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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜>掲示板

公開 メンバー数:6人

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  • from: エリスさん

    2008年11月28日 14時21分15秒

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    「箱庭・42」
     「こんな風にズルズルと引きずってるぐらいなら、いっそのこと二人が結婚しちゃった方がすっきりするじゃない」
     と志津恵が言うので、
     「いいえ……いいえ、駄目です」と私は言った。「結婚なんて出来ません。私はともかく、喬志さんはまだ独身でいるべきです。まだ、どうなるか分からないんですから」
     「分からないって、何が?」
     「来目さんです。彼女が大石さんと結婚したのは、きっと何かの気の迷いです。私、彼女がどんなに喬志さんを想っているか、良く知ってます。だから、遠からず、大石さんとは離婚するはずです。その時に、彼が私と結婚していたら、よりを戻せなくなります」
     綺麗事ではなく、その頃の私は本当にそう考えていた。それが自然なのだ。
     けれど、喬志は私が話している間、ずっと目を伏せていた。志津恵も湯呑を置くと、彼を見据えた。
     「話してないの? 崇原」
     彼は黙っていた。
     「フェアじゃないわね」
     「……なんの……ことですか?」
     私にはわけが分からない。
     「杏子ね、妊娠してるのよ。今、八ヵ月」

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  • from: エリスさん

    2008年11月28日 14時06分50秒

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    「箱庭・41」


     十月。注文していた寒椿が届いて、私の庭は華やかさを増した。紅葉も色づき始めて、しばらくは退屈しない日々がつづきそうである。
     そんな土曜日、喬志と一緒に安倍志津恵が訪ねてきた。手に一杯のお土産を持って。
     「妊婦は栄養を取らないと駄目なのよ」
     彼女が会社の同僚たちに上手く言ってくれたおかげで、彼女らが訪ねてくることはなくなった。最近は専ら電話でおしゃべりする程度である。それにしても、志津恵はなんと説明してくれたのだろう。まあ、どんな説明でも、会社のお局様に逆らおうなんて人はいないけど。
     その代わり、志津恵はちょくちょく私の様子を見にきてくれるようになり、私の知らない料理の作り方を伝授してくれた。
     さて、本日の料理は……。
     「はい、これは何でしょう」
     見た途端、喬志は逃げ出し、私は物珍しさに引き込まれた。
     「大きい目玉。魚の……マグロですか?」
     「ご名答」
     私の横で、飛蝶も喉を鳴らして喜んでいた。
     「で、こっちが鳥のレバーね。紅藤さん、レバー嫌いだったでしょ? だから、今日からレバー好きになってもらうわよ」
     「……なれるんでしょうか?」
     「してみせる! さて、それじゃ先ずは目玉からね。大きい鍋と、大根ある?」
     「あります――喬志さん、飛蝶のこと、見張っててね」
     「あ、うん……。飛蝶、隣の部屋で遊ぼうな。滑り台でもするか?」
     私が志津恵に「マグロの目玉鍋」の作り方を教わっている間、喬志はずっと飛蝶の部屋に閉じこもってしまった。無理もない。魚嫌いには耐えられない匂いが、台所から居間へ流れて来てしまうのだから。
     その日の夕飯は、よって志津恵も一緒だった。飛蝶も私の横に新聞紙を敷いて、お皿を持参し(本当にくわえて持ってきた)、おこぼれに預かっていた。
     私は恐る恐るレバーの唐揚げを口にしてみた。すると……食べられた。
     「ね? 悪くないでしょ。レバーには鉄分、魚の目玉にはDHAが含まれていて、体にいいのよ。最近はアトピーにかかる子供が増えてるけど、あれの原因の多くは母親が偏った食事をして栄養をつけていなかったり、添加物の入った物を食べていたりしていたからであって……崇原、何さっきから大根だけ拾って食べてるのよ。あんたもDHAを取りなさい!」
     と、志津恵が言うと、
     「いえ、俺はいいですよ。DHAなら足りてますから」
     「何言ってるの! この中で一番視力弱いの、あんたでしょッ」
     「俺、魚嫌いなんですよ。特に海のものは。内陸育ちなもので」
     「山奥育ちの間違いでしょ、田舎者。紅藤さんを見習いなさい。ちゃんと嫌いなレバーを食べてるじゃない」
     なので、私は言った。「私のは、食わず嫌いだったみたいです」
     「崇原、今だけ嫌いなものを我慢するのと、これから一生私に睨まれるのと、どっちがいい?」
     「どっちも嫌だけど……食べますよ」
     こんな和やかな(?)食事も終わって、私はお茶を入れて志津恵に差し出した。志津恵がそれをゆっくり飲んでいる間に、崇原には熱燗、私には花梨の蜂蜜漬けをお湯で溶かしたものを作って、運んできた。私が自分用に持ってきたそれを見て、崇原は珍しく思ったのか、味見がしたいというので、一口だけ飲ませてあげた。
     「あ、ちょっと酒みたいな匂いがする」
     「発酵するから。どう? お味は」
     「喉がスッとするね。甘いのが難点だけど、なるほど、沙耶さんに合った飲み物だ」
     「そうでしょ?」
     しばらく私たちが会話しているのを眺めていた志津恵は、突然口を開いた。
     「あんた達、結婚しなさい」
     二人とも言葉を失ってしまった。

