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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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公開 メンバー数:6人

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  • from: エリスさん

    2011年10月28日 11時46分49秒

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    ブロクを始めました

     すでにご存知の皆さんも多いかとは思いますが、下記でブログを始めました。併せてお楽しみください。


      「淮莉須部琉の隠れ家」ae11607@circle

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  • from: エリスさん

    2011年10月28日 11時40分26秒

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    ようやく出せましたァ!

     ルーシーの登場です!

     翔太は気づいていませんが、翔太と百合香の共通の友人だったんです。


     それはいったい誰でしょう。
     次の登場はかなり先になります。

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  • from: エリスさん

    2011年10月28日 11時38分07秒

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    「夢のまたユメ・34」


     次の日の木曜日。
     百合香は翔太と上野に来ていた。そこの劇場で落語の高座があって、翔太の父親がどこからかチケットを二枚貰ったので、翔太に、
     「彼女と見てきたらどうだ」
     と譲ってくれたらしい。
     百合香は生の落語は初体験だったが、十分に楽しむことができた。
     「面白かったわ。お父様に御礼申し上げてね」
     百合香が言うと、翔太は言った。
     「そんな堅苦しいお礼じゃなくて、面白かったってことだけ伝えておくよ」
     二人は劇場を出て、昼食をとるお店を探した。
     「なに食べる?」
     と百合香が聞くと、
     「なんでもいいよ。リリィが好きなもので」
     と翔太が答えたので、百合香は意地悪っぽく笑った。
     「ホントにいいのォ〜」
     「え!? まさか、馬鹿高い店に連れてこうってんじゃないよね」
     「高くはないけど……翔太は初体験かもしれない」
     「ええ? なんの店だよ、いったい」
     「上野って言えば、歩いてアキバ(秋葉原)に行けるでしょ?」
     それで翔太も合点がいった。
     「ああ! メイドカフェか! リリィ、好きだもんな」
     「メイドカフェって言っても、ちょっと変わってるのよ。今日は男性を連れて行ってもいい日だから……」
     「あっ、言ってたね。女性専用のメイドカフェに行ってるって」
     「そうなの。でも年に何回か男性を同伴で来店してもいい日があって、それが今日なのよ。だから行きましょ」
     「いいよ、行こう」
     二人は歩いて秋葉原へ向かった。百合香が言うとおり、上野と秋葉原の電気街はそれほど離れていない。今は「電気街」と呼ぶのも気が引けるほど「アニメと漫画の街」になっているが。
     途中の電気屋で、DVD-RAMが特売をしていた。
     「翔太、ちょっと待ってて。買ってくるから」
     「うん、待ってる」
     百合香が店の中に入ってしまうと、翔太は何気なく交差点の方を見ていた。
     色とりどりのメイド服を着た女の子が、お店のビラを配っていた。――中には「これはメイドなのか??」と言いたくなる様な格好もいる。
     その中の一人が翔太に気づいて、トコトコっと歩いてきた――膝までの長さの藍色のワンピースにフリル付の白いエプロンを組み合わせた“エプロンドレス”に、猫耳のついたカチューシャをつけた、ツインテールの黒髪をした女性(二十歳は超えていそう)だった。
     「どうぞ、お越しください」
     メイドは一枚のちらしを翔太に渡して、交差点を渡って行ってしまった。
     百合香が戻ってきたのはそんな時だった。
     「あら、翔太。メイドさんと話してたの?」
     「ああ、ちらしを貰ったんだけど……どっかで見たことあるんだよなァ?」
     「え? 知り合い?」
     「の、ような気がするんだけど……思い出せない」
     「あのツインテールの人よね?」
     信号を渡りきったメイドは、そのまま真っ直ぐ行ってしまって、百合香には後姿しか見えなかった。
     「あの背格好じゃユノンじゃないし……(ユノンはメイドカフェでもバイトをしていた)」
     「ユノンだったら俺だって分かるよ。それに……ちょっと声が低かったかも」
     「え? 男の子?」
     「かもしれないけど、美人だったよ」
     「ちょっとそのちらし見せて」
     百合香は翔太からちらしを受け取って、見た。
     「ああ、なるほど……」
     そのメイドカフェのちらしは、お客さんも有料でコスプレができるお店だった。
     「ここなら、変身願望のある男の子が行って、コスプレして楽しんでるって聞いたわ」
     「じゃあ今のは、俺の知り合いの男が変装してたってこと?」
     「でしょうね――私が見たら、分かったかも」
     二人は話しながら歩き出し、目指すお店へと向かった。

