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from: エリスさん
2007年04月11日 14時09分05秒
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露ひかる紫陽花の想い出・1
猫の声がする。
猫の親子連れだった。
黒トラの父親猫が一声大きく、屋敷の中へ聞こえるように鳴くと、まだ幼い二人の姫君が、「佐音麿(さねまろ)が来たァ!」と庭へ駆け出して行った。
「これこれ、二人とも走っては駄目よ」
姫君達の母親――今上の同母妹・二品(にほん)の宮も立ち上がる、後を追いかけて行く。
ここは三条邸、源氏の大納言の家だった。
上の姫君・美倭子(みわこ)は「彩霞(さいか)の姫君」と呼ばれ、歳は六歳。肩までの髪の両端を紅色の紐で結わいて、水色の着物を着ていた。
したの姫君・利恵子(りえこ)は「荻(おぎ)の姫君」と呼ばれ、四歳だった。まだ髪も短くて、桜色の着物も少し大きいらしく、袖に手が隠れている。それでも腕まくりをしながら、子猫を抱き上げようと、階段の上から手を伸ばしていた。
「お姉ちゃま、子猫逃げちゃう」
荻が言うと、彩霞は、
「そっと近づかないとダメよ。子猫は怖がりなんだもの。私が捕まえてあげる」
と、父親猫そっくりの黒トラに、そうっと手を伸ばすと、ヒョィッと抱き上げて、荻に渡してあげた。
「かわいい。ミィミィ言ってるよ。なんて言ってるのかな」
「きっと荻に“こんにちわ”って言ってるんだよ。ねェ、佐音麿。おまえの子供だもの、礼儀正しいよね」
彩霞は父親猫の喉を撫でてあげながら言った。猫も応えるように喉をゴロゴロと鳴らしている。
子猫は五匹いた。父似の黒トラが三匹、母似の白猫が二匹である。
二品の宮は母猫の方を見ると、あら、と声をあげた。
「この母猫、去年も佐音麿と一緒になった猫だわ」
「ああ、ホントだ。去年の猫だ」
彩霞は言って「猫って、毎年同じ猫とは夫婦にならないのでしょ、母君様」
「そういうものなのだけどねェ、珍しいわね」-
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