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from: エリスさん
2007年07月26日 15時52分49秒
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「露ひかる紫陽花の想い出・40」
中へ入るなり、彩が言った。
「源氏の大臣(げんじ の おとど)がいらしたそうよ。前の大臣(さき の おとど)と一緒に」
「え!?」
つまり、三郎に会いに来たのは、二人の大臣だった。目立たぬよう、彰の牛車に同乗して。初めは彰だけが三郎に会って例の話をするつもりだったのが、二人とも直に会ってみたくなって、急遽そうなったらしい。
「お嬢様、いったいどうゆう……」
「偉大な御方のお考えは計り知れないものがあります……でも、三郎殿を召し抱えにいらしたことだけは間違いないようね」
「召し抱え!? 三郎を……大臣が?」
西の対の客室で、尼君を間に、源氏の大臣と前の大臣が上座、彰と三郎が下座について、対面はなされていた。
先ず彰が三郎を大臣方に紹介してから、彼に二人の正体を明かした。
大臣と聞いて、さすがの三郎も身を低くして緊張した。
「そなたの家を訪ねるのも仰々しいからね。四条という縁があって良かった」
源氏の大臣が微笑みながら声をかける。
「今日訪ねたのは、どうしてもそなたに頼みたいことがあったからだ。どうか、わたしに昇進の世話をさせてくれないだろうか」
「源氏の大臣に!? そんな滅相もありません!!」
「もちろん、見返りはいただく。我等の話を聞いてはもらえまいか」
先ず、前の大臣が今上の「夢」の話をした。
すべての人が等しく好機を掴める世。家柄だけを重んじる風潮を覆す政治。
偉大な二人を目の前にして気後れしていた彼も、次第に話しにのめり込んでしまう程、それは魅力に満ちていた。
それだけではない。大の大人が二人して、熱を持って語る姿に、心打たれるものを感じていたのだ。
この二人が「今上の目指すものは正しい」と信じて疑わないからこそである。
確かに、それまであまり治安は良くなく、地方では朝廷に与しない蝦夷や熊襲といった者たちが乱を起こしたりしていたのに、今上が即位してからは弱まりだし、今では音沙汰もなくなった。
民に不満がなくなったからだ。
国の隅々にまで気を配り、温かい心で皆に接し、包んでいるから、国が潤うのである。
今上とはどんな人なのだろう――噂に聞くたびに思っていた。
聖帝と称された程の人なら、地位ある人がこれほどまでに賞賛する人なら……。
お仕えしたい。
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from: エリスさん
2007年07月26日 15時28分48秒
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「露ひかる紫陽花の想い出・39」
言われて三郎も気がついた。
結婚して夫の屋敷へ入ってしまうと、もう彩の傍にはいられなくなる。彩があってこその少将の人生なのだ。離れることなど考えたこともなかったのだろう。
「そうだよね。彩の君様に仕えることは君の生き甲斐だものね。いいよ、それでも。一緒に暮らさなくて夫婦にはなれるさ、だから、少将」
三郎――直人は、しっかりと八重姫を見つめて、言った。
「僕に妻問い(夫として妻のもとへ通うこと)をさせてよ」
そのとき、少将の顔から幸福で溶けてしまいそうな笑みが現れた。
「うん、いいよ」
しばらく声が出ない。
「………………やったァ!!」
直人が思いっきり飛び上がって、八重姫に抱きついた。
「八重姫、好き。僕、八重姫のこと大好きだよ」
「私も……直人が大好き」
八重姫が抱いていた佐音麿は、直人が飛びついてくるより早く危険を察して、飛び降りていた。そして、しっかりと抱き合っていた二人を、首を傾げながら見上げていた。
誰の目にも似合いの夫婦だと映ったでしょう……と、後に、屋敷の中から見ていた彩が少将に語って、彼女を赤面させてしまったらしい。
優しい時間はさほど続かないもので、しばらくして彰が現れた。
「やあ、ここにいたね」
「中将様……あ!? あの、彩の君様に会いに来たわけじゃありませんから。本当です。あれから全然会ってません!」
三郎が慌てふためいて言い訳すると、彰は笑って、そのことはもういいんだ、と答えた。