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  • from: エリスさん

    2011年10月21日 12時18分35秒

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    「夢のまたユメ・33」
     「フロアと映写室お願いします」と百合香はシーバーで話した。「10時30分、6番シアター“オーズ&ダブル(仮面ライダー)”、上映開始2分前です」
     するとシーバーで「映写室了解です」と返事が返ってくる。
     「入場口お願いします」とシーバー連絡が入る――マツジュンからだった。「6番シアター前、撤収しても大丈夫ですか?」
     「まだ売店前にお客様が並んでいます。そのお客様がご入場されるまで待機でお願いします」
     「はい、了解です」
     “仮面ライダー×仮面ライダー オーズ&ダブルfeat.スカル MOVIE大戦CORE”の入場者プレゼントの「ガンバライドカード」は、お客さんに渡しそびれてしまうと、大変なクレームになる。このカードはおもちゃ屋などに置いてあるゲーム機で遊ぶときに使用するカードで、入場者プレゼントとして配っている物はおもちゃ屋では販売されていない、いわゆる「レアカード」なのである。
     5分ぐらいすると、売店前のお客さんも皆さんシアターに入ったので、百合香はマツジュンに撤収を指示した。
     「さてそれじゃ、順番に休憩取ろうか……沢口さんとぐっさん、お先にどうぞ」
     と百合香が言うと、沢口さんは、
     「宝生さんはいいの?」
     「お二人の次に取ります」
     そこで、ほうきを片手にナミが現れた。「リリィさんは俺と一緒に休憩取りましょ。じゃ、ロビーのトイレチェック行ってきまァす」
     「ハーイ、行ってらっしゃい。まっ、そんなわけなんで」
     なので、ぐっさんが言った。「彼氏ができても、子離れできずか」
     「向こうが親離れできてないのよ」
     そこへ劇場内を点検していた大原マネージャーが通りかかって、パンパンっと手をたたいた。
     「ホラホラッ、入場口で溜まらない! 勤務中よ」
     「はい、スミマセン (^_^; そんなわけで、お二人は休憩に行ってください」
     沢口さんとぐっさんを送り出した後、有田と後藤にも指示を出した百合香は、入場口のパソコンで1時間後に入場になる作品の動員数を確認した。
     「2D(3Dに対して通常上映のこと)でもイナイレ(イナズマイレブンの略)は100超え(動員人数が100人を超えていること)しそうねェ……」(まだ1時間前なのに75席が売れていた)
     百合香がそんなことを呟いていると、親子連れが近づいてきた。お父さんと男の子が二人――小学校3年生ぐらいのお兄ちゃんはお父さんにピッタリくっ付いているが、腰にオーズドライバー(仮面ライダーオーズの変身ベルト)をつけた、まだ幼稚園ぐらいの弟は我先にと駆けてきて、「ハイ!」と百合香に三枚のチケットを差し出した。
     「はい、いらっしゃいませ。仮面ライダーのチケットが1、2、3……3名さまでよろしいですか?」
     最後の方は父親に聞いたのだが、
     「え? いや……違います」
     と、父親はお兄ちゃんの肩をつかんで、一緒に後ずさった。――弟だと思っていたその幼稚園児との間に、距離ができた。
     『あっ! あっぶな!(危ない)』と百合香はチケットを持ったまま硬直しそうになった。ほぼ同じタイミングで、同じ方向から、しかも三枚のチケットを手にしていたものだから、すっかり三人連れの親子だと勘違いしてしまったのである。
     「あの、ボク? お連れ様は……親御さんはどこかな?」
     百合香がオーズドライバーを付けた幼稚園児に聞くと、その子は元気良く「3人!」と答えた。
     「うん、そうじゃなくて……ちょっとここで待っててくれる?」
     百合香はお父さんと男の子の二人連れを先に入場させようと、三枚のチケットを幼稚園児に返した。すると、園児は即座に中に入ろうとした。
     「ダメ! まだ中に入っちゃ。ちょっと待ってて!」
     「オーズ〜、はじまるよォ〜」
     そこへ大原が戻ってきてくれて、待たされていたお父さんと男の子に声をかけた。
     「お待たせいたしました、2名さまでよろしいですか? こちら入場者プレゼントになります……」
     大原が対応してくれているので、百合香も幼稚園児に専念することができた。
     「ボク、今日は誰と来たの?」
     「パパとお姉ちゃん」
     「パパは今どこにいるの?」
     「あっち!」
     と指差した方向は売店で、ちょうどそこに会計を済ませたばかりの父親と、小学一年生ぐらいで、腰にダブルドライバー(仮面ライダーWの変身ベルト)を付けた女の子がいた。このダブルドライバーを見た途端、
     『あっ、間違いなくこの二人が姉弟(きょうだい)だわ。しかもお姉ちゃん、ガイアメモリがヒートとジョーカーだなんて、ナイスチョイス d(^_^)』
     と、百合香は思った。
     「あれ? しんいちは?……あっ! しんいち!」
     「しんちゃん! なにしてるの!」
     本物のお父さんとお姉ちゃんが、ようやく幼稚園児に気づいて、駆け寄ってきた。
     「バカ! 一人で行くな! 迷子になるだろうが!」とお父さんは息子に怒ってから、百合香に「どうもすみません!」と謝った。
     「いえ、大丈夫ですよ。では3名さまで……こちら、入場者プレゼントになります」
     無事にお客さんたちが入場し終わったところで、百合香がため息をつくと、
     「ね?」と大原が言った。「危ないでしょ? 確認しないと」
     「ホント、危なかったです。ありがとうございました、フォローしてくださって」
     「どういたしまして」
     と、大原は微笑んで、事務室へと戻っていった。