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  • from: エリスさん

    2008年11月21日 15時30分46秒

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    「箱庭・40」
     「……ねえ、でもどうして結婚しないの? あなたに子供を作らせたってことは、その人もあなたのこと……」
     「ううん。そうじゃないの」
     私は喬志からこの子を授かった経緯を、彼女に話してあげた。私がそんなことをしていると知って、相当なショックを受けたらしいことは、表情を見ればわかる。
     「度胸あるみたいね、その男。私なんか、途中であなたが死んじゃうんじゃないかと思って、気が気じゃなくて……」
     「途中でやめちゃうこともあったものね」
     「そうゆうこと、考えてくれないの?」
     「考えてくれてるみたいよ。多分、彼自身は少しも満たされていないと思う。それでも協力してくれたのよ」
     「で、そいつの顔が私そっくりなの?」
     「ええ」
     「背の高さも?」
     「背は……千鶴のが高いわね」
     「そんなにちっちゃいの? まさか、TMレボ○ューションや藤○郁弥ぐらい?」
     「藤○郁弥って、身長一六三・五㎝だったよね」
     「一説には一六二・五㎝ともあるわ」
     「うん。だったら、喬志さんの方が二、三㎝高いわ」
     「それって、男にしては低いんだよ、わかってる?」
     「いいのよ。人間見た目じゃないでしょ?」
     などと言いつつ、初めは外見に惹かれたんだけど。――とにかく、千鶴は私の心を射止めた人間が、自分より劣っているとしたら嫌だから、確認したいのだ。他にもいくつか質問して、彼女もようやく納得してくれた。
     「きっとあなたのことだから、そいつも私みたいに骨抜きにしちゃうんだろうね」
     「まさか。彼には他に想う女性がいるのよ」
     「でも、そんな気がする」
     ようやく話の決着がついたころ、君子が私たちの荷物を持ってやってきた。
     「私、もう帰るけど、あなた達どうする?」
     と君子が言うので、千鶴は、
     「ああ、私はこのあと、稽古なの。稽古場行かないと」
     「私は帰るわ」と、私は言った。「電車、同じ線よね。一緒に帰りましょ……それじゃ、元気でね」
     「うん……あなたもね」
     「ありがとう」
     私と君子が公園を出るまで、千鶴はずっと見送ってくれていた――多分、彼女とはこれからも会えそうな気がする。
     駅まで歩く道のりで、君子は私に「崇原(そねはら)さんでしょ?」と聞いた。
     「食堂出ていくの見てて、ピンときちゃった。そうでしょ? 何ヶ月目?」
     「勝てないわね、あなたには。三ヵ月よ」
     「崇原さんは知ってるよね。でも会社のみんなには内緒にしてるんでしょ?」
     「その方がいいと思うの。彼も会社で仕事しづらくなっちゃうから」
     「だったら、一人味方を作っておいたら。今はごまかせるとして、お腹が大きくなってきたら……志津恵さんがいいわね」
     「そうね、そうするわ……あなたは?」
     「ん?」
     「あなたは味方になってくれないの?」
     「なってあげたいけど、私もう、会社に居なくなるから――結婚するのよ、私」
     「あ!? だからアヤさんの担当外れたの? 相手の人って、お見合いしたって言ってた?」
     「うん。お父さんの部下でね、初めは嫌だったの。政略結婚だ!って反発してたんだ。でもね、付き合ってみると素敵な人でさ。考えてみれば、私、長女だけど上に兄がいるし、会社継ぐ必要もないんだから、政略云々ってことはないはずなのよね。お父さんはただ、純粋に私の結婚相手を選んでくれただけだったの」
     「好きなのね、その人のこと」
     私が聞くと、頬を赤らめながら君子はうなずいた。
     「そう、良かったわね。おめでとう」
     「ありがとう……紅藤ちゃん、結婚はした方がいいよ」
     真剣な表情で、君子は言った。「崇原さんとは無理でも、他の人でもいい人が見つかったら、結婚した方がいい。あなたのためだけじゃないよ。子供のためにも。子供の躾にはさ、父親の存在も必要だよ。私のお父さんもね、そう考えて、私が五歳のときに今のお母さんと再婚したの。私ね、お父さんの選択は間違ってなかったと思う――って言えるのは、お母さんがいい人だからだけど。やっぱり片親っていうのは、辛いよ。寂しいもの」
     「うん……参考にさせてもらうわ」
     ごめんね、君子。
     誰になんと言われても、この意志だけは変えるつもりはないの。だけど、彼女を安心させたくて、私は嘘をついた。


