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from: エリスさん
2010年01月29日 14時29分50秒
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「阿修羅王さま御用心・18」
「それにしても」と、建は言った。「なんでこの曲にしたんですかね。もっと盛り上がりそうなダンス曲もあっただろうに……そりゃ、悪くはないけど」
「わからない?」と、郁子は言った。「ちゃんとこの曲の歌詞を読んでみた?」
「歌詞?」
「今から歌詞に集中して耳を澄ませなさい。そうすれば分かるから」
〈千年メドレー〉が流れてくる――メドレーと言うからには、複数の曲をつなぎ合わせたものだ。この曲、ダンスを、郁は郁彦のコネで連れて行ってもらった某ジャ○ーズタレントの舞台で初めて見、そして圧倒された。
幻想的な演出――華やかで古典的な衣装は、歌舞伎の舞台を見ているようだった。だが、曲は現代的なもの。その曲とダンスが、本来アンバランスなはずなのに、実によく合っている。
殊に惹かれたのは、歌詞。
これは、日野富子の心情そのものだ、と感じられる。
《 お断り●ここには当初歌詞が書かれていましたが、ネット転載に際し歌詞は大人の事情でカットしました。読者の皆様、各位で“千年メドレー”でググッてください <(_ _)> 》
ダンスの中には、メインだけが踊るパントマイムがあった。見えない仮面を両手に持ち、手の中で弄び、また被る、とっい動作――このダンスの見せ場だった。郁はこの動作をポイント、ポイントでコンマ数秒止めて、客席に何をしているのか気づかせようとするが、智恵はすべて流れるように動き、妖しさを増している。人によって振付の解釈が違うのは仕方ないが、
『できれば、この二人の要素が両方ともこなせるといいのに……』
と、郁子は思っていた。――自分ならどう魅せようか、と考えてみる。
『来年は私もこれをやろうかな……あとでチャーリーと話し合おう』
……曲が終わる。
「どう?」と、郁子は建に聞いてみた。
「仮面、っていうのがポイントですよね。富子は仮面を被っている……そういうことですか?」
「そう。それはどういう仮面かしら?」
「御今に見せる笑顔の仮面……本当は憎んでいるのに、そんなことはないと思わせるために」
「それだけ?」
「だけって……他にありますか?」
「考えなさい。あなたが富子なのよ」
「はい……義政に向ける仮面、かな? 自分が御今に無実の罪を着せていると気づかせないための、従順で愛らしい、少女のような仮面。あとは……」
建が悩み始めてから二、三分経ったので、郁子はヒントをあげた。
「場面(けしき)が変わるたびに仮面を付けかえているのよ。脚本の中だけの世界で終わってしまわないで」
それで、建は思いついた。
「富子って、他の男とも浮名を流してるんですよね。当時の若い帝とか、武将の山名宗全(やまな そうぜん)とか! あれって、自分の産んだ子が将軍になれるように味方を作るためだったんですよね。つまり、子供のために男を虜にする、妖艶な女の仮面。あとは、将軍となった息子を補佐する政治家としての仮面だ」
「そのとおり。富子は様々な顔を持って生きてきたの。それがあまりに多すぎて、本当の彼女自身が見えなくなってしまう――ね? この曲は富子に合っているでしょ」
「それにこの妖艶なダンスがいいのよ」と、智恵が言った。「日舞の要素を取り入れながらも、現代のダンスに形作られている。見ている観客が引き込まれてしまう、声が出なくなるほど。室町時代の、戦乱の最中にも華やいでいた花の御所の、まるで宴の舞のような気がしない?」
すると有佐が言った。「実際にこんなダンスが当時踊られていたら、怖いものがあるけどね。……まあ、結果オンリーで考えれば、カールの選択は間違ってなかったわ」
やはり長年ルームメイトだったことはある。どんなに喧嘩をしても、最後には意見があってしまうのだ。
「それじゃ」と、有佐は言った。「あいつがパリから戻ってくるまでに、バックダンサーの方を完璧に仕上げて、驚かせてやろう」
「Yes ma'am !」icon
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from: エリスさん
2010年01月29日 13時37分59秒
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「阿修羅王さま御用心・17」
