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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜>掲示板

公開 メンバー数:6人

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  • from: エリスさん

    2008年09月29日 22時45分27秒

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    「Re:驚愕……恋敵は意外すぎ」
     こうゆう精神的に弱っているときこそ、
     彼氏じゃなくて、
     彼女、もしくは妻に癒してもらいたい!

     レズの出会い系サイトにも顔を出して、探してはみているんだけど、なかなかね(-_-)

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  • from: エリスさん

    2008年09月29日 22時36分22秒

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    「Re:驚愕……恋敵は意外すぎ」
     最近は桜の君のことを忘れていられる時間が増えて、
     私的にはそれで良かったのかな、って考えてもいたんだけど。

     また気持ちがぶり返してきちゃったじゃない(>_<)

     「一番好きな人に会えないから、二番目に好きな人が繰り上がってきちゃった感じ」
     私がこの言葉を言ったのは、つい先日だって言うのに。

     まさか男の恋敵出現で、やっぱり「雪原の桜花」はあの人しかいない、ってことを思い知らされるとは思わなかった。

     でも、相手が男でも、勝てる気がしないよ。桜の君なら恋愛よりも「男の友情」を優先するだろうし。そもそも私、あの人好みの美人じゃないからorz

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  • from: エリスさん

    2008年09月29日 20時26分52秒

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    驚愕……恋敵は意外すぎ

     皆さんは覚えてますか?
     去年の夏、某「恋愛成就堂」に私が結んだ祈願文。あれを誰かに盗みだされてから、もう一年。
     その後も、私が書いたものだけが盗まれる、ということが頻繁に続いていたんですが、昨日ようやくその犯人がわかりました。


     いやぁもう、びっくりです。


     【凍える桜】がモテる人だってことは分かってましたが……


     犯人が男だとは思いませんでした。
     いえ、私もバイなんで、その犯人が桜の君に恋していること自体を非難するつもりはありませんが。
     でもいじめる相手を間違えてるよ。私は絶対に桜の君とは両思いにならないんだから、いじめるなら、もっと他にもいるじゃない。

     早い話が、【凍える桜】がいい男過ぎる(いろんな意味で)のが罪ってことです。

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  • from: エリスさん

    2008年09月26日 15時13分09秒

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    「箱庭・27」
     入学当初はまさか自分の再従姉とは気付かなかった。在学中に小説家デビューを果たし、演劇サークル「永遠(とわ)の風」の花形としても絶大の人気を誇る彼女は、誰もが憧れる先輩で、私など傍にも寄れなかったのだ。ましてや、私のいた演劇サークル「七つの海の地球儀」とはライバルの関係にあったし。
     それが、あの時、授業終了直後に具合を悪くした私を、同級生で「永遠の風」のメンバーである草薙建(くさなぎ たける)が保健室まで運んでくれて、保健室の先生がいないことを知った彼女が、郁子を呼んで来てくれたのだ。郁子はこの時、変わった介抱の仕方をした。ヒーリングと言って、自分の気(生体エネルギー)を相手の体内に送り込むというものだった。私は驚きはしたものの、北上郁子がどこかの道場の門下生で霊感のある人だと聞いていたから、こんなことも出来るのかと、それはそれで納得した。
     それから郁子は、ときどき私に話しかけてくれ、親切にしてくれた。
     実はその頃、郁子は私とその周りの事を調査している最中だった。というのも、郁子の祖母・世津子には行方知れずの姉がいて、その姉の若いころと私がそっくりだったことと、その姉の最後の消息であった勤め先が、私の叔母・弓子の嫁ぎ先だったことなど、いろいろと符合することがあったからだ。
     そして郁子はとうとう、私の祖母・沙重子が自分の祖母・世津子の姉であることを突き止めて、紅藤家へ乗り込んできたのだった。それまで私の祖母は、祖父に軟禁状態にされていて、実家との交流を断たれていた。なぜ祖父が祖母に対してそんなことをしていたかと言うと、祖母・沙重子が祖父の「片思いの女性」(実は祖父の実姉)と瓜二つだったからで、しかも沙重子を自分のものにするために、当時沙重子と恋仲だった沢木氏を罠にはめたり、あくどい事を重ねた為だった。しかし郁子が乗り込んできてくれたおかげで、祖母の軟禁状態は解かれたのである。
     「あんた、おばあ様似で良かったね。そうでなかったら……」
     姉の言うとおりである。郁子とは今でも他人だったかもしれない。

