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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2012年11月16日 11時49分28秒

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    夢のまたユメ・72

     「これで私の告白は総てです」
     真莉奈はそういうと、立ち上がり、マリア像に背を向けた。
     「ですから、爽子お嬢様……あなたと俊介坊ちゃんは兄妹ではありません。坊ちゃんは――俊介は私と慶一郎さまの間に生まれた子供なのですから」
     「でも……それでも、世間的に三条家の子供として生まれたのなら、戸籍は? 戸籍上は私と兄妹になっているのではないの?」
     爽子の疑問に、兄の俊一が答えた。
     「それは大丈夫だ。すでに俺が……俺と俊介が確認済みだ。俺たちの高校入学の時にね。俺たちは双子の兄弟とされていたのに、高校入学の時に戸籍抄本を提出しなくてはならなくなって、取り寄せたら、どこにもそんな記述はなかった。俊介は初めから真莉奈さんの私生児で、我が家に養子に入ったことになっていたよ。だから、俺たちが双子だって言うのは、本当に世間的にだけだったんだ」
     「だから言ったろ? 真莉奈」
     と、俊介は言った。「おまえが俺を好きになることに、なにも障害はないって。だから、これからも俺のことを好きでいてくれ……いや、こう言うべきかな」
     秀介は爽子の手を取ると、自分の方に抱き寄せた。
     「俺の奥さんになってくれ、爽子」
     「俊介お兄様……」
     