稽古が始まった。
郁子が舞台で神楽舞を舞っている――冒頭の部分だった。本来は花道でやることになっていたが、まだ授業などの関係で花道を作れないので、仕方なく今は舞台で舞って見せているのだが……会員一同、息を飲んでそれを見ていた。
郁子の舞は、すでに人の域ではないと、大梵天道場の師匠にも言われている。神秘的で華やかで、時に慎ましく舞う彼女は、例え稽古着で舞っていても羽衣を着ているような錯覚を思わせ、彼女の周りを華が舞っているようにも見える。そんな彼女が、神楽――神に捧げる舞を舞っているのだ。神秘性も増すというものだ。
会員達のそれぞれが感嘆の吐息をついたり、見とれているのに対して、建は郁子の舞を“日野富子の気持ち”になって見つめていた。――舞台の冒頭、今参りの局が庭先で舞っているのを見て、まだ幼い富子は、天女が舞い降りてきたかと錯覚する。――その時の富子は少女役の生徒が演じるのだが、富子の全てを理解するためには、自分が演じない部分でもその気持ちになっておくことが必要だった。
『綺麗……私も、あんな人になれたらいいな……』
少女の富子の台詞が、そのまま今の建の気持ちになって現れる。――思ってみて、建はほくそ笑んだ。
『今の感じだな、うん。できそうだ』
郁子が舞を終えて、舞台から降りてくる。
「ねェ? 今のでどう? 振り付け、変えたいところある?」
……皆、すぐには声が出ない。
「……いいと思う」と、有佐が言った。「カール(郁)はなんて言うか分らないけど、私はいいと思うよ、アヤさんの踊り」
「うん、すごい! やっぱり日舞はアヤに限るね」
と、智恵も言ったので、郁子は満足そうに笑った。
「私の舞が問題ないのなら、例のやつ始めますか? アーサ(有佐)さん」
「そうね。チャーリー(智恵)、カールの代役よろしく」
“例のやつ”というのは、今回の舞台で卒業する郁と有佐の見せ場である、舞台が終わった後にフィナーレとして行われるダンスだった。メインダンサーが郁で、バックに20数人のダンサーがつく。有佐は自分のバンド「Bad Boys Club」でその曲を演奏する(有佐はバンドのドラムス奏者である)。
曲の名を「千年メドレー」という。
当初この曲を踊ることに決めた郁と、有佐の間で闘争が生じた。なぜなら、十月ぐらいまではフィナーレはダンスではなく、「Bad Boys Club」をバックに郁が歌うはずだったのだ。それも、某バンドの名曲「Count up '00s」を。
そもそもどうして郁が十月になってから企画変更したかと言うと、今回の「修羅の華」の主役の富子は始め郁子に決まっており、郁が今参りの局をやるはずだったのだ。それが郁の独断で郁子が降板となり、建が演じることになったのである。――どうしてこんなことになったのかは後に述べるとして、そのため、年齢的な問題で重子を演じることになった郁は、見せ場が減ってしまったのだ。せっかくの卒業公演なのに、自分に華がないのは寂しいと、思案の末に組み込んだのが「千年メドレー」だった。
有佐「おかげで、急遽この曲を練習することになって、こっちの
苦労を考えなさいよね。カール!!」
建 「まあまあ、アーサさん、そう興奮しないで(^_^;)」
とりあえず、今日はメインダンサーがいないので、常日頃からダンス教室に通って振付の研究をしている智恵が代理で踊ることになった――バンドも今日は揃っていないのでカセットテープである。icon
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from: エリスさん
2010年01月22日 14時33分20秒
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「阿修羅王さま御用心・16」
「流石は“伊邪那岐一刀体術流(いざなぎいっとうたいじゅつりゅう)”の正統後継者ね」
「俺の役目は片桐家の人を守ることですから。紅藤ちゃんもその対象内ですよ」
「……それも困りものなんだけど。あなた、正統後継者なのよ。本当なら……」
草薙家は古来から片桐家を守る御庭番――忍の一族である。殊に建の父・仁将(まさのぶ)は草薙家の長男で、事故で身障者にならなければ宗家を継いでいた人なのだ。代って四男の智将(とものぶ)が後を継いだのだが、彼の妻は病弱なせいか未だに子供がおらず、そして建の兄・大和も生れながらの心臓奇形で激しい運動ができず、よって建が後を継ぐことが内定していた。建が男の子のように育ったのはこういう経緯である。
