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from: エリスさん
2011年06月24日 13時24分08秒
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「夢のまたユメ・23」
「……てなわけで、今日は大変だったのよ」
と、百合かは言ってから、アイスココアをごくごくと飲んだ。
「うん、そうみたいだね」と翔太は言った。「こんな寒い時期に、アイスココアを一気飲みするぐらい、体が熱くなっちゃってるんだ」
二人はファンタジアが入っているショッピングモール・SARIOの一階にある喫茶店でお茶をしていた。せっかくのクリスマスなのだから、もっと洒落たレストランで食事でもすればいいものを、この二人にはそんな余裕は時間的にない。
「今日は何時までいられるの?」
と翔太が聞くので、「う〜ん………」と悩んでから百合香は答えた。
「6時……かな。明日も朝早いから」
「リリィは家に帰ってからが忙しいんだよな」
「忙しいと言うか……姫蝶と過ごす時間も大事にしたいのよ。あの子は私と兄がいない間、一人でお留守番してるんだもん」
「ああ、そうだね……つまり、リリィが家にさえいられればいいんだから……」
「それより、次は……」
いつ会う? と百合香が言葉を続けようとすると、
「よし!」と翔太は立ち上がった。「今からリリィの家に行こう!」
つい大声になったので、一瞬だけ周りの客に注目されたが、本当に一瞬だけで済んだ――ほかの客も自分たちのラブラブを維持していたいので、周りを気にしてなどいられないようである。そのため、百合香もそれほど恥ずかしい思いをしなくて済んだ。
「う、うちに来るの?……今から?」
「だめ?」
「だめって言うか……キィちゃんが初めてのお客様に引っかいたりしないかと……」
「それは徐々に慣らしていこうって、前にも話したじゃん」
「そうなんだけど……部屋片付けてあったかしら……」
「俺とリリィの間でそんな遠慮はなし!」
というわけで……。
「キィちゃん、初めてのお客様を連れてきたんだけど……」
翔太を連れて帰ると、姫蝶は玄関で座ったまま硬直してしまった――きっと、見たことのない人間の男がいるので、威嚇するか逃げ出すかしたいのに、その横に立っているのは紛れもなく「私のお姉様」だから、そんなことはできない……と、思っているのだろう。
まァ予想通りの行動だったので、百合香は姫蝶を抱き上げながら家の中へ入った。
「ハイ、先ずはキィちゃんのごはんかな?」
すると姫蝶は「みにゃあ〜」と色っぽく甘えた声を出した。
「おお! 可愛い声」
すると、姫蝶は咄嗟に「ファッ!!」と威嚇した。
「うわっ」と翔太はすぐに手を引っ込めたので、怪我はなかったが、百合香もすぐに怒った。
「コラッ! キィ!」
「いいって、怒んなくて。何もあぶないことしてないし。それより……」
脅して見せた姫蝶だったが、今は怯えるように百合香の首元に顔を潜りこませていた――本人は隠れているつもりなのである。
「ごめんね、人見知りな妹で」
「娘だろ? 姫蝶はリリィのこと母親だと思ってるんだ」
「そうかもしんないけど、私は、キィのあの“みにゃあ”って泣き方は、猫語で“お姉様”って呼んでくれているんだと思ってるんだけど」
「そこは百合的萌え妄想しなくてもいいだろ?」
とりあえず姫蝶を猫部屋へ連れて行って、ドアを閉めた。
「ドア閉めちゃえば姫蝶は出てこられないから、私は洗濯物を取り込んできちゃうね。その間……」
百合香は猫部屋の隣――つまり自分の部屋をあけた。
「ここで待ってて」
「うん……散らかってはいないけど、ちょっと狭いね」
8畳部屋なのだが、勉強机と本棚が2つ、箪笥代わりの衣装ケース(引き出しタイプ)が6段も積みあがっており、その隣に洋服ダンス(スーツやお洒落着など、吊るして仕舞う服用)、そして本棚が2つ。テレビの横のCDやDVDを収納している棚も元は小型の本棚らしい。とにかくかなり物が多いので、部屋が狭く感じるのだ。その上、今はこたつまで出ている。
「どうやって寝てるの?」
「こたつを端に移動して、布団を敷いて寝てる」
