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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜>掲示板

公開 メンバー数:6人

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  • from: エリスさん

    2010年11月26日 14時27分26秒

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    と、いうわけで。


     新連載です。

     はい、唐突です。前作の解説も何もしないで、いきなり始めてしまいました。

     こうゆうのは勢いだからね。


     なんで勢いが必要かというと............




     「この物語はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません」

     という注意書きを添えなければならないからです。


     男性・女性ともに恋愛対象でありながら、四十歳を目前にしてもいまだに純潔という私が、一念発起で書き出しました。


     どうなるか分りません!

     もしかしたら、横槍が入って連載中断する破目になるかも?????


     いやでも、かなァりの部分がフィクションになるので(っていうか、妄想?)、笑って見過ごしてください。



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  • from: エリスさん

    2010年11月26日 14時20分57秒

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    夢のまたユメ・1


     いつだって気づくのが遅い。
     素敵な人だな、気が合う人だな――そう思ってても、すぐには恋愛に結びつかない。だから一目惚れなんかありはしない。
     一緒に過ごして、人となりを十分理解してから、その人に恋をしていると気づくから、だいだいこうゆうパターンが待っている。
     「俺、好きな子ができたんで、告白しようと思うんですけど、どうしたらいいでしょう……」
     告白する前に振られる……。
     それでも、面倒見の良いお姉さんを気取って、こんなことを答えたりする。
     「大丈夫よ。あんたなら絶対にうまくいくわ。私が保証してあげる」
     そうして、助言通り相手はめでたく好きな子と両想いになってしまうのだ。


     「というわけで、また失恋しました、私」
     宝生百合香(ほうしょう ゆりか)はパソコンに向かって、そう打ち込んだ。すると、パソコンの画面が一段上がって、新しいメッセージが表示された。
     〔またって言っても、男性に失恋したのは今の職場に入って二度目でしょ? あとはほとんど女の子に対して淡ァい恋心抱いただけじゃない〕
     「いやまあ、そうなんだけど」と百合香は呟いてから、またパソコンに打ち込んだ。「でも、女の子に振られるより、男に振られた方がダメージ強いのよ」
     百合香はチャットをやっていたのだ。話し相手は百合香が参加しているコミュニティーサイトで知り合ったネット仲間である。
     〔前の女の子の時にも思ったんだけど、どうして思い切って告白しないの? 告白もしないで、相手に彼氏ができた、振られた!って愚痴るぐらいなら、当たって砕けちゃえば、いっそスッキリするよ、ユリアスさん〕
     ユリアスというのが百合香のコミュニティーサイトでのハンドルネームである。
     「そんな難しいよ。大概の女の子はノーマルなのよ。告白したところで、アラフォーの女が受け入れられる確率は低すぎよ。それだったら、頼りにされるお姉さんとして仲良く接してくれた方のが幸せだわ……相手が女の子の場合はね」
     〔で、今回は男の子だったわけだ。それなのに告白しなかったのは、また自分の年齢のこと気にしちゃった?〕
     「それもあるけど、相手のことを好きだって気づいたのが本当につい最近だったから、告白する間もなく、向こうから恋愛相談を受けちゃったのよね」
     〔間が悪かったわけだ。でも、ユリアスさんの文章からは、そんなに落ち込んでるようには感じられないんだけど(^。^)y-.。o○
      もしかして、勝てそうな相手なの?〕
     「どうだろ。確かに、世間一般的に見れば“チャラい”見た目で、良いイメージは持たれないタイプなんだけど……。でも、私よりずっと若いし、美人だし」
     それから少し間があって、返事がきた。
     〔ユリアスさん、見た目の魅力なんてどうにでも誤魔化せるんだよ。結局、人間は中身で勝負なんだからね〕
     「ありがとう、ルーシーさん」
     それだけ打って、少し考え事をしていたら、向こうから書き込みがあった。
     〔それより、来週からの連載って、もう内容決まった?〕
     百合香が言葉に詰まったので、話題を変えてくれたようだった。
     「うん。二年前に見た初夢をベースにして作ろうと思うんだけど」
     〔二年前の初夢って、確か、『現代版源氏物語』?〕
     「そう。あのままじゃリアリティーないけど、アレンジすれば結構面白いのが書けると思うんだ」
     〔へえ、楽しみ(^_^)v〕
     百合香はコミュニティーサイトで小説ブログの連載をしていた。もちろんこれは趣味の範囲をちょっと超えたぐらいのもので、収入にはならない。だから普段は映画館でパートで働いていた。同僚はみな二十代の若い子ばかりで、何人か三十代前半はいるが、三十九歳という所謂アラフォー世代は百合香だけだった。それでもルーシーが言うとおり、同僚たちとの関係は良好で、最年長ということもあって常に頼られる存在だった。ちなみに入った当初から自分がバイ・セクシャルだということは親しくなった人たちに話している。初めは珍しがられたが、今では(勤務四年目)誰も気にしていないようだった。

