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from: エリスさん
2010年11月26日 14時20分57秒
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夢のまたユメ・1
いつだって気づくのが遅い。素敵な人だな、気が合う人だな――そう思ってても、すぐには恋愛に結びつかない。だから一目惚れなんかありはしない。一緒に過ごして
いつだって気づくのが遅い。
素敵な人だな、気が合う人だな――そう思ってても、すぐには恋愛に結びつかない。だから一目惚れなんかありはしない。
一緒に過ごして、人となりを十分理解してから、その人に恋をしていると気づくから、だいだいこうゆうパターンが待っている。
「俺、好きな子ができたんで、告白しようと思うんですけど、どうしたらいいでしょう……」
告白する前に振られる……。
それでも、面倒見の良いお姉さんを気取って、こんなことを答えたりする。
「大丈夫よ。あんたなら絶対にうまくいくわ。私が保証してあげる」
そうして、助言通り相手はめでたく好きな子と両想いになってしまうのだ。
「というわけで、また失恋しました、私」
宝生百合香(ほうしょう ゆりか)はパソコンに向かって、そう打ち込んだ。すると、パソコンの画面が一段上がって、新しいメッセージが表示された。
〔またって言っても、男性に失恋したのは今の職場に入って二度目でしょ? あとはほとんど女の子に対して淡ァい恋心抱いただけじゃない〕
「いやまあ、そうなんだけど」と百合香は呟いてから、またパソコンに打ち込んだ。「でも、女の子に振られるより、男に振られた方がダメージ強いのよ」
百合香はチャットをやっていたのだ。話し相手は百合香が参加しているコミュニティーサイトで知り合ったネット仲間である。
〔前の女の子の時にも思ったんだけど、どうして思い切って告白しないの? 告白もしないで、相手に彼氏ができた、振られた!って愚痴るぐらいなら、当たって砕けちゃえば、いっそスッキリするよ、ユリアスさん〕
ユリアスというのが百合香のコミュニティーサイトでのハンドルネームである。
「そんな難しいよ。大概の女の子はノーマルなのよ。告白したところで、アラフォーの女が受け入れられる確率は低すぎよ。それだったら、頼りにされるお姉さんとして仲良く接してくれた方のが幸せだわ……相手が女の子の場合はね」
〔で、今回は男の子だったわけだ。それなのに告白しなかったのは、また自分の年齢のこと気にしちゃった?〕
「それもあるけど、相手のことを好きだって気づいたのが本当につい最近だったから、告白する間もなく、向こうから恋愛相談を受けちゃったのよね」
〔間が悪かったわけだ。でも、ユリアスさんの文章からは、そんなに落ち込んでるようには感じられないんだけど(^。^)y-.。o○
もしかして、勝てそうな相手なの?〕
「どうだろ。確かに、世間一般的に見れば“チャラい”見た目で、良いイメージは持たれないタイプなんだけど……。でも、私よりずっと若いし、美人だし」
それから少し間があって、返事がきた。
〔ユリアスさん、見た目の魅力なんてどうにでも誤魔化せるんだよ。結局、人間は中身で勝負なんだからね〕
「ありがとう、ルーシーさん」
それだけ打って、少し考え事をしていたら、向こうから書き込みがあった。
〔それより、来週からの連載って、もう内容決まった?〕
百合香が言葉に詰まったので、話題を変えてくれたようだった。
「うん。二年前に見た初夢をベースにして作ろうと思うんだけど」
〔二年前の初夢って、確か、『現代版源氏物語』?〕
「そう。あのままじゃリアリティーないけど、アレンジすれば結構面白いのが書けると思うんだ」
〔へえ、楽しみ(^_^)v〕