「今日はおまえに会いたいとおっしゃる方がいてね、ご一緒して来たんだよ」
「僕に? 会いたい方って?」
「尼君のところにおいで。悪いね、少将。三郎を借りるよ」
彰が三郎を連れて行ってしまったので、佐音麿の体も大分乾いてきたことでもあるし、少将は寝殿へ戻ることにした。icon
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from: エリスさん
2007年07月26日 15時17分30秒
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「露ひかる紫陽花の想い出・38」
少将の声が聞こえてきたのは、そんな時だった。
「佐音麿ォ! どこにいるのォ!」
少将は大声で誰かを呼びながら庭を歩いていた。
少将の声を聞き、「ミャ!?」と子猫が鳴く。
「佐音麿(さねまろ)っておまえのこと?」
「ミーミー」
「そうか。僕は三郎。よろしくな」
三郎は懐紙を出して佐音麿のことを拭いてやりながら、彼女のところへ行った。
「お探しものはここだよ、少将」
「あら、三郎」
すでに“殿”は付けずに呼んでいた。
「まあ、佐音麿どうしたの!?」
少将は慌てて自分の方へ抱き寄せると、三郎に懐紙をもらって顔をふいてやった。
「池に落ちたみたいだよ」
「鯉でも取ろうとしたのかしら」
「こんな子猫なのに?」
「子猫だから、池の深さも分からずに飛び込むのかもよ。これじゃ中へ入れられないわ。日向で乾かしてあげないと」
少将はあたりを見回し、陽だまりを見つけるとそこへ行って降ろしてやった。
「ほんとにしょうもない子ね。ホラ、そっち行っちゃ駄目。お日様の方を向いて」
結局、少将が抱いて太陽に向かっていなければならなくなった。
佐音麿は安心したように喉をゴロゴロと鳴らしている。その様子を見て、可愛い、と少将がつぶやいた。
「猫、好き?」
三郎が聞くと、可愛いのはなんでも好き、と少将は答えた。
「じゃあさ、僕たちも猫飼おうか」
それとなく仄めかすと、少将はちょっと考えてから悲しげに笑って、言った。
「私、家庭には入らないと思う」icon
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from: エリスさん
2007年07月26日 14時24分12秒
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「露ひかる紫陽花の想い出・37」
「ミーッ!」
三郎が門をくぐると、この甲高い声が聞こえた。
「な、なんだなんだ」
馬から降りてあたりを見回してみる――声の主らしいものは見えない。
だが、もう一度声は聞こえてくる。
「ミーッ!」
明らかに子猫の声である。
従者に馬を小屋に入れるように言うと、彼は声のした方へ歩いていった。
西の対の前にある池(寝殿の前の池と繋がっている)のほとりには、椿や山茶花などが植えられていて、木が多いところを見ると、幼少のころの彩たちが(その頃は西の対で暮らしていたから)池へ落ちないようにとの配慮だったのだろう。今は百合だけが咲いていた。
子猫は山茶花の木の間にいた。びしょびしょに濡れてしまっていて、三郎の顔を見ると助けてと言わんばかりに強く鳴いてみせた。……人間の子供ならば立派に堤防の役目を果たしても、子猫には利かなかったと見える。
「自分で這い上がってきたのか、偉いね。おいで、怖くないよ」
三郎が手を差し伸べると、その子はちょこちょこと歩いてきた。よく見ると、先日、彰の中将が連れてきたあの虎猫だった。紅色の組紐に鈴を通して首につけている。
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from: エリスさん
2007年07月24日 20時00分36秒
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いや、偶然だから!
今日は仕事がお休みで、朝からお料理の作り置きと、お洗濯に追われてた。
だから買い物に行くのが夕方になってしまった。
別に狙って午後4時50分ごろに亀有界隈を歩いていたわけじゃない。
でも、向こうはそうは思わないのかもしれない。
早い話が、仕事帰りのあの人と会ってしまった。
でも素通りだった。
気付いてなかったのか、それとも……。
もしかしてストーカーと思われていないだろうか?