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  • from: エリスさん

    2010年11月26日 12時19分49秒

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    「しばし花園に百合が咲く・20」


     小藤が大納言と正式に離婚してから一カ月が過ぎた。
     なんとか桐壷の更衣が起こした不祥事は表沙汰にならずに済み、小藤は無事に更衣の女房として内裏に上がってきた。その初めての日は、女帝も待っていたのだろうか、すぐに桐壷を訪ねて行ったのである。
     忍も今日がその日だと分かっていたので、娘の紫草(「むらさき」と読む。茉莉の妹)を連れて藤壺に参内していた。
     茉莉はまだ小さい妹を大事そうに抱えて、頬ずりするなど、とても幸せそうにしていた。
     『この様子なら、主上が昔の恋人に会っているからと、気をもんだりはしていないようね』
     と、忍が安心していると、女帝からの先触れが訪ねてきた。
     「間もなく主上がお渡りになられます」
     それを聞くと忍は紫草を茉莉から受取り、茉莉の衣服を乱れなく直した。
     こちらの支度がキチンと整ったころ、女帝が入ってきた。
     「おや、こちらにも赤子がおる」
     女帝が言いながら忍に近づき、紫草の寝顔を覗き込むので、茉莉は聞いた。
     「こちらにも、とは……桐壷にも赤子がおられるのですか?」
     「そう。小藤が大納言の娘を引き取ったのよ」
     そういうと、女帝は上座に座った。
     「引き取った――というより、押しつけられた、と言った方が正解かしら。大納言が他の女人に産ませた娘で、離婚の際に引き取ってほしいと懇願されたとか。なんでも、御子のできない主上にせめてものお慰みになるはずだと説き伏せられたそうよ……大きなお世話だわ」
     「はぁ……」
     この問題に関しては、茉莉も言葉が見つからない。それも察して、女帝は苦笑いをした。
     「でもこれで、あやつの狙いが分かったわ」
     「狙い?」
     「桐壷は、東宮(皇太子)の住まう梨壺の隣にあるのよ」
     それでようやく分かった――大納言は次代の天皇に望みをつないでいたのだ。幼いころから次期天皇と自分の娘が顔見知りで、しかも恋仲にまで発展すれば、娘を女御として入内させることも、皇子を授かって天皇の外戚となることも簡単にできる。
     「そのために、無理をしてでも桐壷に自分の娘を入内させたかったのね。まったくなんて男でしょう……まあ、東宮が将来どんな姫君を妻に選ぶか、それは東宮が決めることだけど……ねえ? 茉莉。あんな男に簡単に政権を渡さないためにも、今から競争相手を差し向けるべきではないかしら?」
     「ひかる様!? よもや、紫草を東宮妃にとお望みですか?」
     つい女帝を“二人っきりのときに呼ぶ呼び名”で呼んでしまったことなど気付かずにいる茉莉を、忍は咳払いをすることで制した。
     そして忍が言った。「このまま藤壺に住まわせるのではなく、私が参内の度に連れて参るという条件であれば、我が娘を東宮様に差し上げること、異存はございません」
     「お母様!? よろしいのですか!?」
     茉莉が言うと、忍は微笑んだ。
     「いつかは娘を嫁に出さなければならないのよ。だったら、東宮様に差し上げる以上に喜ばしいことがありますか? とは言え、先はまだまだ分らぬ物。紫草が将来、別の方を好きになってしまった場合は、この話はなかったことにしていただきとうございます」
     その言葉に女帝はうなずいた。
     「もちろんよ。好きでもない男に嫁ぐほど不幸なことはないわ。ただ、選択肢として東宮妃への道を残しておいてほしいのよ」
     「承知いたしました。では以後は、将来お后となっても恥ずかしくない教育を、娘にさせていただきます」


