宇宙は物質で出来ているって話を前回したけれど、じゃあ宇宙にあるのは全部物質かっていうとそうでもないらしいのよ。　ビッグバーンで物質は生まれたんだけど、この時一緒に他のものもいっぱい吐き出されたんだそうなの。何の根拠で学者さんたちが言っているのか今の裕子にはさっぱり分らないんだけど、なんでも裕子たちが目に見える物質は全宇宙の5％程度しかなく、27％は目には見えないし感じることもできない未知の物質（暗黒物質、ダークマター）で出来ていて、残りの68％は暗黒エネルギー（ダークエネルギー）て言ってそれこそ全く正体不明のものだって言うのよ。裕子たちが目に見える物質は光やX線や赤外線などの電磁波で感知できるんだけど、暗黒物質や暗黒エネルギーは電磁波類には不感症で、文字通り真っ暗なまんまなんだって。目に見えない。触ることも出来ない謎の暗黒物質は重さ（質量）を持ち、その重力で星や銀河を引っ張っていくらしいのね。この中には真っ暗だけどすっごく重たいものがあるとか、その中に吸い込まれるだとか、怖い話になっていくのね。 金子みすずの詩ではないけど、「昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ。見えぬものでもあるんだよ。」って言う一節を思い出すわ。闇黒物質の正体の１つは東大グループのノーベル賞受賞で有名になったニュートリノだって言われているけど、これも全暗黒物質の1.5％くらいしか寄与してないらしくって、素粒子論的にはWinpと言って、ニュートリノ以外にニュートラリーノだとかアキタシオンだとかミラーマターだとかLKPだとか、いろんな仮想粒子を考えているんだって。でも去年の梶田先生の「ニュートリノにも質量がある。」ていう発見は暗黒物質にも質量があるってことになるので重大なんだなあ、ってなんとなく理解できるわ。そして、天体物理学からは目に見えない星や銀河が選ばれているの。ブラックホールだとか白色矮星だとか褐色矮星だとか中性子性だとかで、MACHOと呼んでるんだって。事実と仮説とごっちゃになってなんだかますます混乱してきたわ。

裕子たち人間も含めて、裕子たちを取り巻く世界は全て物質で出来ているっていうことは裕子も良く分るわ。山も海も空気も、勿論地球も太陽もアメーバも猫のロコちゃんもダイヤモンドも全部物質なのよね。物質の定義は究極的には原子核と電子で出来ているっていうことだけど、これも常識的に理解できるわ。でも宇宙の始まりが、物質と反物質とが対で生まれては即消滅する量子論的真空状態だってことなら、物質と反物質が常に同数出来ているはずなのに、物質だけで宇宙ができるなんてことがあるのかしら。反物質はどこへ行っちゃったのかしら。反物質ってのはマイナスの電荷を持った電子に対してプラスの電荷を持った陽電子、プラスの電荷を持った陽子に対してマイナスの電荷を持った反陽子、電荷は持たないけれど中性子と反対のコークで造られた反中性子のことで、質量や重さや大きさやスピン（裕子も良く分んないけどどっかではっきりさせなくてはダメね）はいっしょなんだけど、対称性（これも後でね）だけが反対なんだって。で、それぞれ反粒子で出来た反水素や反ヘリウムから反地球、反人間なんかが出来てもいいらしいんだけど、いつの間にか物質のみの世界が出来上がっちゃったようね。なんでこうなるのってことは人類最大の謎の1つらしくって、いろんな仮説は出てるようだけど、これはっていうのがないのよね。その1つに、物質のほうが反物質よりチョッコシ寿命が長くって、無限に近い生成/消滅のなかで物質だけが選択的に溜まってきて、それが一斉に噴き出したっていう説が有力だって聞いたわ。こんな風に宇宙ができるんなら、今裕子たちがいる宇宙の他にもっともっといっぱい宇宙が誕生していてもいいし、その中に反物質で出来ている宇宙があってもおかしくないわよね。また、この宇宙の中に別の宇宙が突然生まれるってこともあり得るわよね。実際、私たちが暮らしている宇宙は、決して唯一のものではなく、無数にある宇宙の一つ ( ≒マルチバースの一つ)にすぎない可能性があると主張している学者たちもいるらしいの。いずれ裕子と反裕子が出合って握手したら、たちどころに核爆発のような光を出して2人とも消滅しちゃうのね。反宇宙の存在だけでなく、住んでる次元が違っていて、近くにあっても幽霊みたいにお互いにすり抜けあって、全然感知できないなんて場合もあるんだそうよ。このことは誰も否定も肯定もできないそうだけど、ニュートリノとかヒッグス粒子なんかは多元宇宙から漏れだしたものだなんて言ってる人もいるんだって。