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  • from: エリスさん

    2008年11月21日 12時50分28秒

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    「Re:Re:2サークル共通「聖徳太子がいなかった!?って〜〜」その後」
    >  関東では今晩放送の「新説!? 日本ミステリー」で、聖徳太子がいたのか、いないのか? の調査結果を放送するようですね。
    >  どんな結果が出たのか、楽しみです。



     大方、私が知っていることばかりだった。
     ということは、まだ目新しい発見はないってことですよね。

     番組を見ていなかった皆さんのために説明しますと、聖徳太子という人は、もともとは厩戸皇子という実在の人物に架空の実績をかぶせて、カリスマ化したものだった。なぜそんなことをしたかと言うと、日本書紀を編纂していた当時はちょうど「大宝律令」を制定したころであり、その「大宝律令」を世に浸透しやすくするために、
     「大宝律令は、かつて偉大な摂政が制定した憲法を基にして作られた」
     という話をでっちあげなければならなかった。その為に、血統正しく、なおかつ血筋が絶えてしまっている厩戸皇子を利用した。(厩戸皇子の子孫はすべて蘇我蝦夷・入鹿に滅ぼされている)なぜ血筋が絶えてしまっている皇子を選んだかと言うと、厩戸をカリスマ化したことでその子孫が「次の天皇候補」に名乗りをあげる危険性があるため。また、子孫がいなければ、「聖徳太子として塗り固められた業績」がすべて嘘であることを暴かれることもない。だからこそ、子孫がいない厩戸皇子は「大宝律令」を制定した人間たちには都合がよかったのである。


     というのが番組の内容でしたね。以前に私が書き込んだのとだいたい同じ内容でしょ?
     番組の中では「それらの政治的工作を行ったのは藤原不比等」だと言っていましたが、私は国史編纂を指示していた天武天皇・持統天皇も多少絡んでいるんじゃないかと思っています。