そんな建だから、本当なら片桐家の傍流である郁子ではなく、宗家の誰かを守らねばならない立場なのだが、今の片桐家当主は金の亡者で、建はもちろん草薙家の人たちはとても守ってやる気にはなれなかったのである。
「タケルはまだ、片桐の嬢(じょう)と呼ばれる方には会ったことがないのよね」
「ああ、姉ちゃんの大伯父さん(道昭和尚)がそう呼んでる、今の当主の姪にあたる人ね。確か枝実子って名前だったっけ?」
「そう。当主のお兄様のご長女。だから本来は彼女こそが直系なんだけど、枝実子さんのお父様は片桐家を継がずに家出してしまったから……枝実子さんはね、私が初めて衝撃と感動を覚えた人物よ。彼女のヒーリング能力は、私とは比べることもできないほど、素晴らしいものだったわ」
「らしいですね。でも、俺は会ったことがないから実感がわかない。その人、滅多に宗家には来ないそうじゃないですか」
「当主である叔父様に疎まれているからよ。皆が彼女のことを高く評価しているから……私も、一度しかお会いしていないけど、中学の頃に……。あなたも、あの方にお会いになれば、私ではなく、彼女をお守りしたいと思うようになるわ。きっとね」
すると、建は笑顔で言った。
「だったら、一生その人とは会わなくていいよ」
「……しょうもない子ね」
郁子はそう言うと、先に立って歩き出した。icon
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from: エリスさん
2010年01月22日 10時32分20秒
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「阿修羅王さま御用心・15」
さて、郁子が沙耶を抱きしめている様子を、影からこっそり見ている人物が二人いた。――賢明な読者なら、もうお分かりであろう。そう、歌子のボーイフレンドである武道青年とその仲間である。
「あれが北上郁子の女か……」
「可愛い女だなァ……畜生、なんで美人でもない北上郁子なんかが、あんないい女にモテるんだ」
「ファンクラブも相当な人数らしいしな……」
「絶対許せん」
だから、大きな誤解だってば……(^_^;)
郁子が沙耶を離したちょうどその時、千鶴が迎えにきた。
「もういいでしょ? 行きましょう、沙耶」
「そうね……それじゃ、アヤさん。舞台、頑張ってくださいね。それから、お気をつけて」
とうとう相沢唄子のことや刺客のことは聞けなかった沙耶だったが、二人が立っていた場所のすぐ近くの木の上に、誰かがいることに気付いて、よほど切迫した状況なのだろうと察するのだった。
「ありがとう。時々は稽古の方も覗きにいらっしゃいな」
「ええ。お邪魔させてもらいます」
すると千鶴が言った。「それは絶対に駄目! 私たち“七つの海――”の会員よ!」
なので郁子は言った。「だから、敵の状況を探りに来ればいいのよ」
「あっ、そういうこと……」
「私、敵とか味方とか考えてません。是非見学に行かせていただきます」
沙耶がお辞儀をしてから歩き出し、その横に並んで千鶴も先を急いだ。
「このまま帰るの? 沙耶。なんなら……」
「ヤキモチ焼きよね、千鶴ったら。いいわよ、ご希望の場所に行っても。でもその前におばあ様のところへ行かせて。そこに家から着てきた服があるから、着替えないと」
「ああ、やっぱりそれ、おばあ様の? どおりで古めかしい模様だと思った」
二人がそんな会話をしながら遠ざかるのを見ながら、郁子は言った。
「そこにいるのでしょう? 降りていらっしゃい」
すると、すぐ近くの木の上から、クスクスッという笑い声が聞こえてきた。
「アヤ姉ちゃんには敵わないなァ。すぐ見つかっちまう」
そう言って、ストンッと飛び降りてきたのは、草薙建(くさなぎ たける)だった。
「沙耶さんも気づいてたみたいよ。あなた、気配を消すの巧いのにね」
「それでも感づかれたってことは、彼女も片桐の人間ってことだよね。惜しいなァ、それだけ霊力があるんなら……」
「そうね。でも、普通の人間でいられるなら、その方が幸せかもしれないわ。それより……」
と言った郁子は、建の耳元で小声でこう言った。「沙耶さんの護衛に行ってくれない? そこに、例の二人がいるのよ。もしかしたら、沙耶さんを私の何かと誤解して……」
「ああ、それはもう手を打ったよ。ホラ、全然動いてないだろ? あの二人」