宇宙は時間も空間も何にもない真空状態から始まるって言ったけれど、これでは神様の存在を信じなければいけないわね。明らかに誰かが天地創造をやらないと、何にもない1点から突然宇宙が爆発的に湧いて出てくるなんて、科学の世界じゃ考えられないものね。でも筋無力症のため車椅子にのった天才学者、ホーキング博士は、宇宙の誕生は一点で始まったのではなく、ボーっとした空間から始まったと言って、神の存在を否定したの。このボーっとした空間とは、近代物理学の大原則の1つになってる"量子論"を宇宙の中心に当てはめたもので、究極の小さい世界では原子でも素粒子でも存在する場所が特定できないで、ボーっとした雲の中にいるってことがベースになってるんだって。これは何故かというと、原子や素粒子は粒であると同時に波だって言ってるの。こっから先は裕子みたいな凡人には多分ほとんど理解できない世界になるけど、前に話した宇宙の始まりの真空状態は、この量子論を仮定すると全く死んだ世界ではなくって、物質と反物質とが対で生まれたり、瞬時にこの2つが合体してごく微量の光を出して消滅したり、ていうことを繰り返してるんだって。そして、合体消滅するときに出る光のために、完全な漆黒の世界なんじゃなくて、少しボーっと光ってるんだって。電子や光やいろんな素粒子や原子は一応粒なんだけど、量子論に従うと、常識で考える粒のように壁の中に閉じ込めておけずに、波の性質から極めて小さいけれどある確率で壁から漏れ出してくるんだって。これはトンネル効果って言われていて、半導体はこの原理が応用されてるって言ってたわ。この漏れ出した粒の数が突発的に増大した瞬間、一気にビッグバーンが起こって宇宙誕生の引き金になるって説明していたわ。このように説明されても、やっぱし自然科学の必然だなんて納得できないわよね。

裕子が脚長バトルを卒業してからもう5年にもなるのね。地球の時間軸だったらジャスト27歳になってしまったのね。でも裕子は時空間を自由に移動できるし、歳も当時の22歳のまんまでいられるの。何故かって？　それは裕子にも全然わかんない。そんなところから宇宙を考えてみようかなって思ったわけだけど、ちょっと考えただけで疲れちゃったの。そんな訳で、頭を使う仕事はちょっとお休みして、気分転換にまた脚長バトルをやってみようかなって思ったわけ。だけどこの5年の間に世界ではすんごい脚長さんがいっぱい現れているのね。最近ではフロリダ州に住むデザイン学科のホリー・ポッターさん（20）という人が紹介されていたわ。彼女は全米で最も長い脚を持っていることが明らかになり、「首から下が全部脚」と言われているわ。ホリーさんの身長は1メートル98センチで脚の長さは1メートル25なんだって。裕子はショートパンツに履き替えて、恐る恐る彼女の横に立ってみたの。するとやっぱり、腰の位置もまたの位置も裕子よりずっと上にあるので、圧倒されたわ。身長が198㎝もあるし、更に高いサンダルを履いているから、当然と言えば当然だけどね。でも、当たり前だと思ってもちょっと癪に障るのね。そこで、彼女に裕子と同じ身長まで縮んでもらったの。すると股の位置は裕子のがやや上に来てたので、股下比率では勝てたということで、自己満足することにしたわ。これからの脚長バトルは並大抵ではいかないのね。