だって地元なのよ! 買い物で出歩くぐらい当たり前でしょ?
それにあの人が今日何時に仕事を終わるかなんて、いちいちチェックしてないし。
明日また仕事で会ったら、なにか嫌味を言われるのかなァ〜。-
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from: エリスさん
2007年07月16日 17時40分24秒
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母に会いに、霊園へ
神話読書会の方には書きましたが、今日は墓参りに行ってきました。
母に会いに行くのは懐かしくはあるのですが、
同時に死に様を思い出して、辛くなる。
あのとき泣き腫らしたから、もう涙は出ないけど、感情だけは蘇ってくるから不思議。
ベッドから落ちた母を助け起こした時は、確かに意識があったのに。
再びベッドに寝かした時、呼吸が止まっていた。
あの一瞬の間に、本当に私に落ち度はなかったんだろうか?
今、どうしようもないくらい、あの人に会いたい。
半引き籠もり生活から立ち直りかけていた私を、ちゃんと生きた人間に戻してくれたのは、あの人の優しさと明るさだったから。
でも今は、その優しさが、ない。
いけないことをした自分が悪いのだけど。-
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from: エリスさん
2007年07月13日 19時24分35秒
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2007年07月12日 18時49分23秒
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from: エリスさん
2007年07月11日 21時01分29秒
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眠い……
毎朝4時起きの私は、夕方7時くらいになると、睡魔との戦いになる。
今も、亡き母の位牌の前で読経しながら、何度も欠伸をしていた――供養にならないね、これじゃ(詳しくは話せませんが、毎朝毎晩の読経はうちの宗教の日課です)
早々と寝たいのはやまやまですが、でもこれから、台所の食器を洗って、お風呂掃除して、猫たちの小屋掃除して……と、やることがある。
だからね、先週ケンカしたっきり口をきいてくれない「十歳以上年下の」あなた。
私が遅くまで仕事できないのには、ちゃんと理由があるんだからね。
それでもやりたいことはイッパイある。しかも経済的にも厳しい我が家。
だから、水曜日に仕事をした後に映画を見る、というのは私としてはギリギリの妥協だったのに。
とにかく、あなたの要望どおり水曜日に映画を見るのはやめましたから、いい加減、私を許してくれない?
言いたいことを書いたら、眠気が覚めた。
彼が今でもこのサークルを読んでくれているかは疑問だけど、読んでいると信じて……。-
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from: エリスさん
2007年07月11日 17時45分44秒
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「露ひかる紫陽花の想い出・36」
第 三 章
今日も出かけるの? と楓は言った。
うん! と元気良く三郎が答える。
「懲りるってことを知らないのね、おまえは」
「懲りるわけないよ」
三郎は沓を履くと、母親の方を振り向いた。
「僕は僕の選んだ人と結婚したいだけ。勝手に押し付けられるのなんか御免だからね」
そこへ常陸の守も、下の子供たちと一緒に来て、話の中へ入ってきた。
「では、今日こそ自分で嫁を見つけて来るのだな、直人」
「うん。僕、頑張るッ」
ガッツポーズを作る三郎に、四郎から八郎までの弟が声援を贈った。父の腕に抱えられている一歳の九郎もバタバタと両腕を上へ下へと笑いながら動かしている。
三郎は馬の上で手を振りながら出かけていった。
「元服と同時に結婚、と行きそうだな、三郎は」
常陸の守が言うと、
「大丈夫ですかねェ。上手くいけばいいですけど」
と、楓は言った。
「大丈夫だろう、三郎なら。わたし達がこうやって上手くいっているのだから」
この二人も、常陸の守の元服、楓の裳着の式と同時に結婚していた。今では十七を頭に九人の子供……。
こんな家庭環境に育った三郎が、結婚に失敗するはずがない。
そうですね、と楓も笑うしかなかった。icon
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