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  • from: エリスさん

    2011年10月14日 13時05分32秒

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    「夢のまたユメ・32」
     「いつまでむくれてるの?」
     百合香はそう言いながら、ジョージの肩を叩いた。
     「むくれては……いるけどさ」
     「正直でよろしい」と百合香は微笑んだ。「そう言えば、昨日はあなたが入場口の担当だったっけ」
     「うん。だから俺が直接怒鳴られたんだ、お父さんに」
     「怒鳴られたのか……想像つくわね」
     「ガラの悪い父親だったんです。実際、シアターの中で男の子を見つけたときも、目撃談によると、〈おまえ何やってんだ!〉って子供を殴り飛ばしたそうです。自分が子供にチケットを渡して、そのまま目を離したのがいけないのに」
     「いるわね、なんでもかんでも責任転嫁する人。でもそういう人をも相手にしなければならないのが、映画館みたいなサービス業の宿命なのよね。とりあえず、嫌な事は忘れて、気持ち切り替えましょう。今日はうちで鍋パーティーするから、あなたも来なさい」
     「ホント! 絶対行く。リリィん家のメシ旨いから!」
     その時、シャッター前に待機していたマツジュンこと松本純一からシーバー連絡が入った。
     「定刻なのでシャッター開きます」
     すると榊田から「お願いします」というシーバーの応答が入った。
     百合香は入場口のボックスの中に入り、マイクを手にした――声がよく通る百合香は入場口のアナウンス係になることが多かった。
     お客さんがマツジュンの誘導でチケット売り場へ歩いていくのを確認した百合香は、マイクのスイッチを入れてアナウンスを始めた。
     「本日はシネマ・ファンタジアにご来場を賜りまして誠にありがとうございます。お客様に当劇場のご案内を申し上げます……」
     百合香のアナウンスを読み上げる(実際は暗記しているので何も見ていないが)中、チケット売り場にはかなりの人数が押し寄せていた。
     マツジュンからシーバーが入った。
     「入場口の宝生さんへ、チケット(売り場)のパーテーションがはみ出しそうです」
     「はい、了解です」
     百合香はシーバーでそう答えると、マイクに向かってこう言った。
     「本日はチケット売り場が大変込み合いまして、誠に申し訳ございません。お客様にご案内いたします。本日、複数名でご来場のお客様は、チケット売り場には代表者様一名様がお並びくださいますよう、どうぞお願い申し上げます。――繰り返しご案内いたします。本日、複数名で……」
     このアナウンスを始めると、チケット売り場の列から何人かが外れて、少し列が空いてくる。これでも溢れ出る場合は、前もってショッピングモール・SARIOから借りているパーテーションを出して列(通路)を伸ばしていくのだが――今日はそこまでは行かないようだった。
     チケット売り場の列が落ち着いてきたので、ようやくマツジュンが戻ってきた。
     「やっぱり混在する日はリリィさんのアナウンスの方がいいですね。よく聞こえるから、お客さんもちゃんと聞いてくれてる」
     「どういたしまして」と百合香は言った。「それじゃぼちぼち入場開始しますか。ジョージはもぎりを一緒にやってね」
     「はい、了解!」とジョージが定位置につく。
     百合香はシーバーのスイッチを入れて、言った。
     「8番シアター前の沢口さんと山口さん、イナズマイレブンの準備はできてますか?」
     すると沢口から返事があった。「はい、3Dメガネも入場者プレゼントも準備できてます」
     「了解です。続いて、5番シアター前の池波君、ウルトラマンゼロの準備はできてますか?」
     「はい、入プレ(入場者プレゼントの略)準備OKです」