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  • from: エリスさん

    2008年11月18日 18時47分20秒

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    「Re:2サークル共通「聖徳太子がいなかった!?って〜〜」その後」
     関東では今晩放送の「新説!? 日本ミステリー」で、聖徳太子がいたのか、いないのか? の調査結果を放送するようですね。
     どんな結果が出たのか、楽しみです。

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  • from: エリスさん

    2008年11月14日 14時57分21秒

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    百合作品が好きな私としては

     やっぱり観ないわけにはいかなった。「櫻の園」

     というわけで、読者の皆さんも「エリスのことだから、絶対見に行ってるはず」と予想されていたのではないでしょうか。
     はい、期待を裏切ることなく観てきましたよ。自分が働く映画館で。そして、萌え萌えな感想を述べて、同僚たちを失笑させましたとさ。

     いや、本当に百合作品が好きな人にはお勧めな作品なんですって。女の子同士のラヴシーンはありませんけど(笑)、それに近い、ホワンっとしたものはあるんで。機会があったら観てくださいな。
     しかし、主人公が福田沙紀という、百合とは無縁そうに見える子が演じていたせいもあるのか、全国どこの映画館でも「櫻の園」は閑古鳥が鳴いてるらしいですね。福田さん、演技力はあると思うんですが、今まで演じていたキャラがイメージが悪かったりするんで。汚れを知らない百合の世界に「そぐわない」と思われてしまってるかもしれませんね。
     まあ、主人公自身はソフトレズなキャラではないんで。他のキャラで楽しんでいただければ、幸いです。



     さて、連載中の「箱庭」ですが。
     今日の更新分は、思いっきり「百合の世界」でしたね(笑)。
     やっぱり私は百合物を書いてナンボの人間なんで。よく通販で本を買おうとすると、画面の下のほうに、
     「この本を買った人は、この本も買ってます」
     っていう項目があって、似たようなジャンルの作品が紹介されてるじゃないですか。
     私の「罪ゆえに天駆け地に帰す」を通販で買おうとすると、一迅社の「Wildrose」とか、コミック百合姫で連載されていた作品が紹介されます。通販会社側も、私の作品は「そうゆう物だ」と判断しているらしいです。出版社側はそんな宣伝の仕方はしなかったんですけどね。

     ところで私を知っている人たちは、今日と先週分を読んで、
     「エリスの本名とそっくりなキャラがいる」
     と気づいたはずです。
     「もしかして、筆者本人がモデル??」
     芸術学院のモデルが私の母校である文化学院なので、私をモデルにしたキャラが出てきてもおかしくはないのですが、正確に言うと、そのキャラのモデルは私ではありません。
     言うなれば「自分の憧れる女性像」を描いたのが、そのキャラなんです。
     こんなカッコいい女になりたかった……無理だけど。
     いったいそれは誰でしょう――知りたい人は個人レターで聞いてくださいね。その人にだけそうっと教えますので。

