「じゃあ裕子、ちょっと試してみるね。なんか緊張するな～。いつもは後ろ蹴りで一気に跨っちゃうんだけど、そっと跨ぐなんて初めてよ。」　
「やっぱり裕子も女なんだな。女乗りをやるんだね。」
「女乗りってのはあそこが見えないようにそっと前から脚を上げるんだけど、どうも脛が長すぎるから、やっぱり見えちゃいそうね。」
「もともとが男物の自転車なんだからしょうがないだろう。」
「でも何とか跨げそうよ。」

「俺のダミーはよく見ていたようだけど、裕子の自転車を見るのは初めてだ。それにしてもやたらとサドルが高いけれど、ホンマにこんなサドルに跨れるのか？裕子も行きがかり上見栄を張ってるのと違うか？」　「少なくても裕介さんは地球が逆立ちしたって無理よね。ステムの三角部分にも脚が届きそうもないものね。裕子は改めてサドルに跨って両足が地面に着くかどうか試したことはないけど、これで中央アジアを走破してきたんだから、多分っ問題ないはずよ。」　　「そんなら1回そのエビデンスとやらを拝見してみたいもんだ。」　　「裕子も不安だけど、ちょっとやっみるか。」

裕介さんと並んで立ってるとどうも足の長さが歴然としているので、裕子はちょっと膝立ちになってみたわ。でも脚長差はいかんともしがたいのね。小俣の高さがあんまし変わらないのね。頭の高さは大分と裕子のほうが低くなるのにね。裕介さんはふてくされた表情をしてるけど、内心は恍惚状態にあるのかもしれないわ。だってひじに触れてるあるものがカチカチになっているのが分かるんだもの。

最近ちょくちょくDr.Slipさんが会いに来ていろんな所へ連れてってくれるでなんか変だなと思っていたの。そうしたらようやく裕子の出生の秘密を打ち明けてくれたわ。ある時は昌夫を名乗り、ある時は家庭教師のお兄ちゃんを演じていた裕介人形はどうもDr.Slipのダミーで、裕介人形の一挙手一投足は彼の意思そのものだったようなのね。最近Dr.Slipも地球年齢が老境に入り、直接裕子に接触したくなったんだって。そして、Dr.Slipの本名は裕介さんなんだって。裕子もプロポーション以外だいぶ人間らしくなってきたので、本人と話をしたほうがしっくりくるわ。今日はウエールズの野でデートしたけど、どこへ行っても裕介さんは裕子の脚にばかり興味を示すのよ。まるでダミーの人形と一緒。自分で作り上げたのに変なの。裕子は裕介さんの憧れと欲望と羨望の結晶だったのね。でも欲望と羨望が脚ばっかりに偏るのは良くないわ。脚フェチなのは裕介さんの短い脚を見たら納得できるけど、これからも恋愛論や宇宙論や医学論や戦争論も話し合いたいわ。それにしても裕介さんは脚が短いのね。脚の長さが裕子の脛の長さぐらいしかないのね。ほら、変なところにお手てが忍び込んできたわ。今日はそこまでよ。

チャールストンは裕子が1番長逗留した外国の街。今日はDr．Slipと2人でやって来たわ。赤レンガの懐かしの消防署の前でツーショット。

到達点は何とジェラシックワールドだなんて！此処でこの少年と一緒に生活するわけ？

そうしたら、突然ブルーの光に包まれたかと思うと、大きな歪んだ沢山の時計に取り囲まれ、ルーブル美術館が消滅したの。裕子たちはソファーに座ったままジェットコースターのように、でもゆったりと動き出したわ。隣を見てびっくりしたのは、40代のおじさんがハイティーンの少年になっていたの。裕子はいつの間にか来ていた服が変わっていたわ。これって、タイムスリップ？

裕子は今パリにいます。ルーブル美術館へ1人で出かけたんだけれど、見るものが多すぎて疲れちゃった。ホールの一角にあるソファーで中継していると、如何にもエネルギッシュなビジネスマンて感じの40代前半くらいのおじさんが隣に座ったの。結構打ち解けていろんな話をしたわ。美術史と博物誌に関しては裕介さん以上だったわ。