     「はい、了解です」と百合香はシーバーで喋ってから、マツジュンの方を向いた。「あなたは9番(シアター)前で相棒(相棒Ⅱ 劇場版)の準備して」
     「了解です!」
     この時期の上映作品は、入場者プレゼントの配布がある作品ばかりなので、フロアスタッフも大変だった。
     「それではフロアと映写室お願いします。9時ゼロ分、8番イナズマ3D、5番ウルトラマン、入場開始します」
     すると映写室から「映写室了解です」という返事が戻ってきた。
     百合香はアナウンスを始めた。
     「本日はシネマ・ファンタジアにご来場を賜りまして、誠にありがとうございます。大変長らくお待たせいたしました……」
     まだ映画のタイトルを言う前だが、「大変長らく」と言った時点で、もうお客が近づき始めていた。それを対処するのがジョージの役目である。
     「9時ちょうどより、8番シアターで上映の“3D上映版 イナズマイレブン”と、5番シアターで上映の“ウルトラマンゼロ”の入場を開始いたします……」
     ここまでくると、子供向け作品なだけに、一気に子供たちが押し寄せてくる。中には後ろから母親に「指定席なんだから、そんなに慌てなくても大丈夫よ!」と引き戻される子供もいた。
     「ハーイ! みんな押さないでねェ〜! 順番にご案内するからねェ」
     百合香もいつまでもアナウンスをしていられなくなり、あとはひたすらもぎりである。
     「チケット4枚で、4名さまですね? 8番シアターは突き当たりを右に曲がってください」
     「お守りちょうだい!」と、一人の子供が手を伸ばすと、残る二人の子供も手を伸ばしてきた。
     「はい、入場者プレゼントのお守りは8番シアター前で配ってますよ」と百合香が言うと、
     「ほら、シアター前でもらえるって。進んで進んで、立ち止まらない!」と、その子達の母親が子供たちを押していった。
     ジョージの方でも、「カードちょうだい!(ウルトラマンの)」と男の子に言われて、
     「はい、カードは5番シアター前でもらってください」と説明していた。
     テレビで前もって「映画館に行くとプレゼントがもらえる」と宣伝しているので、子供たちも必死なのである。
     しばらくすると、5番シアター前のナミから連絡が入る。
     「フロアお願いします。5番シアター K‐8でジュースこぼされたお客様がいます」
     なので百合香は「有田さん、お願いします!」
     「了解です!」
     この時、有田と後藤(通称ミクちゃん。名前が未紅だから)は不測の事態(お客さんが飲食物を落としたとか、急病人が出たとか)が起きたときに対応できるように、倉庫でチラシやポスターの管理をしながら待機していた。
     8時55分になると、9時出勤のユノンこと田野倉由乃が出勤してきた。
     「お待たせ〜 何したらいい?」
     「今から私がアナウンスするから、私の前に立って」
     「うん、いいよォ〜」
     ずっともぎりをしていたせいでアナウンスができなかった百合香は、ようやくマイクを左手に持ち、右手でシーバーのスイッチを入れた。
     「フロアと映写室お願いします。9番シアター、相棒、入場開始します」
     百合香は映写室からの「了解です」を聞くまでもなく、マイクで喋りだした。
     「お客様にご案内いたします。大変長らくお待たせをいたしました。9時10分より、9番シアターでで上映の“相棒 劇場版Ⅱ”の入場を開始いたします……」
     懸命な読者ならお分かりだろうが……「大変長らく」と言った途端に、“相棒”のお客が押し寄せてくる。まだイナズマイレブンとウルトラマンのお客が完全に入りきる前なので、その人数はジョージ一人では裁ききれない。だからマイクアナウンスをする百合香にチケットを差し出してくるお客が出ないように、ユノンが百合香の前に立ってもぎりを担当する必要があるのだ。
     この「入場ラッシュ」は10時30分上映の開始の“仮面ライダー×仮面ライダー〜”まで続くことになる。