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  • from: エリスさん

    2008年09月26日 14時42分04秒

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    「箱庭・26」


       第2章 秋から初冬


     九月になって、体の異変に気付いた私は、さっそく病院へ行った――三ヵ月に入ったところだった。未婚ということで、産婦人科の女医に「どうしますか?」と聞かれたが、
     「もちろん産みます!」
     と、私らしくなく喜び勇んで答えると、
     「そう。それなら良かったわ。これから悪阻(つわり)とかもありますから、あまり無理をしないようにね」
     と、女医は言ってくれた――おそらく、すでに結婚の予定があるものと勘違いしているのだろう。それならそれで構わないけど。
     ちょうど土曜日だったので、その日のうちに崇原(そねはら)――喬志(たかし)に告げることができた。
     当然のことだろうが、喬志は複雑な表情をしていた。
     「予定日って、もう分かるの?」
     「四月の始め頃じゃないかって」
     「ふうん……桜の開花とどちらが早いかね。なんにしろ、おめでとう、沙耶さん」
     そのとき私は、あまりの嬉しさに、喬志の戸惑いを思いやる余裕がなかったのだと思う。今思えば、愛してもいない女に自分の子供を産ませるなんて、きっと、喬志にとってはおぞましいことだったに違いない。それなのに、その日から二組の寝具を用意する私に対して、彼は慈悲深く笑うのだった。
     「おめでたの途端にそれって、随分冷たくない?」
     「え!? でも……」
     「今まで通り一緒に寝かせてよ。俺、寝相は悪くないから」
     「……それじゃ、もうしばらくは」
     喬志はそれからも毎週土曜日に泊まりに来て、次の日に帰って行った。
     私たちのこの生活を、知る人はまだいない。
     そんなある日、姉が「朝顔の種、採れたァ?」と言いながら訪ねてきた。
     「まだ、赤らんでいないから無理よ。出来たら私が届けてあげるから。あの右端の種が欲しいんでしょ?」
     「そう、大きな紫のやつね……それにしても、あんたの庭って、やっぱり夏向きだったのねェ。秋になった途端に殺風景」
     「だから、こうやって秋の花の鉢植えを増やしてるんじゃないの。お姉ちゃん、そこの鶏頭(けいとう)、持って来て」
     「花の名前言われても分かんないわよ」
     「雄鶏の鶏冠(とさか)みたいな花よ!」
     「ああ、これね」
     ちょうど庭の配置換えをしていたところに来たから、さっそく姉を手伝わせる悪い妹だった。
     ひと段落ついて、姉にコーヒーを淹れようと台所へ行くと、居間にいた姉はテーブルの上に置いたままにしておいた封筒を手にして、私の背中に声をかけてきた。
     「アヤさんから手紙きたのね」
     「そう。芸術学院の特別公演のお知らせですって」
     「ちゃんとこっちの住所になってるね。実家からの転送じゃなくて」
     「アヤさんには引っ越したこと伝えてあるもの」と、居間へ戻ってきた私は姉にコーヒーを手渡した。「一回だけ遊びにきてくれたわ」
     「ふうん……相変わらず忙しそうね。もう何年になる?」
     「私が芸術学院の一年生だったから……六年かしら」
     再従姉(はとこ)の高木郁子(たかぎ あやこ)――その当時はまだ結婚していなかったから北上郁子(きたがみ あやこ)だったけど――とは、専門学校の芸術学院で初めて知り合った。