     女帝が東宮に位を譲ったのは、それから十二年後のことだった。
     それまで左大臣だった藤原房成が太政大臣として新帝を補佐することになったため、右大臣だった源彰利が左大臣に、そして大納言だった藤原行尚が右大臣へと昇進した。内大臣だった藤原宏澄は健康面を理由に隠居し、その代わり宏澄の娘婿である利道が大納言に昇進した。
     新帝の女御には、先ず周りの予想通り藤原行尚の娘(小藤が養育していた娘)が立ったが、もう一人予想されていた利道の娘・紫草は女御にはならなかった。その代わり、彰利の孫娘が十四歳になる四年後に入内する予定になっていた。
     上皇となった光子内親王は、三条の源邸の近くに屋敷を構えて移り住んだ。そこには、茉莉はもちろん、元桐壷の更衣である早百合と小藤、そして、なぜか紫草も住むことになった。
     「本当に私も一緒でよろしいんですの? お姉様」
     引っ越しも片付いて、大広間にみんなで集まったとき、紫草は隣に座っていた茉莉にそう聞いた。
     「いいのよ。実家にいるよりは、ここのが気兼ねなく暮らせるはずよ。なんせ、みんな似た者同士なのだから」
     紫苑の生まれ変わりである紫草は、結局、幼いころから東宮と親しく付き合ってはきたが、恋人になることはなかった。それどころか、光子内親王の女房の一人と深い間柄になってしまったのである。とは言え、紫草はまだ十二歳なので、そんな恋を大っぴらにすることもできない。だから、お互いが恋人のもとへ通いあうよりは、二人とも同じ屋敷に住んでしまった方がいいと、光子内親王が考えたのである。
     「世間では女人同士で恋を語るなど、汚らわしいと思う者もいるけど、ここでは、そんな道徳は無用よ。私たちは愛する人とだけ結ばれればそれでいいの。世間がどう言おうとね」
     光子内親王の言葉に、皆がうなずいた時、部屋の外から声がした。
     「忍でございます。上皇さまと皆様に琴の音を献じに参りました」
     「お入り。あなたもまた仲間なれば……」

     今は昔。
     中継ぎの帝であったがために記録に残ることのなかった女帝と、その周りで咲き誇った穢れなき百合たちの物語がありました――。


                                 終

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  • from: エリスさん

    2010年11月19日 14時21分22秒

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    「しばし花園に百合が咲く・19」
     「お許しください、宮様」と小藤は頭を下げた。「あなた様とお別れし、夫の元に嫁ぎましてからは、まるで日の光を失ったかのような暗い日々でございました。そんな私に、この子は優しく接してきてくれたのです」
     「私にとっても、お母様は一条の光のようでした。実母を失って、父親とは言ってもそれまでほとんど訪ねても来なかった男の所へ引き取られ、不安でいっぱいのときに、同じく不安そうにしていらしたお母様が、私と同類に見えたのです」
     「私たちは互いを拠り所とし、そして、ついには親子の矩(のり)を踰(こ)えてしまいました。でもそのことに、罪の意識は感じておりません。私たちはきっと、運命の掛け違いでたまたま親子にされてしまっただけで、本来は恋人同士として巡り合うはずだったのです。そうでなければ、こんなに愛し合えるわけがありません」
     「小藤……」と、女帝は優しく微笑んだ。「誰もあなた方が恋人になったことを責めたりはしないわ。そもそも血のつながりはなし、あなただって大納言とは無理矢理結婚させられたのですもの。心の伴わない結婚など、初めからしていないも同然よ。でも、あなたが桐壷の更衣と巡り合うためには必要だったのかもしれないわね」
     「宮様……」
     「……さて、だったら話は簡単だわ」と女帝は言うと、薫の方を向いた。「叔母様、私の使者をしてくださいませんか?」
     「もちろんでございます」と薫は微笑んだ。「して、どちらへ?」
     「知れたこと。左大臣邸へです」


