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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2014年01月17日 12時20分04秒

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    夢のまたユメ・89

    百合香には信じられなかった。チャットで話していたルーシーは、確かに女性だと思っていたのに、実際に目の前に居るのは男性......。しかし、恐らく自分の知り合いだろう、ということだけは当たっている。
    「本当に、あなたがルーシーさんなの?」
    百合香が言うと、小坂は自分の携帯を開いて、画面メモを表示させた。そこに、「ルーシーさんのログインボタン」という記述と、コミュニティーサイトにアクセスするための「GO!」と書かれたボタンがあった。それは、小坂がルーシーの名でコミュニティーサイトに登録している証拠だった。
    「信じてもらえた?」
    小坂の言葉に、百合香は頷いた。
    「カールって、女性の心理に詳しいのね......」
    「それは......じゃあ、着替えて来るね」
    「え?」
    「今日は僕の総てを見てもらいたいから。すぐに戻るね」
    小坂はそう言って、百合香を残して出て行った。
    仕方なく百合香はクリームソーダを飲みながら待っていたが......隣の個室が騒がしくて落ち着かない。
    百合香的にはかなり待たされた感があったが、小坂的にはかなり急いで戻ってきた。
    その小走りに戻ってきた仕草が、実に可愛い女の子だった。濃紺のメイド服は膝丈で、スカートと白いハイソックスの間の絶対領域は艶やかな白い肌をしている。髪形は長めのツインテールで、青いリボンで結んでいた。
    そもそも小坂は女顔なので、ここまで見事に女装していれば男に見えることはなかった。
    百合香は小坂のメイド姿を見て、思い出した。
    「翔太にチラシをくれたわね。年明けに私たちがデートに来たとき。そう言えばあの時もらったチラシは、この店のものだったわ」
    「そう、あれは僕。でも、ミネ(翔太)さんは全然気づかなかったよね。声までかけてあげたのに」
    「思いもしなかったのよ。知り合いの男性がまさか女装しているなんて」
    「女装ね......僕としては、こっちの姿の方が本当の僕なんだけどな」
    「え?」
    「僕、心は女だから」
    ちょうどその時、隣の個室から一瞬びっくりするような騒がしい声が聞こえてきたので、百合香がドキッとした。
    「ごめんなさい......リリィさんはメイドカフェが好きだって言ってたから、てっきり......」
    「ううん、私もちゃんと言っておかなかったから。私には贔屓にしているメイドカフェが三つあって、それらはもっと落ち着いたお店なのよ」
    「そのうちの一つはメリアン女学園だよね」
    「そう。ああ、言ったことあったっけ」
    「うん、リリィさんからも聞いてたけど......じゃあ、急いで飲んじゃって」
    「え?」
    「お店変えよう。ここには本当の僕を見てもらうために来てもらっただけ。すぐに二人っきりで話が出来るお店に移るつもりだったの」
    「そうなんだ」
    時折、小坂が女言葉になるが、それも違和感がない。
    百合香は急いでクリームソーダを飲み干した。
    「じゃあ、行きましょう」

    小坂が連れてきてくれた2軒目のお店は、メリアン女学園だった。
    「えっと......ここは女性専用のメイドカフェなんだけど......」
    百合香が言うと、小坂は微笑んだ。
    「大丈夫、僕なら入れるから」
    「うん、まあ、その姿なら男の子だとは気付かれないと思うけど......」
    「心配ないから、入ろ(^o^)」
    小坂が店のドアを開けると、中から、
    「ご機嫌よう!」
    と、声が掛かった――メイドの結花だった。
    「あら、ルーシーさん。......まあ! 百合香お姉様!」
    結花の反応の仕方で、百合香は悟った。
    「あなたもここの常連なのね?」
    「仕事が早く終わった時なんかにお邪魔しているの」
    「そうなんだ......」
    そこへ、カウンターの奥から店長の小谷晶子が出てきた。
    「いらっしゃいませ、ユリ姉さま。ルーシーさんも。とうとうユリ姉さまに全てを話す時が来たのね」
    「ええ。二階の部屋、貸してね」
    「いいわよ、入って」
    メリアン女子学園の二階から上は晶子の自宅だということは百合香も知っていたが、百合香は入ったことがなかった。それを、小坂は入ったことがあるらしい。
    トイレの横に階段があって、その階段はチェーンと籐椅子で塞がれていた。晶子はそこからチェーンだけ外して、二人を上へ促した。
    「二人とも、お茶はいつものでいい?」
    百合香の「いつものお茶」は水出しのアールグレーだが......。
    「私はそれでいいわ。ケーキは今日のおすすめで」
    と、百合香が言うと、
    「僕もお茶はいつもの。ケーキはミルクレープを」
    と、小坂は言った。
    「分かった、持っていくわ」
    晶子はそう言うと、再びチェーンを閉めた。
    階段を上がると、すぐにリビングが現れた。そこのソファに小坂は百合香を促した。
    「晶子とは親しいのね」
    百合香が聞くと、小坂は照れ笑いをした。
    「実は、最初このお店で雇ってもらおうと思って、面接を受けに来たんです」
    「そうだったの?」
    「ええ。でも、心は女性でも、体は――というか、戸籍が男性だから、この店で雇うわけにはいかないって言われて。それで、晶子さんに今のお店を紹介してもらったの。あの店はお客さんもメイドコスプレが出来るサービスがあって、お客さんがメイドの真似事をするオプションもあるから、きっと僕でも雇ってもらえるんじゃないかって」
    「それで、雇ってもらえたってわけね。でも、カールって保育士もやってるわよね?」
    「うん、だから土曜日だけ出勤しているの」
    「週一勤務なんだ。良く雇ってもらえたわね」
    「店長、心が広い人だから。僕の障害の事も良く理解してくれている」
    「障害――つまり、カールは体は男性だけど精神は女性の、性同一性障害なの?」
    「ううん、違うよ」と、小坂は苦笑いをした。「僕はIS――半陰陽なんだ」

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