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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2014年07月18日 11時09分01秒

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    夢のまたユメ・99

    それから数日後。――百合香の家に長峰紗智子が遊びに来た。
    ちょうど校正の仕事をしていた時だったが、相手が紗智子だったので遠慮なく机の上の物はそのままにし、百合香は台所でお茶を淹れていた。その間、紗智子が机の上の物に気付いて、一目で何をやっていたか理解した。
    「良かった。お仕事見つかったのね。海原書房さんかァ......」
    紗智子は茶封筒に書かれている出版社のロゴを見て、そう言った。
    百合香がお盆にお茶を乗せて戻って来ると、
    「そうなの。崇原さんが気を使ってくれて、私にお仕事をくれたのよ......どうぞ、座って」
    百合香がちゃぶ台にお茶を置くと、紗智子はそこの前に座った。
    「崇原さんって、月刊つばさの編集長ね。そう言えば崇原さんの奥さんと友達だったのよね、百合香さんは。翔太から聞いてるわ」
    「そうなの、前の仕事で知り合って。ご主人の方ともね。だから、朝日奈印刷を辞めた理由も友人として話してあったから、今回校正士として雇ってもらう際も、変な詮索はされないで済んだわ」
    「今までは朝日奈が裏で手を回してるみたいだったから、マスコミ関係に再就職できなかったんですものね」
    紗智子はそう言って、お茶を一口飲んだ。「おいしい。ローズヒップティーね」
    「ここのところ、こればっかり飲んでるの。甘酸っぱいのが良くて......」
    「妊婦さんにはグレープフルーツばかり食べたくなる時期があるっていうけど、そういうこと?」
    「ああ、そうかも......」
    「良かったわ。お腹の赤ちゃんも順調に育ってるみたいね」と、紗智子は微笑んだ。「正直、百合香さんの新しい仕事に関しては、私も多少考えていたの。職歴から考えても在宅校正士の方が向いているのに、私からあなたに仕事を回してあげるわけにはいかないんですもの」
    「分かってるわ。お父様とおじい様の手前もあるものね」
    「ええ。......一応、偽名で雇ってもらおうかとも考えたのよ」
    「虚偽は良くないわよ」と、百合香は笑った。
    「そうよね。良かった、海原書房さんで雇ってもらえて」
    「実はね、うまく行けばお仕事は他にも手に入りそうなの」
    「なァに? それ」
    「うん、コミュニティーサイトの方でね......」
    百合香は海原書房がサークルプレイヤーに協賛したあたりから説明し、それによって頑張り次第では書籍が出版できることも話した。それで紗智子は納得したような表情を見せた。
    「どうりで紅藤先生に仕事を断られるはずだわ」
    「沙耶さんに? 秀峰書房から執筆を依頼したの?」
    長峰家が経営する秀峰書房では、新しい読者層を取り込むために、それまで出版していなかったライトノベル雑誌を刊行することになった。そのために、それまで付き合いのなかったライトノベル作家の何人かに執筆を依頼した。その中に紅藤沙耶が入っていたわけであるが。
    「他の仕事が忙しいからって断られたって、翔太が言ってたわ」
    と、紗智子が言うと、
    「翔太が交渉に行ったの? 営業部なのに?」
    「あっ、言ってなかったわね。翔太ね、その新しい編集部の編集員になったのよ」
    「そうなの! まあ、念願かなったのね......」
    「でも前途は多難よ。初っ端から転んでるもの......紅藤先生の交渉に翔太が抜擢されたのって、二人が顔見知りだからだったのに」
    「それはまあ......でも、沙耶さん側に事情があったんだから、仕方ないと思うわ」
    「そうよね。自分の夫がいる会社に仕事を依頼されれば、そっちを優先するのは当たり前だもの。......まあ、翔太も他の作家を当たり始めたみたいだけど」
    「見つかるといいわね......」
    「いっそのこと、百合香さんに依頼したいって思ってるかもね」
    「無理だけど(^_^;) 」
    「うん、無理だけどね。でも、ライトノベルをうちからも出そうって父が決めた時、きっと頭の片隅に、あなたのことがあったんじゃないかって思う時があるわ」
    「お父様の、頭の片隅に?」
    「ええ......父も、あなたの作品には可能性を感じていたから。祖父もよ。でも仕方ないわよね。あなたと翔太の縁談を破談に追い込んだのも父と祖父なんだから、今更あなたに仕事を依頼したくったって、それは虫が良すぎってものよ」
    「......そんなこと......単に縁がなかっただけよ」
    秀峰書房がライトノベル雑誌を刊行する背景に、まさか自分が係わっていようなどとは、思ってもみなかった百合香だった。

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