百合香はコミュニティーサイトで小説ブログの連載をしていた。もちろんこれは趣味の範囲をちょっと超えたぐらいのもので、収入にはならない。だから普段は映画館でパートで働いていた。同僚はみな二十代の若い子ばかりで、何人か三十代前半はいるが、三十九歳という所謂アラフォー世代は百合香だけだった。それでもルーシーが言うとおり、同僚たちとの関係は良好で、最年長ということもあって常に頼られる存在だった。ちなみに入った当初から自分がバイ・セクシャルだということは親しくなった人たちに話している。初めは珍しがられたが、今では(勤務四年目)誰も気にしていないようだった。
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from: エリスさん
2012年10月19日 11時45分51秒
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「夢のまたユメ・69」
シネマ・ファンタジアが入っているショッピングセンターSARIOの中は、節電のために電灯の殆どを消され、また従業員もまばら、当然お客もいないので、鬱蒼としていた。
それでもファンタジアの事務室に入ると、懐かしい顔ぶれが集まっていた。
「宝生さん! 久しぶりィ〜!」
「あっ、リリィだァ」
「沢口さん! かよさん! お久しぶりですゥ!」
かよさんのような主任さんか、主婦の従業員が集められていた。百合香は本来なら独身なので「主婦」とは言い難いが、宝生家は母親が死去して百合香が「主婦代わり」をしていることを上司も知っているので呼ばれたのだろう。
いつもはスーツ姿の支配人も、今日はジャージ姿で、デスクに防災用のヘルメットを置いていた。他のマネージャーたちも動きやすい服装をしている。今か非常事態と言う意識の表れだろう。
「ええ、では皆さん」と、支配人が咳ばらいをした。「誠に申し訳ありませんが、土曜日からの営業再開のために、協力をお願いします。ここにあるブランケットを洗濯してきてもらいたいのです。あと、3Dメガネ用の眼鏡拭きもあります」
支配人のデスクの横に、プラスチックボックスの中に山と積まれたブランケットと、眼鏡拭きがあった。
「ブランケットって……何枚あるんですか?」
と、チケットスタッフの一人が聞くと、
「ブランケットは約200枚、眼鏡拭きは20枚あります」と、大原マネージャーが答えた。「まあ、眼鏡拭きは全部洗わなくてもいいと思います。初日に10枚もあれば……」
「あっ、じゃあそれは、私たちフロアスタッフが手分けして」
と、かよさんが答えると、百合香も沢口さんも、うんうんっと頷いた。
「でも、ブランケットは……今ここに集められているのは10人ですから、一人あたり20枚とか、たった二日では……家族の洗濯物も洗ってるんですよ、私たち」
「もちろん私たちマネージャーも持って帰ります」と、大原は言った。「必ず20枚持って帰ってくれ、なんて頼まないわよ。それぞれ、この枚数なら洗って来られる――という枚数だけお願いします」
「当然、お客様が使用する物だから、柔軟剤とか使った方がいいですよね?」
「無理にとはいいませんが、それが好ましいです」
「そんな……これから電気代だって高くなるかもしれないのに……」
何人かのスタッフから苦情が出始めたので、百合香はフォローを入れてみた。
「そんな、ただでやってくれ、なんて頼みませんよね? 支配人」
「もちろんです。お礼はちゃんと用意しています。野中君!」
「はい、支配人」
と、野中マネージャーが茶封筒を取り出して、中身を出して見せた。
「本社から、皆さんにお礼の品が届いてます!」
それは、3D作品にも使える劇場招待券だった。
「3Dもいいんですか! 普通の招待券は3D使えないのに!」
百合香が食いついてみせたので、かよさんも乗ってきた。
「太っ腹じゃないですか、本社! つまり金額に直すなら、2,100円もお得ってことですね」
「というわけで、皆さん、協力してくれませんかね?」
野中マネージャーが押しの一言を言ったところで、しばらくの沈黙が続いた。
すると、支配人が突然立ち上がって、皆に頭を下げた。
「無理なお願いをしていることは分かっています。それでも、土曜日から無事に営業を再開させるためには、皆さんの協力が必要なんです。ですから、どうかお願いします」