     大納言を左大臣邸で更迭したまま、すでに夕刻となっていた。
     大納言は娘の失態に怒りを覚えながらも、ほとんど我が身の保身ばかり考えていた。しかし、何をどう考えても助かる見込みがない。なにせ、桐壷の更衣は女帝を暗殺しようとした(と、彼には伝えられていた)のだから。つまり、自分は反逆罪の黒幕として打ち首になるのは必定。
     『冗談ではない! 早百合(桐壷の実家での呼び名)め、なんてことをしてくれたのだ!』
     また怒りが込み上げてきたとき、左大臣と右大臣が部屋に入ってきた。
     「たった今、主上(おかみ)からの使者が参られた」
     と左大臣が言うと、右大臣が後を続けた。
     「こちらにお招きするので、失礼のなきよう」
     「はっ……」
     大納言が平伏すると、その使者は部屋の上座の、御簾の向こうへ通された――大納言の横を通った時、着物の裾で女人であることがわかった。
     「大納言はそのまま……大臣(おとど)のお二人は頭をお上げください。使者としてでなければ、お二人は私の顔などいつも見ているのですから」
     使者が言うと、左大臣は答えた。
     「そなたが使者に立ったのも、女帝のご意向かな? 薫」
     「ええ、あなた。私ならば、世間には〈宿下がり(内裏から出て実家や夫の家に帰ること)してきたのだ〉と言い訳することができるでしょ?」
     すると右大臣が言った。「いい加減、娘御(むすめご)に尚侍の座は譲ったのですから、引退して帰ってきたらどうです? 姉上」
     この会話で、大納言にも使者が誰か分かった。
     「とりあえず、この話は後にしましょう。――大納言、主上の決定を伝えます」
     大納言はますます頭を低くした。
     「桐壷の更衣の罪を不問に付す代わりに、大納言は即刻、正室の小藤の君と離別するように!」
     「はっ……はぁ?」


     「大納言が小藤と結婚したのは、小藤の父親の財力を当てにしたからでしょう?」と女帝は言った。「でもその財産もほとんど使い切ってしまって、小藤は今じゃ日蔭者扱いと聞いているけど?」
     「はい、その通りでございます」
     と小藤は答えた。
     「だったら、大納言も小藤と別れることに不満はないはず。そして小藤は、更衣の女房として内裏に上がりなさい。大丈夫、女房と恋仲の更衣なら前例があるわ」(梅壷の更衣のこと)
     「でもそんなこと」と弘徽殿の中宮が言った。「大納言が納得するかしら?」
     「大納言自身の死罪を、それで免れさせてあげるのよ? 文句が言えるわけがないわ。それに、桐壷の更衣の地位はそのままなのよ。彼にとっての切札を残しておいてあげるのだから、感謝してほしいほどだわ」


     「……との、主上のお言葉でございます。もちろん、あなたに否やはございませんでしょうね? 大納言」
     「はっ……はあ……」
     確かに妻を愛しているわけではないが、自分のいないところで勝手に決められてしまうことに不満がないわけでもない。しかし、これで死罪は免れる。しかも、これから先の計画に欠かせない――「娘が桐壷にいる」というつながりは残されている。
     「分りました」と大納言は答えた。「主上のお慈悲に感謝いたします、とお伝えくださいませ」