そう、例の二人は動けなくなっていた、足が。
「な、なんだこれはァ……?」
「足が石みたいに……」
建が二人の存在に気付かないはずがない。二人が郁子たちの観察に熱中している隙に、そうっと背後から近付いて、呪縛の印(いん)を結んでしまったのだ。その為、二人の足は石化し、呪縛が解ける一時間前後は身動きができないのであった。icon
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from: エリスさん
2010年01月20日 13時54分41秒
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お約束通り
先週のお約束通り、金曜日になる前に更新しました。
もちろん金曜日も更新するんですが......実は、明日仕事が入りまして。なので、次の日も早起きできるかどうか分りません。また縮小してしまうかもしれませんが、ご容赦ください。
今日の話は「貞操観念がどうの」「歴史がどうの」と硬い話になってしまいましたが、そのうち郁子の大立ち回りの話も出てきますので、気長に待っていてください。
次回は「永遠の風」の稽古風景になるかな。-
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from: エリスさん
2010年01月20日 13時48分34秒
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「阿修羅王さま御用心・14」
「私があなたに対して持っているイメージって、今のところね、汚れを知らない聖女って感じだわ。そうやって控え目で清楚な感じがそう思わせるのかしら。……本当のあなたは、どうなの?」
「私は……汚(けが)れてます。生まれながらに」
「どうして?」
「……両親が、蔑み合ってますから。愛してもいないのに、子供を作るなんて、野獣よりもひどい」
そのとき郁子には、沙耶が口にできない心の声が聞こえてきていた。
『私たち姉弟妹(きょうだい)は、凌辱によって生まれた……』
同じ片桐家の血を引く相手となら、霊力を制御させたままでも精神感応できることがある。郁子と沙耶はどうやら波長が合うらしい。――試しに、口に出さずに沙耶に話しかけてみた。
『そんなことはないはずよ』
「でも、愛してもいない人間との、そういうのって、汚れになるって言うじゃないですか」
ちゃんと通じている――もしかしたら、まだ当人は気づいていないだけで、ちゃんと修行すれば霊能力者になれるかもしれない。
「汚れている人間に霊力は使えないわ」
「……れいりょく?」
やっぱり、当人は気づいている様子がない。
郁子は別の方面から話を持っていくことにした。
「あなたのおばあ様、沙重子さんがあなたのおじい様と結婚した経緯は、知っていたわよね」
「はい……愛する人を助けたい一心だったと」
沙重子は結婚する前、沢木家という建築会社社長の家でメイドをしていた。――片桐家の子女は先祖からの遺言で、子々孫々が全国に広まるように、成人すると故郷を離れて働きに出るのだが、殊に女子はどこかの家に奉公に上がるというパターンが一番多い。そうやって郁子の祖母・世津子も北上家の次男と結ばれたのだが――沙重子はそこで、沢木家の長男と愛し合うようになった。沢木家の両親も沙重子の人柄と出自もしっかりしていることから、二人の結婚を許すところまで話は行っていた。ちょうどそのころ、仕事の取引で紅藤家の若き当主(沙耶の祖父)が沢木家に出入りするようになっていた。紅藤は沙重子の美しさに目を付け、彼女を自分のものにするために、沢木家の事業を裏工作で倒産に追い込んだ。そして、彼女に囁いたのである。沢木家を助けたくば、自分の妻になれと。沙重子は愛する人を救うためならばと、紅藤と結婚した。理由を知らない沢木家の長男は、大層彼女を恨み、蔑んだらしい。
「あなたの理屈で言えば、そんな結婚をしたあなたのおばあ様も、汚れているということになるわね」
「あっ!?」
どうやら本当にそこまで考えていなかったらしい。
「言動はよく考えてすることよ、沙耶さん。特に私たちは文学者。私たちが書いた文章によって、読者を傷つけ、自殺に追い込んでしまうこともある。あなたが自分自身を蔑むために書いた文章で、あなたと同じ境遇に置かれた人をも侮蔑することになるのよ」
「……はい……」
落ち込んでしまった彼女を、郁子は優しく抱きしめた。