「カーペットの部屋なのに、布団?」
「普通はベッドだって言いたいんでしょ。でも置けなかったの」
「リリィって……仕事じゃないと、収納下手かもね(ファンタジアの仕事だったらちゃんと片付けられる)」
「はい、よく言われます(-_-; 」
それでも翔太はコタツに入って待っていることにした。icon
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from: エリスさん
2011年06月17日 12時43分07秒
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今日の言い訳 & 久々に映画に関する話
虚弱体質なのは皆さんご存知のことと思いますが、今週のこの七日間は、自治会からの無茶な(私的には)要求でストレスがたまり、その結果、月の障りが10日も遅れてひどい状態になったり(貧血起こさないようにするのがやっとでした……)、会社の方針が変わって新しい仕事を覚えなくてはならなくなって、そのせいで休日はぐったりとしてしまい、「夢のまたユメ」の原稿がまったく進みませんでした。
そういうわけで、今週はこちらのサークルだけ小説アップをお休みします。「神話読書会」ac48901@circle はちゃんと更新しますので、どうぞそちらをお楽しみください。
さて、久しぶりに映画に関する話をしましょう。
6月11日から「ゴーカイジャー ゴセイジャー スーパー戦隊199ヒーロー大決戦」が公開されました。それによって前売り券の販売も終了したので、ようやく話せる話です。
前もって説明しておきますと、前売り券というのは「公開前日まで販売することのできる映画鑑賞券」のことです。主に映画館やコンビニ、そしてチケットぴあなどのチケット専門店で販売されています。――金券ショップで「もう映画が公開されているのに“前売り券”という名称で販売されている券」がありますが、あれは――映画館やチケット専門店では売れ残った前売り券を配給元に返品するのですが、それをどうゆうルートなのか知りませんが仕入れてきて、販売しているようです。元々が前売り券の売れ残りなので「前売り券」という名称で販売してますが、映画が公開されてしまったら「前売り」の定義から外れてしまうので、本来は違う名称で売らなければならないものだ――と、数年前にうちの上司が言っておりました。
横道にそれましたが――この「スーパー戦隊199ヒーロー大決戦」の前売り券には、前売特典というものがついていました。最近は映画ごとにいろいろな前売特典がついているものなのですが、この作品では、歴代の戦隊ロボットと、歴代のレッド(アカレンジャーとか、シンケンレッドとか、ゴーカイレッドとか、戦隊のリーダーのこと)のマグネットが付いていました。スーパー戦隊35作品が勢ぞろいとあって、かなり見ごたえある前売特典だったのですが、一箇所だけ落ち度がありました。
「バイオマンのロゴが欠けてしまっているので、必ず修正シールをつけて販売してください」
販売元からそういうお願いが届いて、私は思わず噴出しました。
「よりによって“あの”バイオマンですか!」
私のこの驚きを理解できたのは、上司の中でも30代から上の人たちだけでした。
そして前売り券の販売が始まり、私たちフロアスタッフ(グッズ売り場を兼任している)は、スーパー戦隊の前売り券を販売する際、
「こちらの前売特典は、“バイオマン”の文字が欠けてしまっているので、販売元から修正シールが付いております」
と必ず説明していた――すると、子供さんと一緒に前売り券を買いに来た親御さんは、大概爆笑したものだった。
私の後輩たちは、お客さんたちのそういう反応を、
「“バイオマン”の“バ”の文字が“ヾ”(こんな感じ)になってしまっているのを面白がっているのかな?」
と思っていたようです。
そして無事に映画が公開されて、私はようやく特撮好きの後輩とそのことについて話すことができた。
「実は、“バイオマン”が放送されていた当時、イエローを演じていた女優が失踪してしまったのよ」
まだ二十二歳である彼は、めちくちゃ驚いていた。