「頭を上げてください、支配人」と、かよさんが言った。「私たちフロアは協力します。なんなら、ここに居ないスタッフに声を掛けても構いません」
「そうですよ」と、沢口さんも言った。「主婦じゃなくても、一人暮らしで、自分で洗濯してる人だっているんですし。そうゆう人になら頼めると思います」
「ありがとう……」
フロアスタッフが協力的なのを見て、売店スタッフが口を開いた。
「あなたたちにばっかり、いい格好させられないじゃない……でも、20枚は無理です。10枚ぐらいなら……」
「私も、それぐらいなら……」
そういうわけで、それぞれ持って帰れるだけの枚数を受け取ることにした。
百合香は25枚受け取った。
「そんなに洗えるの?」
かよさんが聞くので、
「夜に洗濯して、夜風で乾かせば余裕です」
「あっ、なるほど……その手で行けば、私ももう少し持っていけます」
「助かる(^o^)」と、大原は言った。「これで、私たちマネージャーが残りを持って帰れば、全部洗濯できるわ」
「ところで土曜日からって、他の店舗も営業再開するんですか?」
と、百合香が聞くと、
「ええ、全部。営業時間は短くなるけど」
「良かった。そろそろペットショップで買い物したかったんですよね」
「ああ、猫ちゃんのご飯ね」
「はい。ホームセンターで売っているのでも食べてくれるんですけど、やっぱりいつものじゃないと満足できないみたいで」
すると、かよさんが言った。「リリィはキィちゃんに贅沢させすぎなんだよ」
「だってェ〜一人娘なのよォ〜」
「そうゆうのは、実際に自分で子供産んでから言いなさい。ねぇ? 沢口さん」
「ええ? でもそれって……」と、沢口さんは言った。「近いうちに来るんじゃない?」
百合香はちょっとギクッとしたが、支配人が話し出してくれたおかげで、みんなにそれを気付かれることはなかった。
「そういえば、うちの娘も似たようなことを言っていたよ」
「支配人の娘さんって、去年お嫁に行った?」
と、野中が聞くと、支配人は答えた。
「今、こっちに帰って来てるんだよ、子供と一緒に。実家の方が融通が利くと思って帰って来たのに、こっちの方も店が軒並み閉まっているから、おむつが手に入らないって」
「ああ、大変ですね」
と、野中が言うと、大原がポンッと手を叩いてから言った。
「じゃあ、土曜日からSARIOの乳幼児専門店が開いてくれるから、娘さんも助かりますね」
「そうなんだ。まあ、品数は十分じゃないかもしれないがね」
支配人の娘さんは二か月前に出産したばかりなのだが、お産の際に実家に戻ってきて、翌月には旦那さんのもとに帰ったと聞いていたのに、またこの震災で実家に戻って来たのだろうか?――と思った百合香は、こう聞いた。
「娘さんとお孫さんだけ……ということは、旦那さんは?」
「確か宮城県に派遣されたと聞いたが……」
「宮城……ですか?」
もろに震災の被害を受けている地域である。まさか、仕事で宮城に行っている間に被災したのか? と、心配していると、野中が代わりに答えた。
「支配人の娘さんのご主人は、レスキュー隊の隊員なんだよ」
「あ、ああ!!」
当然のことながら、地元のレスキュー隊だけでは人手が足りないので、東京からだけでなく、各地から隊員が集められているのである。
「凄いですね。立派なお仕事です」
「ありがとう。わたしも身内の者がみんなの役に立ってくれているのが嬉しいんだよ。だからこそ、わたしも負けてはいられない……まだ、近隣の映画館はどこも休業している。正直、こんな非常時に映画なんか上映してなんになるんだと、そういう意見も出て来ると思う。だがね、こんな時だからこそ、人々は心の安らぎを求めているはずなんだ。その安らぎに、映画は役に立つと思わないかね?」
「思います」
「うん。だから、わたしはファンタジアを再開させることにしたんだよ。どんな非難を受けようともね」
やっぱりうちの支配人は凄い人だな……と、百合香は改めて思った。