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  • from: エリスさん

    2010年11月12日 14時16分07秒

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    「しばし花園に百合が咲く・18」

     早朝。
     薫の君はさっそく使いの者を出して、夫の左大臣と弟の右大臣に昨夜のことを知らせた。
     二人の大臣は女帝の意向を酌んで、大納言を左大臣邸に「招き」、内々に取り調べることにしたのだった。
     そして内裏でも、女帝が妹宮の局である弘徽殿で、親類の方々とお茶会を開いている――という名目で、桐壷の更衣の取り調べを始めたのだった。
     茉莉は、忍と一緒に隣の部屋で控えていた。
     まだ更衣が連れてこられる前に、女帝は斜向かいに座っていた弘徽殿の中宮に聞いた。
     「手荒なまねはしていないわね?」
     「ご心配なく、姉上。彼女も大人しくしていましたから、縄をかけることなく、ただ塗籠(ぬりごめ。今でいう納戸)に入っていていただいただけでございます」
     「そう、それならいいわ」
     そうこうしているうちに、桐壷の更衣が薫の君と数人の女房に連れられて来た。
     女帝とはかなり距離を置かれたものの、前に座らされた更衣は、先ず女帝に頭を下げた。
     「昨夜のこと、どうぞお許しくださいませ。決して、主上に害をなそうとしたわけではございません」
     「ですが実際に!」と薫の君は弘徽殿の中宮の向かい側に座りながら言った。「主上に小刀を向けていたそうではありませんか。そもそも、主上の夜の御殿に小刀を持ち込むこと自体が大罪!」
     「それは……」
     薫の君の剣幕に、言葉を失っている桐壷を見て、女帝はなだめるのだった。
     「叔母上。あれは私を殺すために持ち込まれたものではありません。それは実際に向けられた私だからこそ分かります。あの時の更衣には殺意がなかった。あの小刀は、初めから自決するために持ち込んだのでしょう? 桐壷の更衣」
     すると桐壷は深々と頭を下げて、言った。「ご推察の通りでございます。父の命令で入内することになりましたが、私には……すでに想う方がいるのです」
     それを聞き、茉莉は一瞬で桐壷に同情心を寄せた……。
     「その方以外の人になど、触れられたくはないけれど、父に逆らうこともできず……それで、たった一度だけ、父の望むとおりに更衣としての役目を果たしたら、死のうと……でも、いざその時になったら、やはり触れられるのが嫌で……申し訳ございません、主上!」
     「もういいわ、だいたいそんなことだろうと思っていました」
     と、女帝はため息をついた。「さて、叔母上。どうしたらいいでしょう?」
     「そうでございますね。これは全面的に大納言のせいですから、彼に責任を取らせるのが一番よろしいかと……は、思いますが。このまま彼を辞任させてしまうと、桐壷の更衣殿がますます不幸になるのではないかと心配になります」
     「私も同意見ですわ、姉上」と弘徽殿の中宮も言った。「このたびのことで、桐壷殿が更衣をやめることになったら、今度はどんなところへ嫁がされるか分かったものではない。それよりも、彼女はこのまま更衣の地位にいた方が安全ではないかしら」
     「そうですね。更衣は必ずしも主上のお相手をしなければならない、というものではありませんから。ただ、更衣と尚侍には〈主上の夜の御殿に侍る資格〉があるだけで、それを望まねば拒否してもいいのですから。実際、夫のいる更衣も過去にはいたことですし」
     と、自分も夫がいながら尚侍になった薫が言った。
     それまでの会話を戸惑いながら聞いていた桐壷の更衣は、恐る恐る聞いた。
     「あの……私を、お守りいただけるのですか?」
     「そうよ」と女帝が言った。「事情が分かったからには、あなたを罪人として処罰しようなどと考える者は、この中には誰もいないわ」
     ちょうどその時だった。女帝の最古参の女房が外から声をかけてきた。
     「お話し中、失礼いたします。主上、私を頼って、主上にお目通りを願い出ている者がおりまする」
     「そなたを頼るということは……私も良く知る人物ということかしら」
     「はい、一の宮様。かつてのあなた様の女房……いえ、恋人と申し上げたほうが宜しゅうございますか?」
     それを聞いて茉莉はドキッとした。
     『ひかる様の初恋の! 小藤の君……』
     「通しなさい」と女帝は苦笑いをしながら言った。「娘が心配で来たのでしょう」
     その言葉で桐壷の更衣にもようやく誰のことか分かった。
     「お母様!?」
     間もなく、三十歳前後の女人が現れた……茉莉は忍にとがめられるのも構わず、隣の部屋をのぞいて、その人物を見た。それなりの年はいっているはずなのに、どこか愛らしい女人だった。
     「御無沙汰をいたしております、宮様。この度は娘がとんでもないことをいたしまして、本当に、なんと申し上げてよいやら、謝罪の言葉もございません」
     「頭をあげなさい、小藤。本当に懐かしいこと。あなた、ちっとも変わらないのね」
     女帝が言うと、小藤は恥ずかしそうに、
     「そんな……宮さまこそ、ますます美しくおなりで……」
     すると桐壷の更衣が堪え切れずに、母親に抱きついた。
     「お母様! お母様ァ!」
     「おお、姫! あなただけに辛い思いをさせたわね。許してね……」
     二人は、きつく抱き締めあい、互いの指を絡ませ合いながら手を握った。
     その様子を見て、女帝は――茉莉も気づいた。
     「ああ! そういうことね!」と女帝は言った。「桐壷の更衣の想う方って、小藤、あなたなのね!」