「でもね、あなたが自分のことをそう考えてしまうということは、それだけ貞操観念が強いということなの。心が汚れていない証拠なのよ。あなたのそういうところ、尊敬するわ」
「アヤさん……」
ちなみにその後、沙重子と沢木は再会し、誤解の解けた沢木は再び沙重子を愛するようになる。そうしてたった一度の過ちによって生まれた子が、沙耶の叔母・弓子である。沢木は親戚筋から養子をもらっていたので、その子が弓子と結婚し、現在は弓子とその夫が沢木建設を経営している。icon
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from: エリスさん
2010年01月20日 11時40分37秒
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「阿修羅王さま御用心・13」
「富子は……難しい役ですね」
と、沙耶は言った。彼女も「七つの海の地球儀」の裏方担当なので、舞台のことは多少分かるのである。
「表面では御今に懐き、親しんでいるように見せかけて、御台所としての誇りを守りながら、内面では夫の愛を独占している彼女を憎んでいる……人間の二面性、ですね」
「ええ。タケルがそれをどう演じるのか、見物よ」
「対する今参りは……まだ良く、キャラクターが掴めないわ」
「御今はね、一切の汚れがないの。清楚で清廉で、自分の生き方に信念を持っている強い人よ。でも、その清楚なイメージとは相反する行動を取ってしまうことで、重子(しげこ)から疎まれてしまう。初め彼女が御所に上がった時、彼女の役目は義政の乳母だったの」
「乳母? でも、側室って……」
「そう。乳母でありながら、義政の寝所に侍るようになったことで懐妊し、側室になってしまうの。どうしてそんなことになってしまったのかしら。確かに、御今が乳母として御所に上がったのは、推定年齢で十五歳ぐらいだったようなのね。その時義政は五歳か六歳……当然乳離れしてるでしょ? どうやら、当時の“乳母”というのは、授乳を目的とする女性ではなくて、養育係という意味で使われる役職名だったみたいね」
「それじゃ、御今はまだ若くて綺麗だったから、義政が放っておけなかったのではないですか?」
「う〜ん、やっぱりそうなのかしら……。まあ、御今自身も義政を愛していたとは思うのね……そして、富子のことも。今回の脚本を書いているのはカオル姉様なんだけど、彼女の解釈では、御今は富子を娘みたいに大事にしていたんじゃないかって言うの。育ての君・義政の未来の花嫁は、幼い頃から御所へ行き来していただろうから、御今とは昔からの顔見知りだったかもしれない。それに、義政も富子のことを妹のように可愛がっていた。その育ての君の大切な人なら、御今にとってもそうなっているはずだと」
「あの……義政は、富子のことも、愛しているんですか?」
「そうよ。――二人が後に後継ぎ問題で揉めているから、夫婦間は冷めきっていたんじゃないかって解釈されがちだけど、そうなる前の富子と義政は仲睦まじかったのよ。ただ、義政にとって御今っていう女性は大人の女性、憧れの人なんでしょうね。そういう義政の少年のような憧憬の気持ちが、富子を不安にさせてしまうの。……御今さえ居なくなれば……そう考えてしまう富子の気持ち、分らなくはないわ。御今にとって不幸だったのは、富子がそんなことを考えていると気付けなかったこと。彼女が懐いてくれる姿に安心して、疑うことをしなかった。もし、自分が疎まれていることに気づいていれば、きっと義政との仲を遠慮するようになると思うの。そうすれば、富子だっていらぬ嫉妬なんかしなくても良かったんだわ」
「疑うことを知らない……聖女みたいな女性だったんですね」
「まさしくね。あなたもそんな感じよ」
「え?」
沙耶は思ってもみないことを言われて、ためらった。icon
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from: エリスさん
2010年01月14日 19時03分01秒
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<(_ _)>
もう一つのサークル「神話読書会〜女神さまがみてる〜」http://www.c-player.com/ac48901/message ac48901@circle の方で、明日更新できないことを告げて、今日更新していたのですが.......