家に帰ってから、百合香はパソコンを開いて、宮城県でのレスキュー隊の記事が載っていないかネット検索してみた。すると、直接的な記事はないが、宮城県で救助された人たちの記事がいくつか出てきて、その救助された時の写真を見ることができた。その中に支配人の娘婿がいるかどうかは分からなかったが……百合香は、ある一つの記事で、マウスを動かす指を止めた。
《津波に遭いながらも、樹に助けられた!》
この見出しで書かれていた記事は、要約すると――袖なしのダウンジャケットを着ていた男性が、津波に流されながらも、そのジャケットの袖口に樹の枝が通り、そのまま樹につるされて助かることが出来た。その際、小学校2年生になる男児が男性の傍に流されてきたので、男性は必死にその男児を受け止めて、一緒に樹につるされたまま救助が来るのを待った。――というものだった。
袖なしのジャケット――それも丈夫なダウンジャケットでなければ、偶然に袖口に樹の枝が通っても、服が破れるかして、また津波に流されてしまったことだろう。加えて、その男性が小柄でなければ、樹の枝の方が折れて、助からなかったはずである。しかも途中で流されてきた男の子をキャッチして、津波が通り過ぎるまで待っていたとは……余程の幸運がなければ無理だっただろう。
そんな奇妙な記事の横に、その男性と男児が救助された後の写真が載っていた。百合香は、その男性の顔に釘付けになっていた。
『……間違いない。これ、伊達さん……』
我に返った百合香は、居ても経ってもいられず、携帯電話を開いた。
電話帳から、ある人へ電話をかける……相手は、5回コール目で出てくれた。
「もしもし?」
と、相手が言ったので、百合香はすぐに言った。
「佐緒理さんですか? 私、宝生です!」
「え!? あっ、百合香!? へえ、あんたもとうとう携帯買ったの?」
まだOL時代は携帯を持っていなかったので、そんな言葉が返ってくる――相手は、朝日奈印刷でお世話になった小林佐緒理(こばやし さおり)だった。
「今、大丈夫ですか?」
「うん。仕事はちょうど終わったところだからね。今、更衣室にいるんだけど……」
本来なら会社業務が終わる時間ではない。朝日奈印刷も節電のために退勤時間を早められているのだろう。
「でも、どうしたの? 急に。会社辞めてからは、こっちの人とは誰とも連絡取ってなかったでしょ? ……あっ、もしかして、結婚の日取り決まった?」
以前、翔太の姉・紗智子が百合香の過去を調べるために、佐緒理から話を聞いたことがあった。だから、てっきりそれに関する話だと思ったのだろう。
「いいえ、それはまたいずれ……それより、伊達さんのことなんですけど」
「伊達君?」
伊達成幸(だて しげゆき)――百合香が朝日奈印刷時代に恋をした男の事である。
「確か今、宮城の実家に帰ってるんですよね……」
「ああ……そうゆうことね。うん、向こうで被災したらしいね。でも、無事だよ。ニュースに出てたから」
佐緒理も百合香が見た記事と同様の物を見たらしい。
「伊達さんと連絡は取れますか?」
「それが取れないんだよ。あいつの携帯、つながらなくなってて。実家の電話も……どうゆうことになってるのか、簡単に想像つくけどね」
「そう……ですよね」
本人が津波の被害に遭っているのである。携帯電話はきっとその途中で落としたか、流されたか。自宅の電話――以前に、実家自体がどうなっているか分からない。
「でもまあ、本人は生きていることは間違いないんだから、そのうち連絡してくるでしょう」
「じゃあ、もし佐緒理さんの方に連絡が行ったら、私にも教えてください」
「分かった、教えるよ」
百合香は電話を切ってから、やりきれない気持ちになった。
『私、伊達さんの方にまで気を配れなかった……宮城に帰ってるって、聞いていたのに……』
自分が恵まれすぎて、辛い目に会っている人たちのことを思いやることができなかった。自分はなんて狭量なんだろう……と、百合香は自分を責めた。
人にはそれぞれ限界があるものだが、そんなこと、今の百合香にはどうでもいいことのように思えていた。
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