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  • from: エリスさん

    2011年10月07日 12時58分06秒

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    「夢のまたユメ・31」
     オープン準備――分かりやすく言うと「開店準備」である。映画館なので「オープン」などと格好よく言っているのだが、この仕事は各部署2、3人ずつで済ませられる仕事なので、今は3人のフロアスタッフと、二人の売店スタッフ(ポップコーンなどの飲食物を販売するスタッフ)しか来ていないが、この30分後にチケットスタッフが六人、さらに30分後にフロアと売店があと五人ずつ来ることになっていた。
     百合香たちがオープン準備をすっかり終わらせたころ、残りのフロアスタッフが出勤してきた。
     「リリィさん! 聞いてくださいよ(^O^)」
     開口一番、ナミこと池波優典(いけなみ ゆうすけ)が言った。「ここ来る途中で、野中マネージャーを見かけたんですけど」
     「野中さんがどうかしたの?」
     百合香が返事をすると、ちょっと離れたところにいた榊田も近寄ってきた。
     「道を横切ろうとした野良猫を(自転車で)轢きそうになって、自分が引っくり返っちゃったんですよ」
     「ええ!? 危ないじゃん! それで、野中さんと猫は?」
     「猫は無事ですよ。野中さんも怪我はないみたいでしたけど、恥ずかしかったみたいで、何事もなかったようにササッと行っちゃいました」
     「あなたがいることには気づいたの?」
     「気づいたのかなァ? だから恥ずかしかったんだと思いますけど」
     「まあ、部下にそんなところを見られちゃね」
     「ああ〜もう〜」と言ったのは榊田だった。「だから仮眠してから帰ってくださいって言ったのに」
     「仮眠?」とナミは聞いた。「徹夜明けなんですか?」
     「そうなんだって」と百合香が答えると、
     「だったらタクシーで帰ればいいのに」
     「交通費をかけたくなかったんでしょ」
     「ちょっとのお金をケチったせいで、大怪我されたら元も子もないよ」と榊田は言った。「野中さんがいなかったら、こんな個性派ぞろいのフロアスタッフ、僕一人じゃまとめていけない……」
     なので百合香は突っ込みを入れた。
     「個性派なのは榊田さんもじゃないですか」
     そんなこんなで朝礼が始まった。
     「はい、おはようございます。今日の早番マネージャーは榊田さんと、私・大原です。先ずは昨日までの連絡事項のおさらいで……」
     子ども向け作品の入場者プレゼントがいくつ残っているかとか、最近の売れ筋商品などの情報を話した後で、大原美雪(おおはら みゆき。チケットマネージャー)から昨日のお客様からのご意見(クレーム)が発表された。