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    2010年11月12日 11時04分00秒

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    「しばし花園に百合が咲く・17」

     薫の君が清涼殿の女房・牡丹(薫の女房の茜の恋人)から受けた報告によると、彼女が寝ずの番として女帝の寝所(夜の御殿)のそばに侍っていると、中からただならぬ物音が聞こえてきたそうだ。危険を察した牡丹は、無礼を承知で戸を開けると、そこで桐壷の更衣が女帝に小刀を向けていたのである。
     それで牡丹は大声で他の者たちを呼び、自刃しようとした桐壷の更衣を取り押さえたのだという。
     「それで桐壷の更衣は?」
     と忍が聞くと、薫は答えた。
     「今は弘徽殿(こきでん)に預けられているわ、見張りを付けてね。とにかく騒ぎにはしたくないって女帝が仰せられるので、取り調べは朝になってから、目立たぬようにやろうと思っているのよ。だからまだ主人(左大臣)にも知らせていないわ」
     「そうですか……それにしても、女帝を暗殺しようとするなんて……」
     「それが大納言の狙いだったのかしら? 調べてみないと分らないけど」


     「いや、私を殺そうとしたのではないわ。私から逃げるために、小刀で私を脅したのよ」
     茉莉との愛を育んだ後、女帝はようやくここへ来た理由を話し、そして茉莉が「更衣がひかる様を殺そうとした!」と思ってしまったので、そう付け加えたのだった。
     「なぜ逃げたのです? 更衣は、自分がどうゆう立場で入内したか分かっていたはずです。なのに、どうしてひかる様の愛を拒もうとするのです?」
     「そこなのよね。叔父上たち(左大臣と右大臣)から聞いた話だと、大納言は〈当家の姫は女色もたしなんでおります〉と言っていたそうなんだけど……大納言がどうしても娘を入内させたいがために、嘘を言っていたのかもね」
     「本当は、女人同士では恋ができない人なのに、父親に無理矢理入内させられたと……そういうことですか?」
     「たぶん。……聞いてみないと分らないけれど、とにかく、朝になったら更衣と話をしてみるわ。妹(弘徽殿の中宮)や叔母様(薫の君)にも立ち会っていただいて」
     「ならば私も!」
     茉莉は体を起こすと、女帝を見下ろす形になった。
     「私も同席させてくださいませ! 隣の部屋でも構いませんから」
     「……いいわ」
     女帝は茉莉の首に両腕を回すと、起き上がって、茉莉の唇に口づけた。
     「あなたが傍にいてくれれば、私も落ち着いていられるから」