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  • from: エリスさん

    2008年11月14日 14時18分49秒

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    「箱庭・39」
     建が言っていた通り、三つ子の姉妹が作ってくれた料理はどれも美味しかった。それに、他の出演者たちも集まって、同窓会気分になっていたのが、花を添えたのかもしれない。私は懐かしい面々と、しばらく歓談を楽しんでいた。――千鶴とは、席を離して座っていたせいか、なにも話せなかったけど。
     そうこうしている内に、私は胸の奥がむかつき始めていることに気付いた。――食事の匂いにむせているんだわ。
     「沙耶さん」と郁子がそっと囁いた。「大丈夫? 顔色が……」
     「うん……大丈夫なの。あのね……」
     私は郁子に耳打ちで説明した。ああ、と郁子も納得する。
     「今なら誰も見ていないわ。いっていらっしゃいな」
     「ええ。ごまかしておいてね」
     勝手知ったる母校。学生食堂を出て一番近いトイレがどこか、忘れるはずもない。私は、洗面台の水道の水を出しっ放しにして、悪阻と闘った。――だいぶ慣れてはきたみたいね。
     そこへ、誰かが入ってきた。まだ顔を上げられなかったからすぐには気付かなかったけど、背中にそっと触れた手で、千鶴だとわかった。
     「治まった?」
     千鶴に聞かれて、私は黙ってうなずいた。
     「沙耶、あなた……妊娠してるの?」
     「ええ。三ヶ月目なの」
     「……どうして……」
     千鶴は私の両腕を掴んだ。「どうして妊娠するのよ!! もう私のことは忘れたの!?」
     「離して、千鶴」
     「相手はどんな奴なの。よりによって、なんで男となんか!」
     「離して、痛いッ……」
     「ねえ、沙耶!!」
     すっかり自我を失っている彼女の肩に、ポンッと白い手が乗った――郁子だった。
     「その手を離しなさい、南条さん」
     「北上先輩……」
     「離しなさい。あなたにそんな権利はないでしょ? 彼女を捨てたのは、あなたよ」
     千鶴はようやく私を解放してくれた。まだ少し握られた手首に痛みが残る……。
     「アヤさん、ごめんなさい。千鶴と二人だけで話をさせて。お願い……」
     郁子はしばし黙っていたが、
     「……後で荷物を届けさせるわ。いつもの場所へ行きなさい」
     「ありがとう、アヤさん」
     私と千鶴は、学院を出ると、神田の古本街へ向かう坂道の途中にある小さな公園へと行った。そこが、かつて私たちの待ち合わせ場所だったのだ。
     あのころのように、人工の川に渡してある橋の上に、二人で立つ。しばらく沈黙が続いたが、待ちきれなくなったのか、千鶴が言った。
     「結婚するの?」
     「しないわよ。する気ない」
     「なのに、子供は作ったってわけ」
     「欲しかったのよ。知ってるでしょ? 私の母親願望」
     「知ってるけど……じゃあ、相手の男、好きじゃないの?」
     「私がそんな女に見えて?」
     「見えないから嫌なんじゃない」
     その言葉に、私は笑った。
     「変なの。別れようって言い出した本人が、嫉妬してるなんて」
     「だって!!……あなたが、私以外の人間を好きになるなんて、考えもしなかったから」
     「私も。お母さんの教えに従っていれば、私の恋はあなたで終わるはずだったわ。でも、できなかった」
     「それだけ、いい人なんだ」
     「あなたに良く似ているわ、見た目だけはね。内面は……あなたより、もっと素敵かも」
     「普通ノロケる? こんな場面で」
     「あなたもノロケればいいじゃない。劇団の若い女の子と、交際してるんでしょ?」
     「あれはマスコミのでっち上げ! なんで私があんな性格ブスと!」
     良かった。ちゃんと話せてるわ、私たち。
     あの日、千鶴から別れようと言われた時、私、ショック死するかと思うくらい、胸が締め付けられた。でも、承諾するしかなかった。千鶴はこれから芸能界に入って、スターになれるかもしれない人。私とのスキャンダルなどあってはならない。――そう思って。
     高校生の時から、六年間の付き合い。ファーストキスも何もかも、彼女と体験した。いつか結婚もできる、そう信じていたけれど、現実はそんなに甘いものではなかったのだ。
     「あなた、今でも私が、スターになりたいから、あなたを捨てたと思ってる?」
     「まさか。……でも、少しはそれも理由になっているんでしょ?」
     「否定はしない……でも違うわ」
     千鶴は私を優しく抱きしめた。「今でも愛してるの。ホントよ。でも、私、怖いの。あなたがあんまり一途すぎて、健気で、強く愛してくれるから、溺れてしまいそうになるの。自我を失うほど溺れきって、それが喜びになってしまいそうで、怖かったのよ。あのままじゃ、私、いつかあなたを誰にも渡さないために殺してた。あなたならきっと、それでもいい、って言うでしょ?」
     「そうね。あの頃の私なら、今日の舞台の主人公みたいに、笑顔で死んであげたわ」
     「だからよ! そうなるの、怖かったの。こんなこと言わなくったって、私の気持ち、気づいてたでしょ!」
     「……意気地がないのね、あなた」
     私はそう言って、ゆっくりと千鶴から離れた。
     「理由はどうあれ、私たちは別れたのよ。だったら、私がどんな人と交際しようと、私の自由だわ。あなたは口を出せないはずよ」
     「分かってる――頭では分かってるの。でも、気持ちが付いていかない」
     「しょうもない人ね」