     「家族四人でウルトラマンゼロをご鑑賞しようとしたところ、一番下の男の子が行方不明になってしまいまして、まだご両親と上のお姉ちゃんは(劇場に)ご入場されていないでロビーにいたのですが、もしかしたら男の子が一人で劇場の中に入っているかもしれないから探させてほしいとご要望があったので、小野田マネージャーが一緒に付いて入りました。そうしたら、男の子が一人で席に座っていたと……しかも、チケットを一般の券と幼児の券――計2枚を持っていて、半券がもぎられていました。それでご両親から、
     〈子供が一人で2枚もチケットを持っていたのに、止めもしないで入らせるとは、どうゆうつもりだ〉
     というご意見をいただきましたので、フロアスタッフは、チケットの半券をもぎる時、必ずチケット枚数分の人数がそろっているかどうか、確認を怠らないでください――何か質問はありますか?」
     「はい!」と手を上げたのはジョージこと林田穣次(はやしだ じょうじ)だった。「その男の子は、自分の分のチケットと、親御さんのどちらかのチケットを持っていたってことですか?」
     「正確に言うと、その男の子は一歳半なので無料鑑賞です。チケットはいりません。三歳になるお姉ちゃんのと、お父さんの券を持っていたそうです。ですからその子が劇場に入ってきた時はきっと大人数が入場口に押しかけていたことでしょうから、もぎったスタッフはその子のそばにいた大人を、その子の親御さんと勘違いしてもぎってしまったんじゃないかと推測されます」
     と大原マネージャーが言うと、ジョージは言った。
     「いえ、僕が言いたいのはそんなことじゃありません。まだ一歳半の子供にチケットを二枚も持たせていた親御さんに責任があるんじゃないかと思います。ましてや、親御さんだって子供から目を離していたわけですから、責任をこっちに押し付けられても……」
     なので「コラッ」と百合香はジョージに言った。
     「親御さんだって普段はかなり神経を使って気をつけてるのよ、子供から目を離さないように。それでも、子供ってちょっとした隙に遠くの方まで行っちゃってるものなのよ。冒険心のかたまりなんですもの。確かに、子供に大事なチケットを持たせていたのは、親御さんの落ち度だと思うわ。でも、ファンタジア側としても、
     《お客様がご入場される際は、チケットの枚数と入場者数が同じであるかどうか確認する》
     というマニュアルがあるんだから、それに沿って気をつけなければいけないことなの。今回のことは、そのマニュアルをちゃんと守れなかったこちら側の責任ということになるわ」
     「……そうですけど……」
     「ジョージの言いたいことは十分に分かるのよ。ここにいる皆もね。でも、私たちはお客様第一に考えて行動しなきゃいけないから、理不尽なことでも時には受け入れなきゃいけないのよ」
     百合香の言葉に、まだ少し不満は残りつつも、ジョージは「分かりました」と返事をした。
     大原もこのやり取りを見て安心し、
     「はい、では今日も定時にオープンします。皆さん、よろしくお願いします」
     「お願いします!」
     時間は午前8時30分になりつつあった。


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