裕子たち人間も含めて、裕子たちを取り巻く世界は全て物質で出来ているっていうことは裕子も良く分るわ。山も海も空気も、勿論地球も太陽もアメーバも猫のロコちゃんもダイヤモンドも全部物質なのよね。物質の定義は究極的には原子核と電子で出来ているっていうことだけど、これも常識的に理解できるわ。でも宇宙の始まりが、物質と反物質とが対で生まれては即消滅する量子論的真空状態だってことなら、物質と反物質が常に同数出来ているはずなのに、物質だけで宇宙ができるなんてことがあるのかしら。反物質はどこへ行っちゃったのかしら。反物質ってのはマイナスの電荷を持った電子に対してプラスの電荷を持った陽電子、プラスの電荷を持った陽子に対してマイナスの電荷を持った反陽子、電荷は持たないけれど中性子と反対のコークで造られた反中性子のことで、質量や重さや大きさやスピン（裕子も良く分んないけどどっかではっきりさせなくてはダメね）はいっしょなんだけど、対称性（これも後でね）だけが反対なんだって。で、それぞれ反粒子で出来た反水素や反ヘリウムから反地球、反人間なんかが出来てもいいらしいんだけど、いつの間にか物質のみの世界が出来上がっちゃったようね。なんでこうなるのってことは人類最大の謎の1つらしくって、いろんな仮説は出てるようだけど、これはっていうのがないのよね。その1つに、物質のほうが反物質よりチョッコシ寿命が長くって、無限に近い生成/消滅のなかで物質だけが選択的に溜まってきて、それが一斉に噴き出したっていう説が有力だって聞いたわ。こんな風に宇宙ができるんなら、今裕子たちがいる宇宙の他にもっともっといっぱい宇宙が誕生していてもいいし、その中に反物質で出来ている宇宙があってもおかしくないわよね。また、この宇宙の中に別の宇宙が突然生まれるってこともあり得るわよね。実際、私たちが暮らしている宇宙は、決して唯一のものではなく、無数にある宇宙の一つ ( ≒マルチバースの一つ)にすぎない可能性があると主張している学者たちもいるらしいの。いずれ裕子と反裕子が出合って握手したら、たちどころに核爆発のような光を出して2人とも消滅しちゃうのね。反宇宙の存在だけでなく、住んでる次元が違っていて、近くにあっても幽霊みたいにお互いにすり抜けあって、全然感知できないなんて場合もあるんだそうよ。このことは誰も否定も肯定もできないそうだけど、ニュートリノとかヒッグス粒子なんかは多元宇宙から漏れだしたものだなんて言ってる人もいるんだって。