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  • from: エリスさん

    2008年11月14日 11時56分40秒

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    「箱庭・38」
     「今回の舞台、二人には是非とも出演してもらいたかったんだけど」
     と、郁子は千鶴と瑞穂に話しかけた。「なにしろ、プロは出演できないことになっているから……それだけが残念で」
     すると建(たける)も言った。「そうだよな。絶対、俺より瑞穂の方がジーラのイメージだったよな」
     「とかなんとか言っちゃって、本当は〈美夜の相手役ができるのは、俺だけだ!〉なんて思ってるんじゃないの?」
     と宗像瑞穂が言うと、
     「いや、それがさ、カールの姉御(川村郁)の企画じゃ、ジーラが瑞穂だった場合、フェブは俺ってことになってたんだよ」
     「え!? そうなの……まあ、あんた女役も上手いけど」
     「それじゃ私は?」と千鶴が聞くと、
     「フェブの弟役。ホラ、フェブに惚れて、ジーラと取り合いになるだろ?」
     「ライバル同士にはぴったりの役柄ね」
     と言ったのは君子だった。
     さて、建たちがここへ来たのは、郁子と昼食を取るためだった。有名人が昼日中から外で(しかも大勢で)食事をすると目立つので、学生食堂を借りて「永遠の風」の後輩たちが用意してくれたそうだ。
     「それなら急いで着替えるわ。みんな、廊下へ出てて。あ、タケルは手伝って。髪、編んでちょうだい――沙耶さんはそこに座ってて」
     と、私は近くの椅子を勧められた。
     私は言われる通りにそこで待っていた。千鶴と一緒にするのは気まずいからだ。それを郁子も分かってくれている。
     「紅藤ちゃんも食べていきなよ」
     と、郁子の髪を三つ編みにしながら、建は言った。「今日の料理人はね、三つ子の姉妹なんだけどさ、三人とも料理上手なんだよ。特にパスタが」
     私が言葉を濁していると、郁子が言った。
     「タケル……沙耶さんだって、忙しいんだから、無理を言ってはだめよ」
     「そうだけど……久し振りじゃん、みんなで会うの。南条さんがすると気まずいのは分かるけど……それ言ったらさ、俺だって美夜と別れて、龍弥と結婚して、いろいろと気まずいこともあったよ。けど、嫌だろう? 一度は想い合った者同士がギクシャクしてるのって。だから俺も美夜も、今はそうゆうの乗り越えちゃってるし」
     建の言うとおりなのかもしれない。私だって、このままがいいとは思っていない。恋人には戻れなくても、千鶴とはいい関係でありたい。なので、私も食事の席に呼ばれることにした。

