もう夕暮れ時になっていたけど、裕子は岸壁の母で有名な外地からの戦争復員者を乗せた船が着いたという埠頭に行ってきたわ。このお母さんはここで毎日息子が帰ってくるのを待っていたのね。でもシベリアに抑留された人たちは数年帰ってこなかったのよね。シベリアで強制労働させられて、多くの人が命を落としたって聞いたわ。確かに、韓国人に対し強制労働を強いたかつての日本は非道なことをやってたことは否めないけれど、当時ソ連だってもっと大規模に非道をやっていたのね。戦争に勝ったら後和算になるなんて変な話。人権は時代とともに重視されてきたんだから、過去のことを掘り起こしたら収拾がつかなくなるわね。産業革命時代のイギリスだとか、アメリカの黒人奴隷だとか、ナチによるユダヤ人ホロコーストだとか、今ではどうにもならないわ。だから歴史の進行攻に伴って過去を容認する寛容性が必要なんだと思うわ。