私と同世代の皆さんは覚えておられると思うが、バイオマンのイエローフォー交代劇はかなり異様なものだった。急に素顔のイエローフォーこと小泉ミカが出てこなくなり、そして戦死後の葬儀も変身後のイエローフォーのまま埋葬された――普通、戦死した時点で変身が解けて小泉ミカに戻るところだが、そうならなかったのだから、いくら子供でも「おかしい」と気づく。
実は演じていた女優が急に行方不明になってしまい、仕方なく話をつなぐためにイエローフォーはスーツアクターが演じ、声は声優の田中真弓が代役を勤めた。
幸いバイオマンの設定は、「大昔に飛来した宇宙人が、地球人の中から5人選んでバイオ粒子を与え、いつか来る征服者から地球を守れるようにした」というものだったので、つまり「バイオ粒子を与えられた者の子孫だったらバイオマンになれる」ということで、新しいイエローフォーを探し出すという話につなげていったわけである。
その曰くありの作品のロゴだけが欠けてしまったのである。知っている人間は、
「なんの因果だ!?」
と思わずにはいられない。
「え?? もしかして、東映さんの狙いですか? 戦略?」
という後輩の驚きに、
「いや、偶然だろうけど、なんか結びつけて考えちゃうよね」
それにしても、あのイエローフォーの女優さん、未だに見つかっていないんですよね。いったいどうしちゃったんでしょうね。-
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from: エリスさん
2011年06月03日 12時34分18秒
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「夢のまたユメ・22」
「な……なにごと??」
どんどん集まってくる子供たち(ほとんどが男児)の数に、入場口アナウンス担当の百合香は慄(おのの)いた。
「イナズマイレブン 3Dの残席は……」
と、入場口の横にあるパソコンを操作していたかよさんが言った。「あと30席ぐらいね」
「30!?」
と、百合香は思わず大声をあげてしまった。「イナイレ(イナズマイレブンの略)の3Dって8番シアターですよ!?」
「そうね」
「ってことは、もう290席も売れてるんですか!?」
「そうよ。この間の木曜日よりは大したことないわよ。あの時は次の上映回まで満席だったから」
一度極限状態を経験してしまうと、次に似たようなことが起こっても「大したことはない」と思ってしまうものだが……。
『やっぱりあの日、ファンタジアに来なくて良かったァ〜』
と、つくづく思う百合香だった。
「入プレ(入場者プレゼント)もあるし、前もって打ち合わせしておいた方がいいよ――経験者は語るけど」
と、かよさんが言うので、
「ですよね!」と百合香は返事をした。
ロビーにいる子供たちがシアターに入るのは、今から25分後。前の回の上映が終わるのがあと10分で、残る15分で3Dメガネの回収(お客に貸した3Dメガネを出口で返してもらう)とシアター内清掃を終わらせなくてはならないのだが……。
百合香はトランシーバーのスイッチを押して、マイクを口元に近づけた。
「入場口の宝生です。フロアスタッフは、8番シアターの回収担当を除いて、入場口に集合してください」
すると、「林田了解!」という声が真っ先に帰ってきて、ロビーの奥からジョージが戻ってくるのが見えた。
「あれま、ジョージがいつになくテンション高いね」
と、かよさんが言うので、百合香も言った。
「昨日、エイジ(2年前までいたスタッフ。現在は社会人)たちと夜中まで飲んでたって言ってましたから、それでじゃないですか?」
「つまり寝てないのね(^_^; 」
ついで、ナミやぐっさん達も駆けつけた。
「呼んだか? リリィ」
と、ジョージは額の汗を手の甲でぬぐいながら言った。
「呼んだわよ。気持ちいいぐらい汗いっぱいね」
「おう! ロビーのトイレで子供が転んで、駄菓子のキャンディーをぶちまけちまって、そのキャンディーを踏んづけた子供がまた転んで、ポップコーンバケツをひっくり返して、もう大惨事だったのを掃除してきたんだ」
「そりゃご苦労様(-_-; 男の子ってどうして、食べ物持ったままトイレに行けるのかしら」
「別におかしな話じゃないだろ。男は――」