すみません、向こうを長々と書きすぎたせいで、こっちを更新する時間がなくなりました。
来週なんとか時間をみつけて、今日の分も更新するのでお許しください。-
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from: エリスさん
2010年01月08日 15時22分47秒
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「阿修羅王さま御用心・12」
坂の途中にある公園に着いた二人は、人工の川の上に渡してある橋の上へと行った。
「今度の舞台」と、郁子(あやこ)が話し出した。「絶対に見に来てね。自信作なの」
「準主役を演じられるそうですね。どんな役どころなんですか?」
「日野富子(ひの とみこ)って知ってる? 足利将軍・義政(よしまさ)の御台所(みだいどころ)になった人なんだけど」
「あまり……戦国時代の火付け役になった人だと、歴史の授業で教わってますけど」
「そうね、普通はそれぐらいしか認識ないわよね。私も、姉様に教えてもらって、初めて知ったんですもの」
「姉様(ねえさま)?」
「佐保山郁(さおやま かおる)さんのことよ。私はそう呼んでいるの。“永遠の風”では仲間意識が高じて、義兄弟みたいになる傾向があるの。だから、タケルなんか私のこと“姉ちゃん”って呼ぶし、姉様のことなんか“姉御”って呼んでるのよ――まあ、姉様がそう呼ばせてるんだけど……話が脱線したわね。日野富子のことよね……」
今回の公演「修羅の華」は、その日野富子が主人公だった。産まれた時から将軍家に嫁ぐことが決められていた富子は、若き将軍・義政を兄を慕うように懐き、やがてそれが恋人への愛へと変じていく。だが、義政にはすでに側室(そくしつ)・今参りの局(いままいりのつぼね。別称を「御今(おいま)」)がいた。一女をなしていた御今を義政はことのほか寵愛し、富子が御台として嫁いできてからもそれは変わらなかった。富子は御今を敬愛する陰で、夫の寵愛を奪った彼女が許せず、憎んでいた。その矢先の富子の男子死産……憔悴しきった富子に、大叔母であり義政の生母・日野重子が入れ知恵をする。子供が死産したのは、御今が富子を呪詛していたせいであり、今こそ御今を御所から追放する好機であると――重子もまた、息子の気持ちが自分になく、御今に奪われていることに嫉妬していたのだ。富子と重子は義政に訴え、御今を流罪に追い込む。琵琶湖の離島に流された御今は、これから富子が修羅にまみえるのを救う者は居なくなったと嘆きながら、自刃して果てた。そして富子は、御今が死んだことによって自分の本当の気持ちに気付く――御今を憎んでいたのは、愛情の裏返し。自分は御今を母のように姉のように思慕して止まなかったのだと。
「その御今――今参りの局を私が演じるのよ。主人公の富子がタケルで、重子が姉様。義政は瑞穂がやるの」
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from: エリスさん
2010年01月08日 14時13分34秒
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これからの注目作品
....ってほどのものではないけど。
今月に入ってから私が「見ようかなァ」って思っているのは、「遊戯王」です。――なんで?って思うでしょ? テレビシリーズは一話ぐらいしか見たことないのに――いや、当時もうちょっと暇があったら見ていたかもしれないんだけど。
この作品は、普通だったらうちの映画館では上映しそうもない作品なんですが、チラシが届いたときにはびっくりしました。でもチラシを見て納得――3D上映なんですね。うちの系列の映画館で3D上映ができる映画館がまだ少ないので、それでうちに回ってきたみたいです。
