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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2015年10月02日 10時33分47秒

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    夢のまたユメ・115

    馨が百合香のもとを訪れたのは、それから一週間ほどたった日の午前中だった。
    「......もう来ないのかと思ったわ」
    百合香が申し訳なさそうな表情で言うと、馨は苦笑いで答えた。
    「わたしがあなた無しで生きられるわけないでしょ?」
    「あら!」と、百合香は驚いた――馨の声が以前より女らしくなって、更に言葉遣いも一人称も完璧に女性になっていた。
    「ホルモン注射、始めたの。早く完璧な女性になりたくて」
    「そう。会わずにいた間に、あなたは自分を高めていたのね......でも、いいの? この時期に急に声を女性に変えてしまって」
    保育士である馨が急に男の声から女の声に変わってしまっては、幼稚園の子供たちが戸惑ってしまうに違いない。
    「声は徐々に変わって来たから、まだ子供たちも気付いていないと思うわ。でも、そんなことはどうでも良かった! 早く百合香さん好みの女になりたかったんだもの......」
    「馨......」
    百合香の心が自分から離れていくのを感じた馨は、健気にも百合香をつなぎ止めるために自分を変えたのだった。そんな馨を、百合香は可愛いと思った。
    「ごめんね、馨。あなたに辛い思いをさせたわね」
    百合香の言葉に、馨は首を振った。
    「百合香さんがミネさんのことを忘れられないのは、初めから分かってたことだもの。だからもういいの。百合香さんの一番大事な男性がミネさんなら、わたしは一番大事な女になればいいんだわ!」
    「......ありがとう。そう言う風に思ってくれるのなら、私も気が楽だわ」
    百合香の言葉に満足げに微笑み返した馨は、
    「その代わりと言ってはなんだけど」と、百合香の手を取った。「一緒に来てもらいたい所があるの」
    「え? どこへ?」
    「それは行く道で話すから、とりあえずお出掛け用の服に着替えて」
    百合香は馨に促されるままにお洒落なマタニティードレスに着替えて、外出することになった。
    馨が連れてきた所は、彼女が勤務する幼稚園だった。今日はお休みなので園児は誰もいなかったが、ここで園長先生と待ち合わせているのだと言う。
    「わたしね、園長先生に何もかも話したの。そしたら、今日は今後のことについて相談してくれるって言うから......百合香さんに立ち会ってほしいの」
    「そういうことなら、喜んで立ち会うわ」
    園長室に行き、ドアをノックすると中から返事があった。「どうぞ、入ってきて」
    二人が中に入ると、ソファーには二人の女性が座っていた。一人は50代ぐらいで、百合香にもすぐにこの人が園長先生だと分かるが、もう一人の30代前半の女性は、馨の同僚かな? と百合香は思った。
    その疑問はすぐに解けた。
    「紹介するわ」と、園長先生は言った。「私の娘の和歌子よ」
    「初めまして」と、和歌子は言った。「あなたが馨先生ね」
    「はい、初めまして」と、馨はお辞儀をした。
    「こちらの女性は?」と、園長先生が聞くと、
    「立会人として来てもらいました、宝生百合香さんです。わたしの......」
    と、馨がなんと言おうか照れていると、百合香が代わりに答えた。
    「婚約者です」
    「あらまあ!? そうなの!」と、園長先生は驚いた。「そう......あなたを受け入れてくれる人が、ちゃんといるのね」
    「それじゃ、お腹のお子さんは......」と、和歌子が聞くと、
    「いいえ、馨の子供じゃありません」と、百合香は答えた。「でも、二人で育てようと思ってます」
    「そうなの......きっと馨先生なら、立派にその子の父親にも母親にもなれると思いますよ」と、園長先生は言った。
    改めて四人はテーブルを挟んでソファーに座り、先ずは園長先生が書類を広げた。
    「先ずは、子供たちに馨先生の変化が知られてしまう前に、この園を辞めていただく必要があります。これは退職に必要な書類です」
    いきなりそんな話を聞かされて、え!? と百合香は驚いた。もう退職することを前提に話を勧められている。理不尽にも思えたが、しかし、馨は落ち着いた表情を見せている。ある程度聞かされていた話だったのだろうか?
    「そして頃合を見て......馨先生の変化が落ち着いた頃に、和歌子が経営している託児所で働き始めてください。女性として!」
    「あっ! そういう......」
    百合香にもようやく分かった。今まで男だった人が急に女になったら、誰だって驚くに決まっている。だから、幼稚園を辞めて新しい職場で女として働けるように采配してもらえたのである。
    「私のもとで、最低でも3年ほど働いていれば、今いる園児たちはみんな卒園していくわ」と、和歌子は言った。「そうしたら、またこの園に帰ってくればいいのよ。他の保育士さんたちにも事情を説明するか、それが嫌なら馨先生の親戚ってことにして、名前を変えて帰ってくればいいわ」
    「保育士の仕事が出来るなら、幼稚園でも託児所でも構いません!」と、馨は言った。「ありがとうございます、園長先生。無理なお願いを聞いてくださって」
    すると園長先生はニコッと笑った。
    「いいのよ。あなたが、あなたらしく生きていく為ですもの。私もあなたの役に立てて良かったわ」
    「私もね」と、和歌子は言った。「それで、こっちがうちで働くのに必要な書類です。日付は空けといてね。あなたの状態が落ち着いて、もう働いても大丈夫ってなったら日付を入れるから」
    「はい、分かりました」
    百合香は安心した――馨の周りには、自分たちの他にも彼女のことを理解してくれる人がいて、ちゃんと馨のことを考えてくれて動いてくれる人がいたのだった。

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