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  • from: エリスさん

    2008年09月19日 14時59分43秒

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    「箱庭・25」
     「お姉さんとお兄さんも?」
     「ええ」
     「どうして?」
     私は、その日初めて、他人に母のことを話した。戦死した婚約者のことから、私を流産しようとしたことまで。話している間、彼は真剣に聞いてくれた。
     「それなのに、お母さんが好きなの?」
     「誰でもそうなんじゃないかしら。憎い、と言ってはいても、心のどこかで慕っていると思うわ」
     「そう……だろうけど」
     「私ね、母みたいになりたいの。母みたいに、一途に、真剣に、人を愛せる人間になりたい。でも、母みたいにはなりたくない。庭造りにだけ逃げて、自分の生んだ子を省みない人間には絶対に。子育ても、庭造りも、両立できる人間になりたいわ。私にとってお母さんは、目標であり出発点なの」
     だから、せめて子供が欲しかった。
     崇原はもう、来目杏子以外の人間は愛せない。私もまた同じ。この先、絶対に結婚できないと決まってしまった今は、彼の慈悲に縋るしかないのだ。
     「施設から養子をもらうことも考えたの。私の再従姉が、孤児院に知り合いがいて。世話してもらおうかと思って相談したんだけど、施設から養子を貰う場合は、結婚していなくてはいけないんですって。それから、それなりに裕福な家庭でないと。だったら、自分で産むしかない、と思って」
     返す言葉が見つからないのか、しばらく考えてから、崇原は言った。
     「いろいろと大変だと思うよ、私生児ってことになると。子供の立場とか、考えてみた?」
     「考えたわ」
     「父親がいないってことで、いじめにあうかもしれない」
     「覚悟はしてる。もしそうなっても、絶対に屈することのない強い心を持った人間に育ててみせる」
     「……俺さ……」
     「認知なんか、してくれなくていい」
     私が言うと、崇原は困惑した顔をした。
     「子供には、父親は死んだって言い含めるから」
     「父親の名前とか、聞かれたら?」
     「そのための人物設定、作っておかなきゃね。人間像を作るのは慣れてるもの」
     「写真見せろとか言われるよ」
     「見ていると悲しいから、みんな燃やしたって言うわ」
     「それで納得するわけないだろう」
     「だったら!」私は、崇原の手を払いのけて、体を起こした。「父親が欲しいなんて思わせないぐらい、私が愛してみせる!」
     そう言い放った途端、呼吸が詰まる。急に起き上ったせいだろう。私は胸を叩いて、喉の通りを直そうとした。崇原も起き上がって、背中を撫でてくれる。
     「心配なのは、子供のことだけじゃないよ。君の体のことだって」
     私はようやく呼吸を整えて、応えた。
     「大丈夫よ、この体とはもう、二十三年も付き合っているんですもの。……大丈夫よ」
     「……俺に出来ることがあったら、遠慮なく言ってよ。頼むからさ」
     「ええ、ありがとう」
     これ以上、望むものなんかない。これ以上この人を欲したら、罰が当たる。――そう思いながらも、それからも私はこの人が通ってきてくれるのを、心待ちにするようになっていた。


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  • from: エリスさん

    2008年09月19日 14時18分50秒

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    「箱庭・24」
     私が階下にたどり着く間に、彼は居間に置いてある自分のバッグを取りにいって、飛蝶とはち合わせたらしい。飛蝶が元気よく鳴いていた。
     「おまえ、可愛い奴だな。人なつこくて」
     私が覗いた時には、飛蝶を抱き上げてくれていた。
     「崇原さん、猫好きなんですか?」
     「妹がね。同じ時期に三匹飼ってたこともある」
     「凄いですねェ。二匹飼うのも大変なのに」
     「うん……あいつも、洋猫欲しがってたな」
     彼はそう言うと、飛蝶を下に降ろして、立ち上がった。
     私の横を行き過ぎて、玄関へ向かう。
     雨はもう、すっかりと上がっていた。良かった――彼に貸してあげる傘がなかったのだ。
     「来週――じゃない、もう今週だな。土曜日に来てもいい? 今度は外泊許可取ってくるよ」
     「大変ですね、独身寮の人は」
     「う〜ん、女子寮の方は寮長が松原さんだから、だいぶ甘いらしいけど、うちの寮長は、ホラッ、あの人だから」
     「勝又さん?」
     「そう。あんなだから三十五にもなって独身なんだよな、あの人は」
     「失礼よ」と私は笑って、自分もサンダルを履いて門まで見送ることにした。
     「土曜日は、午前中に出版社の方が来るので、午後からにしてください」
     「わかった。本、ありがとね」
     なんだか、楽しそうに見えた、彼の表情が。そんなはず……あるのかしら?
     言うなれば、利害関係が一致したのかもしれない。子供の欲しい私と、恋人を失って孤独でいるあの人と。
     私はまた、再従姉妹(はとこ)が言っていた言葉を思い出した。
     「私は、彼女の慰み者ですもの」
     彼女は笑顔のまま言っていたけれど……。
     私は、たぶん、あの人の慰めにもなれていないのじゃなかろうか。むしろ、傷つけているかもしれない。



