一斉に押したの。クウォーツのない時代だったのね。｣