     百合香がそこまで書いた時だった。
     家の前で車が急停車する音が聞こえ、続けて明らかに木の枝が折れる音も聞こえてきた。
     「な、なに!?」
     百合香が部屋から飛び出すと、兄・恭一郎も二階から駆け下りてきた。
     「なんだ、今の音は!? あっ!?」
     玄関の曇りガラスの向こうから、見慣れた車が見えた。
     「父さん! 何やってんだ!」
     玄関を開けるなり、恭一郎はそう言った……父・一雄が尋常じゃないスピードで車を駐車スペースに入れたので、玄関先の紫陽花の樹にぶつかって数本折れたのである。
     「ゆ、ゆ、百合香は!」
     毎度のことながら、ここから先の一雄の台詞は、本来なら吃音であるが普通に表記することにする。
     「百合香は大丈夫なのか! 腹の子は!」
     一雄がまくし立てながら車から降りて来るので、恭一郎が言った。
     「今は父さんの方が問題だ! いつ事故を起こしてもおかしくないテンションのまま、車乗ってくるな! しかも、こんな余震ばかりの時期に!」
     実は昨夜、百合香の要望通りミネラルウォーターを手に入れようとした恭一郎が、コンビニはもちろん、自動販売機のミネラルウォーターも売り切れ状態だったため、一雄に電話をしたのである。
     「新潟なら都心よりパニックになってないだろ? そっちで水を買って、宅配便で送ってくれよ。百合香のお腹の子供のためにも」
     それを聞いた一雄は、夜中のうちに出掛ける仕度をし、早朝から水を調達して、高速道路を飛ばしてこうして昼過ぎに到着したのである。
     「ペットボトルの水も、畑の清水も汲んで持ってきたからな、百合香。腹の子は元気なのか? なんで妊娠したことをすぐに知らせてくれなかったんだ」
     「ごめんね、お父さん。私も分かったのはつい最近なのよ。大丈夫、元気よ。寿美礼おばさんに見てもらってるから」
     「そうか、寿美礼さんにか。寿美礼さんに見てもらえるなら安心だな」
     「うん(^.^)」
     「それはそうと、2箱もよく買ってこれたなァ」と、恭一郎は車から荷物を運びながら言った。「いくら田舎でも、販売制限とかあったんじゃないのか?」
     「ああ、それな。訳を話したら雄二(ゆうじ)がくれたんだ」
     雄二と言うのは、本家を継いだ一雄の弟である。
     「雄二おじさんも喜んでたぞ。これで宝生本家の血筋が残るってな。まあ、おまえはお嫁に行くんだから名前は残らんが……」
     「ああ、そのことなんだけど……」
     百合香が話そうとすると、恭一郎が遮って言った。
     「父さん、この清水って大丈夫なのか? 放射能……」
     「大丈夫だ。父さんは毎日、そこの畑の野菜を食ってこんなに元気なんだぞ」
     「いや、放射能はここ2,3日のことだから……誰も水質検査なんかしてないんだろ?」
     「心配しなくても大丈夫だよォ。新潟にまで放射能は飛んでこないから」
     「いや、現に東京に飛んできてるから……まあ、俺が飲むからいいけど」
     とにかく一雄に家の中に入ってもらって、百合香は詳しい話をした。
     「だから、私はお嫁には行かないと思うよ」
     一雄は事情を聴いて、寂しそうに肩を落としながら、
     「そうか……」
     と、目に涙を浮かべた。「おまえに、そんな辛い思いをさせることになるとはなァ……」
     「別にお父さんが悪いわけじゃないじゃない」
     「そうだが……悲しいな、お母さんのことを分かってもらえないのは」
     「仕方ないよ」と、恭一郎が言った。「普通なら関わり合いになりたくないだろう、そんな事情のある人間とは……母さんの人となりを知りもしないで」
     「おまえの時もそうだったものな、恭一郎」
     「俺の事はもういいよ……どうせ見合いだったから……しかし、ものは考えようだろ? 父さん」
     「おお、そうだな。これで、我が家に跡継ぎができたんだ」と、一雄は明るい表情になった。「丈夫な赤ちゃんを産んでくれな、百合香」
     「うん、まかせて!」
     「それに合わせて、父さんに提案があるんだが」と、恭一郎は言った。「もう、こっちに戻ってくれば?」
     「こっちにか?」
     「ああ。もう、父さんが新潟に引っ込んでる理由はなくなっただろ? 母さんはいないんだし」
     そもそも一雄が新潟に移り住んだのには、母・沙姫も連れて行って、二人だけで静かに余生を送りたい、という思いがあったからなのだが、沙姫がそれを嫌がって、結果、別居する形になってしまったのだ。
     「整体師の仕事はこっちでもできるだろ? そりゃ、向こうの人達はそれまで無医村に近かったから、父さんが戻って来てくれて助かってるだろうけどさ、こっちも事情は変わったし……百合香が仕事している間、子供の面倒を見る人が必要になるんだ。父さん、子供好きだろ?」
     「いやぁ、それがなァ……父さん、春から養蜂を始めようと思っててな」
     「ヨウホウ? なんだ、それ」
     「ミツバチだよ。ミツバチを飼って蜂蜜を取る仕事だ」
     「はあ??」
     恭一郎が驚くのも無理はない。寝耳に水な話である。
     「もう知り合いの養蜂場からミツバチを買う手付金は払ったんだ。だから、春からは本家の山を借りて養蜂場を……」
     「なにやってんだよ、父さん! 百合香が大事な時期に!」
     「そんなこと言っても……こんなことになるとは、思いもしなかったからな……整体の仕事も毎日あるわけじゃないから……」
     「仕事がないなら、それこそこっちに戻ってくれば良かっただろ! 家賃分の生活費が浮くだろうが!!」
     「まあまあ、お兄ちゃん(^_^;)」と、百合香は恭一郎をなだめた。「いいじゃない、蜂蜜。私、喉が弱いから……蜂蜜は喉に良いから、それをお父さんが作ってくれるなら、いちいち買わなくていいわ。それに、蜂蜜は栄養があるし、きっとお腹の子供にもいいと思うわ」
     「百合香ァ~、そんな生易しいものじゃ……」
     「それに、お父さんから仕事を奪うのは可哀想よ。お父さんぐらいの歳の人は、仕事をしている方がボケなくていいのよ」
     「ああ、まあ……そうだけど」
     恭一郎は、母・沙姫が死んですぐのころ、一雄が生気を失って呆けてしまっていた数日間のことを思い出した。
     「子育てなら、なんとかなるわよ。私の周りには、仕事しながら子育てしてる人、何人もいるのよ。だから、私に出来ないことはないと思うわ」
     「まあ……俺も手伝うしな」
     「そうそう。みんなで協力していきましょう。それじゃ……」
     と、百合香は立ち上がった。「お父さんの分も今日は夕飯用意しなきゃ。材料買ってくるね」
     「野菜も少し持ってきたからな、それでなんか作ってくれ」と、一雄は言った。「白菜とネギがあるぞ」
     「じゃあ、お肉とお豆腐買ってくる。お鍋にしましょ」
     
     
     

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