     崇原は、約束通り来てくれた。お土産まで持って。
     「うちの妹が、よくこんなので子猫と遊んでたんだよ」
     そう、私にではなく飛蝶に。おもちゃの猫じゃらしだった。
     私が夕飯を作っている間、彼はずっと飛蝶の相手をしていた。そんな様子を見ていると、本当に子供っぽくて、可愛い。虎王(とらおう)と暮らしていた頃の私の兄を思い出す。虎王も生きていてくれたら……。
     それなのに、寝室の明かりが消えると、急に大人の顔になる。
     もう、痛みは感じなくなっていた。
     けれど、終わった後にくる動悸は、しばらく治まってくれない。
     彼もこのことを気にかけてくれていたらしく、胸を押さえている私の手の上に、そっと自分の手を乗せてくれた。
     「こうしてると、少しは落ち着くだろ?」
     「……ありがとう。藤○郁弥の歌にありましたね、そういうの」
     「〈Mother's Touch〉。俺、あの歌好き」
     「姉がCD持ってますよ。ファンなんです」
     「へェ。俺とお姉さんって、気が合いそうだね」
     気が合うどころか……会わせたら、どんな顔するんだろう。
     「ねェ、君が母親になりたがるのってさ」
     崇原はそう言ってから、言葉を飲み込んだ。
     「なァに?」
     「いや、言いにくいだろうから、いいや」
     「言って。かえってスッキリしないから」
     「うん……お母さんと、仲悪いの?」
     「……そうよ」と、私にしてはあっさりと答えた。「愛されていないわ、私たち、三人とも」

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  • from: エリスさん

    2008年09月12日 17時00分33秒

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    「Re:箱庭・23  を書いていたら..... その帰り道」
     私の職場があるショッピングモールでお買物してたら、

     凍える桜にそっくりな人を見かけてしまいました(・・?) 
     本人じゃなかろうな?
     眼鏡をかけていなかったから、いまいち自信がない――度のきつい眼鏡だから、普段は外すようにしているんです、私。


     昔の男のことなんか思い出して、一番好きな人を忘れようとしている私に対して、恋神エロースさま(神話読書会サークル参照)が幻を見せて、戒めてくれたのかもしれない。
     反省しなきゃ……(-_-)

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  • from: エリスさん

    2008年09月12日 15時13分47秒

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    「箱庭・23  を書いていたら.....」
    >  「なに? もう追い返すつもり?」

     この台詞を書いているとき、体がゾワッとした。
     見た目のモデルは堂本光一のはずなのに、OL時代に好きになった「見た目中学生の先輩」が言っているビジョンが目の前に広がったからだ。
     声もイントネーションも、小生意気っぽく笑ってみせる仕草まで、まざまざと!
     そりゃま、人物設定はその先輩をモデルにしてるんですけど....