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  • from: エリスさん

    2008年11月07日 14時30分43秒

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    「箱庭・37」
     「でも、あなた……結婚の予定は?」
     「ないですよ。未婚のまま、産もうと思ってるの」
     「そう……」
     「アヤさんも、出産は無理だって言う?」
     「そうね……子供は産めるわ、でも」
     そんなときだった。廊下から何人かの話し声が聞こえてきて、近づいてきたかと思うと、ガラッとドアが開いた。
     「アヤ姉ちゃん、着替え……なんだよ、まだ終わってないの?」
     「あなたが早すぎるのよ、タケル」
     「あ、紅藤ちゃんじゃない!」
     入ってきたのは、私と同期で、郁子にとってはサークルの妹分である黒田(旧姓・草薙)建(たける)だった。名前からして男と間違われやすいけど、家庭の事情で男のように育てられただけで、歴とした女性。しかも結婚して、一児の母なのである。彼女は私より早く作家としてデビューしていた。主に漫画原作だけど。
     「読んでるよ、紅藤ちゃん。月刊ミルフィーユ!」
     「え!?」
     私が後ずさったのは書くまでもない。
     「どうして草薙さんが、あの雑誌を」
     「うちのサークルの後輩が、単発で描いてるんだよ。見たことないかな? 雪見苺(ゆきみいちご)ってペンネーム」
     なんて世間は狭いのかしら……。
     「う〜ん、でも驚いたわよね」と言いながら、もう一人誰か入って来た。「まさか紅藤ちゃんが、あんなヤラシイの書いてたなんて」
     なんと、東海林君子だった。
     「どうしてあなたが、ここにいるの!?」
     「失礼ね。私だってここの卒業生よ」
     と君子が言うと、郁子が補足した。
     「私が招待したのよ。元担当だから」
     「あ、そうだわ」
     私は急に思い出して言った。「東海林ちゃん、あなた今、どこの編集部にいるの?」
     「ああ、それなんだけど……」
     君子が言いかけている時だった。
     「パックは私がやるべきだったのよ!」
     え!? この声!?
     「文句があるなら、演出家の先生に言ってよ。とにかく、もう過去のことだもォ〜ん」
     「あァ〜ん! 悔しい!!」
     すると建は言った。「まだやってるよ」
     「あの声は、宗像さんと……」
     と郁子が言うと、建は、
     「うん、今そこで会ったから、連れて来たんだけどさ……あの二人、在学中から仲悪かったからな。ライバルだったし」
     「卒業公演の“真夏の夜の夢”のパック役、争ってたんだものね。おまけに所属していたサークルもお互いに敵対してたから」
     と、君子は言って、廊下へ顔を出した。
     「ちょっとお二人さん。いい加減にして入ってきたら」
     二人――そのうちの一人は建の友人。そしてもう一人は……。
     「久しぶりね、南条さん……いえ、紅 沙耶華(くれない さやか)さんと呼ぶべきかしら?」
     「御無沙汰してます、北上先輩」
     私のかつての恋人、南条千鶴だった。肩を過ぎた髪を茶色に染めて、テレビで見るよりずっと色っぽく見える。服装の効果もあるのだろうか。――彼女は私を見つけて、目線を逸らした。

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  • from: エリスさん

    2008年11月07日 12時03分28秒

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    久しぶりに出てくる....

     今日は「神話読書会」http://www.c-player.com/ac48901 から更新を始めますが、その更新する話に久しぶりに「あの人」が出てきます。

     斎王神アテーナーの思い人・ヘーパイストス男神。
     この人のことを書くと思い出すのが、以前はすごく好きで、今でも好きなんだろうけど大分気持が落ち着いてしまった、あの人。

     気持ちが落ち着いてしまったのは、目の前から恋敵がいなくなってしまったから、だと分析してるんですが。今でもあの貞操観念のない女が職場にいたら、あの人を汚されたくない一心で躍起になってたのかなァ。

     私がヘーパイストス男神とあの人を同一視してしまうのは、アテーナー女神が私の理想像であり、その女性に一途に想われている男性だからでしょう。それに、あまり美男子じゃないところと、実は女性に対して不器用な一面があるところが(まっすぐ相手の顔が見られないとか、つい乱暴な口をきいてしまうところとか)、あの人に通じているからでしょうね。


     というわけで、今日は久しぶりにあの人のことを思い出しながら執筆しようかなっとは思ってるんですが。
     書き終わったら、ちゃんと今現在の気持ちに切り換えようと思います。


     いえね、先日友人に言われたんですよ。
     「雪割草さんがいなくなったら、エリスさんはどうするんですか?」
     って。
     「たぶん、桜の君のように《思い出》に変わるんじゃない?」
     「いいんですか? それで」
     いいわけないけど......私の年齢とか、向こうの立場(跡取り息子)とか考えたら、絶対にうまくいくはずがないんだから。

     それでもアテーナー女神のように、純潔を守りながら恋しい人を思い続ける生き方って、女として憧れてやまない。

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