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  • from: エリスさん

    2010年11月05日 12時05分00秒

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    「しばし花園に百合が咲く・16」
     今宵は桐壺の更衣が女帝のお相手をするために清涼殿に上がるので、茉莉が寂しい思いをしているのではないかと心配した忍の君が、藤壺に泊まりに来ていた。
     思ったとおり茉莉の心は「ここにあらず」だったが、それでも、気丈に振舞おうとしている様子は見て取れた。
     忍は茉莉と同じ褥で寝ることにし、山寺で初めてそうした時のように、茉莉の手をしっかりと握った。
     「あなたも分かっているとは思うけど、いつの世でも天下人となられた方は、多くの妻を持つものよ。それが権力の誇示でもあり、妻の実家と政治的につながるためでもある。主上は帝と言っても、東宮(とうぐう。皇太子)が成人されるまでの中継ぎだから、それほど権力の誇示は必要ないのだけど、だからと言って、まったく何もないわけにはいかないのよ」
     忍の言葉に、茉莉は素直にうなずいた。
     「分かっています……これは、仕方のないことなのですよね」
     「普通の女の子なら、自分の父親に複数の妻がいるのを見て、そういうのが当たり前なんだと思いながら成長できるものなんだけど、あなたのお父様は一途すぎる人だから、あなたのお母様――紫苑姉様しかいなかったから、そういうことをあなたが慣れることができなかったのよね」
     「でもそれは、娘として幸せなことです。両親がそれだけ愛し合っていた証拠ですもの……まあ、それでちょっとお父様には困らされたこともありましたが」
     と、茉莉はニコッと笑って見せた。
     二人は女同士のたわいもない話をしながら、眠りに落ちた……。
     それからしばらくして、誰かが二人を呼び起こした。
     「お起きください、姫様、奥方様!」
     茉莉の乳母代わり(正確には紫苑の乳母)である右近の君だった。
     「どうしたの? いったい……」
     まだ寝ぼけ眼ながら起き上がった忍がそう言うと、右近はこう言った。
     「女帝がお出ましでこざいます!」
     この言葉で忍はもちろん、茉莉も一気に目が覚めた。
     右近の言うとおり、彼女の後ろに女帝が立っていた。
     「ごめんなさい、待っていられなかったから、右近の君と一緒に入ってきてしまったの」
     「これはまた、どうしてこのような刻限に」
     忍は慌てて着崩れを直して、女帝に平伏した。それを見た女帝は、
     「ああ、堅苦しくしないで。無礼は承知で訪ねてきたのよ、茉莉に会いたくて」
     「ひか……主上……」
     茉莉はまだどうしていいか分からないで、そのまま動けなくなってしまっている。そんな彼女の前に女帝は座った。そして、
     「忍の君、申し訳ないのだけど、寝床を譲ってくれないかしら?」
     それは、「茉莉と二人っきりになりたいから、この場を離れてくれ」という意味だった。
     なので忍は一礼すると、右近を連れて隣室へと移動した。
     忍が隣室への簾をまだ下ろしきらないうちに、声が聞こえてくる。
     「ひかる様、どうしてここへ? 桐壺の更衣は?」
     「更衣には振られてしまったわ。だからここへ来たの?」
     「振られた?」
     「そう、女同士は嫌だったらしいわ」
     忍が簾が下ろしきると、その音を合図にしたかのように茉莉の色めいた声が聞こえてきた。
     「ひかる様、ここでは……」
     「お願い、そのために来たのよ。私を慰めて」
     「あっ! ひかる様……」
     『あらあら』と、忍は恥ずかしく思いながらも嬉しくなった。そしてわざと聞こえる声で、
     「右近、女房たちをなるべく遠ざけておきなさい。私は雷鳴の壷(薫の娘の尚侍の局)で休ませていただくから」
     「承知いたしました、奥方様」


     もう遅い時間であったが、薫ならきっと許してくれるだろうと雷鳴の壷へ行くと(薫も今日は泊まっていた)、すでに薫が入り口で待ち構えていた。
     「女帝が藤壺へお出ましになったと聞いて、それじゃあなたの寝所がなくなってしまったのじゃないかと思って、だったら内裏で頼ってくれるのは私のところでしょ?」
     「お気遣いありがとうございます」
     すでに薫の寝所に忍の分の褥も用意されていた。この用意周到さは並みのことではない。そもそも女帝が自身の寝所である清涼殿から出てくること事態が異例のことである。これは何かあってのことではないかと忍が考えていると、案の定、薫が話し出した。
     「実は、桐壺の更衣が女帝に刃を向けたのよ」
     「それはどういう!?」
     「言ったとおりの意味よ。女帝を殺そうとしたのよ」

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