そこで、ぐっさんがジョージの顔を鷲づかみにした。
「ハイハイ、そこまで! リリィ、こんな話してる場合じゃないからこそ、集合かけたんでしょ?」
「そうでした。――まあ、見てのとおりの子供祭りでして」
「いや、話には聞いてましたけど」とナミは言った。「イナイレって人気あるんですね」
「特に今回は」と、かよさんが言った。「映画の最後にニンテンドーDSのゲームに必要なキーワードが出てくるってことで、こうゆう結果になってるの」
「なので、スケジュール表に書かれた担当通りにやっていると、ちょっと手が回らないので、変更します」と百合香は言った。「先ず、今マツジュンとミクちゃんは8番(シアター)でメガネ回収中で、次の上映ではメガネ配布担当だから、この二人はそのままで変更なし。だけどメガネ配布はもう一人必要そうだから、ぐっさんも入って」
「了解。そうなると、必然的に私が担当する6番シアターの清掃は他の人になるんだね」
と、ぐっさんが言うので、
「そう。8番の清掃がナミとユノンだから、あなた達は8番終了後、ホウキ持ったまま6番へ直行して」
「まかせて☆ ユリアス」
「俺は?」とジョージが聞くと、
「あなたはメガネ配布の場所にいて、入プレを配って」
「ラジャー!……ってことは、入場口のもぎりは、リリィとかよさんだけ?」
すでに300人を超えた子供たちのチケットを、二人だけでもぎるというのは、正直かなり辛い仕事である。なにしろ、子供たちはあまりお行儀が良くない。チケットを見せないで入ろうとしたり、ちゃんとチケットは見せても、もぎった半券を受け取らずに走り出す子もいるから、そうゆう子を追いかけて、「半券がないと席の番号が分かりませんよ」と諭すのも入場口担当の仕事なのである。だが、
「できるわよ」と百合香は言った。「かよさんとなら問題ない」
「うん、大丈夫だよ」と、かよさんも言った。「ベテラン二人に任せなさい」
「いやまあ、やれないことはないけど、大人向けなら……」と、ぐっさんが言った。「子供向けだと、やたら親御さんが(入場口の)スタッフに質問してくるじゃん?〈この映画は何時に終わるんですか?〉とか〈トイレはどこですか?〉とか。そのとき、聞かれたこっちは手を止めなきゃいけなくなるから、出来れば、リリィはもぎりしないでアナウンスに専念して、質問されたならリリィが答えるようにすれば、もぎりの流れが止まらないで済むと思うんだけど」
「そうなると、あと一人必要になるからね……」
そこへ、黒スーツ姿の男が現れた。
「大変遅くなりました、宝生さん」
フロア担当マネージャー(入社9ヶ月)の榊田玲御(さかきだ れおん)だった。
「お呼びしておりませんが、榊田マネージャー」
「今、フロアは全員集合ってシーバーで言ってたでしょ?」
「いや、スタッフを呼んだんであって、マネージャーは呼んでませんから」
榊田マネージャーはイケメンの顔に似合わず天然ボケが可愛いと言われる男だった。
「ええ〜、手伝いたかったのにィ〜」
「榊田さん、また馬鹿なこと言ってると野中マネージャーに怒られますよ」
すると今度は横から「呼んだ?」と、またしても黒スーツの男が現れた。――ご想像通り、野中賢治(のなか けんじ)マネージャー(フロア担当マネージャー。入社5年、30歳の新婚ほやほや)だった。――ファンタジアの社員は全員、黒スーツ着用を義務付けられている。
「あんまり入場口にスタッフが堪らないようにしてね、宝生さん。作戦会議中なのは分かるけど、支配人が監視カメラから見て怒ってたから」
「あっ、はい。すみません」
「うん。じゃあ、僕はチケット窓口のヘルプに行ってるから、その間、レオちゃん(榊田の愛称)は好きなように使っていいよ」
「へ!?」
百合香たち部下を尻目にさっさとチケット売り場の方へ行ってしまった野中を見送りながら、榊田は言った。
「許可下りたね」
「はい……それじゃ、もぎりお願いします」
「はい、了解」
そんなわけで……
「全員配置について! 気合入れてくよ!」
「了解!!」
真冬だというのに、気温が1、2℃上がりそうな勢いだった。icon
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