     今一番好きな人と会えないと、こうゆう時に昔の男を思い出すのか。情けない....。





    >  パカッ、パカッ、と仔馬の駆け足のようなリズムで足音をたてながら、彼が階段を降りていく。


     この「階段を降りる癖」なんか、まんま彼の癖を表現したものだものね。




     どうしてるのかね、ア○○○さん。まだあの印刷会社にいるのかしら。
     それとも故郷の石川県に帰った?
     元気にしてるといいけど。

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  • from: エリスさん

    2008年09月12日 15時05分15秒

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    「箱庭・23」
     たぶん、切っ掛けはそうだった。けれど今は、千鶴のことを思い出すこともなくなっている。
     ――そんなことを言ったところで、彼の気に染まることはない。何故なら、彼が愛しているのは……。
     私は、自分の着ていた浴衣を引き寄せて、彼が見ていない隙に体に巻いた。
     「あっ、まだ……」
     「もう、大丈夫です。……出血、止まりましたから」
     「……そう」
     起き上がってから腰ひもを締め、簡単にお端折りをしてから帯を巻く。そうして、私は階下へと降りて行った。
     乾燥機の中で、彼の服がすっかり乾いていた。私がそれを抱えて持っていこうとすると、居間の座布団で丸くなっていた飛蝶が目を覚まして、私の足元まで駆けてきて、すり寄った。
     「ごめんね、飛蝶。もうちょっと待っててね」
     かわいい声で鳴いて、遊んでほしそうにする。こんな時間まで独りで放っておいたのである、無理もない。
     遊んであげたいけれど……。私は、身をかがめて彼に言った。
     「お願い。もう少し、あの人と二人だけになりたいの。こんなこと、滅多にないだろうから」
     この子は私の言葉が分かるのだろうか。その場にちょこんと座ると、私のことを見送ってくれた。
     二階の寝室へ行くには、書庫の前を通る。その書庫のドアが開いて、明かりがついていたので、私は覗いてみた。思ったとおり、崇原が本棚の本を手にとって、見ていた。
     「服、乾きましたけど」
     「あ、ごめん。勝手に入って……。しばらく戻って来なかったから」
     「飛蝶に捕まっちゃってたの。隣の部屋で、着替えて」
     私がそう言うと、彼はニコッと笑いながら言った。
     「なに? もう追い返すつもり?」
     「え!? いいえ、そうじゃなくて、その格好のままだと、その……」
     この人の着流し姿って、本当に色っぽくて、見ているのはずかしいんですもの。
     それなのに、彼は別の意味で取ったらしい。
     「女の格好してると、余計に千鶴って人に似てるから?」
     「違います! そうじゃなくて……」
     「いいんだ。俺だって、人のこと言えないし」
     「え?」
     困惑している私の手から、彼は自分の服を受け取って、寝室へ戻って行った。
     どうゆうこと?――崇原も、誰かに誰かの面影を重ねてるの? 来目杏子に?
     おかしいことじゃないのかもしれない。今まで数々の恋愛小説を読んできた中にも、誰かを好きになった切っ掛けが、昔の恋人や、母親、姉、妹――等に似ていたからってパターンはざらにある。私の文学の原点である「源氏物語」でさえ……。
     そう、私はこうやって自分自身に納得することはできる。でも、彼はもしかすると、このことで傷ついてしまっているのではないだろうか。
     だからと言って、私に何ができる?
     ――着替え終わった彼が戻ってきた。
     「今日洗濯してもらった下着、どっかに仕舞っておいてよ。今度来る時のために」
     「今度?」
     「……まさか、今日だけ、なんて考えてたの?」
     そのつもりだった。けれど……。
     彼は書庫に入ると、祖母の本を二冊、手に取った。
     「これとこれ、貸してくれないかな。俺、持ってないんだ。来週来たときに返す」
     「来週、ですか?」
     聞き返すと、彼はまっすぐ私の方へ向き直って、言った。
     「しばらく、通うよ」
     「え、でも……」
     「子供ができるまで。欲しいんだろ? どうしても」
     「ええ、でも……」
     「俺がそうしたいんだ。そうさせてよ、沙耶さん」
     一瞬、ドキッとした――呼び方が、変わった。男の人にファーストネームで呼ばれたのって、祖父以来だわ。(兄は「シャア」と呼ぶし、父親は私のことなんて呼びもしない)
     「本当に、いいんですか?」
     「くどいよ」と、彼は微笑んだ。「それじゃ、今日は外泊許可取ってないから、帰るよ」
     「あ、ハイッ。ごめんなさい、お引き止めして」
     パカッ、パカッ、と仔馬の駆け足のようなリズムで足音をたてながら、彼が階段を降りていく。私は……まだ少し痛みを感じるので、そうっと降りた。

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