で、なんで私がこの作品に注目しているかと言うと、3人いる主役のうちの一人が、あの風間俊介くんなんです(^o^)/ このサークルの皆さんは私が時々話題にしているから知っていると思いますが、知らない人のために補足しておきますと、「金八先生 第5シリーズ」で兼末健次郎を演じた人です。最近で言うと「アキハバラ@DEEP ドラマ版」でページを演じています。「交渉人SP」で犯人役もやってましたね。とにかく、ジャニーズJrでは演技派なんです。
これでもっと美少年だったらねェ、同じ金八卒業生の亀梨君なんかより売れていたと……いや、そうとも言えないか。
とにかくこれからも風間君のことは応援していきたいので、「遊戯王」は見るつもりです。
あとは「人間失格」――こちらもジャニーズの生田斗真が主演です。以前、土曜の夜中に堺雅人が声優として出ていた「人間失格」のアニメ版を見たのですが、内容がこのまま実写映画化されるとなると、生田君にとってはかなりの新境地になるのではないかと思います。
なんかもう……ジャニーズにやらせちゃっていいの?って感じですが。でももう、撮影終わっちゃってるんですよね。恐れながら見ようと思います。
さて、そしてこれはかなり先になりますが――うちで上映するかも決まっていませんが、たぶん配給元が配給元なので、やるんじゃないかと思われるのが「大奥」です。
いつも楽しみに買っている雑誌・メロディーに「よしながふみ先生の大奥が実写映画化」と載っていた時には、本当に仰天しました。
「やるんですか!? これを。やっちゃうんですか!」
って、本屋で声に出しちゃいそうでした――かろうじて声にはなりませんでしたが。
しかもこの間キャストが発表されまして、徳川吉宗役は柴咲コウで、水野祐之進役に嵐の二宮和也って! これまた、
「いいんですか! ジャニーズがそんな役やって!」
って、驚きしかありません。
今ここで書くとネタバレになってしまうかもしれませんが、とりあえず原作の「大奥」がどんなストーリーかと言いますと――
三代将軍家光の時代、日本に疫病がはやった。その疫病は特に男子に罹りやすく、そのため男子の人口が女子の四分の一になってしまった。そこで血筋を絶やさぬために女は男を金で雇い、「種付け」をするようになる。
この背景により、将軍職も男児から女児へと血筋がつながれ、大奥には将軍に仕えるための男子が集められるようになっていた。そして、身分違いのために好きな女性と添い遂げられない苦しみを抱えた水野は、大奥に入ることを決意する。
この水野という男はですね、一言で言えば優しい男なんです。優しいがゆえに、当時は婿を取るのは金持ちの娘だけで、武家であっても貧しい暮らしをしている女は、血筋をつなぐために金で男を買って「種付け」してもらっているって言うのに、彼はそういう女性から一銭も金を取らずに「無料奉仕」してあげてるんですね。
いいんですか! 二宮君がそんな役をやっちゃって!
この原作のストーリー通りにやると、二宮ファンが泣きを見るような気がするんですが、そこはうまくやるんだろうなぁっと思ってます。
私としては「大奥」は家光・有巧編が好きです。傷ついた者同士が慰めあうように愛し合っていた、そんな家光(千恵)と有巧(お万の方)の姿が切なくていいです。
吉宗・水野編がうまくいったら、そっちも映画化されるのかな? だったら有巧はぜひとも堂本光一で。女装した有巧を綺麗に演じられる俳優は、光一君以外考えられないし。
というわけで、映画談義というよりは、私のジャニオタっぷりが発揮された書き込みになっちゃったかな。-
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