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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2013年02月15日 11時52分44秒

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    夢のまたユメ・77

    とりあえずナミと沢口さんは仕事場に戻され、百合香も起き上がれるようになったので、そのまま野中と、大原も立ち会いで話をすることになった。
    「それじゃ今朝言っていた相談って、退職をするってことだったのか」
    野中が言うので、百合香は頭を下げながら、
    「はい、すみません......」と、答えた。「身重で続けられる仕事じゃないもので」
    「そうよねェ、こう言ってはなんだけど」と、大原も言った。「宝生さん、あまり体が丈夫な方ではないし」
    「そうなんです」
    「それに若く見えるけど、宝生さんって、もう......」と、野中が言うと、
    「それ、失礼です」と、大原が言った。
    「あっ、ごめん......」
    「いいえ、私も自覚してますから」と、百合香は笑って言った。「実際、40歳近くなってから、自分の体が普通の人より弱いんだと思い知らされることが多くなりました。だから出産だって、それに耐えられる体力があるかどうか不安も残るんです。でも、この子はどうしても産みたいんです。宝生家の跡取りとして」
    「......えっと......あれ? 長峰君、婿養子に入るの?」
    野中の当然な疑問に、バッサリと切って捨てるように、「入りませんよ」と、百合香は答えた。
    「翔太......長峰君とは別れましたから。双方の家庭の事情で」
    「ええ!? そうなの!?」
    大原じゃなくても驚くのは当然である。
    「はい、いろいろとありまして......」
    「それは......聞いてほしくないような、深い事情?」
    「はい、海よりも深い事情です......」
    「じゃあ聞かない」と、野中は眼鏡を掛けなおした。
    「ありがとうございます」
    「そうなると」と、大原は言った。「宝生さん、シングルマザーになるのね」
    その時、ドアの向こうから"ゴトッ"という音が聞こえた......ドアがゆっくりと開き、そこに榊田が立っていた。床にペットボトルの水が転がっている。
    「宝生さんが、シングルマザー......」
    どうやら百合香に水を差しいれようとして、衝撃的な言葉に驚いて水を落とし、尚且つ思考が停止してしまったらしい。
    「レオちゃん(-_-;) ......ああもう、いいや! 大原さん、後頼んでいい? 俺があいつ連れてく」
    と、野中は立ち上がると、榊田の方へ行った。
    「そうですね。女性同士の方が話しやすい問題もあるから」
    「うん、頼む。それから、宝生さんの有給は確か20日ぐらい残ってるから」
    「分かりました」
    そして野中は榊田の首の後ろの襟をつかむと、「ほら、行くぞ」と、榊田を引きずって行くのだった。
    「ホント、レオちゃんは女性に幻想見すぎなんだから」と、大原は言った。「今時、シングルマザーなんて珍しくないのにね」
    「きっと普通の家庭で幸福に大人になったんでしょうね」
    と、百合香が言うと、
    「普通の家庭どころか、お金持ちのお坊ちゃんらしいわよ。あの車もお父さんに一括払いで買ってもらったそうだもの」
    「あのワゴン車を? ローンじゃなく?」
    「なんでもお父さんって、一流企業の顧問弁護士をやってるとか......ついで言うと、レオちゃんの従兄って作家の榊田祐佐(さかきだ ゆうすけ)なのよ」
    「ああ、ライトノベルの......」
    「つまり、ああ見えてレオちゃんは結構な優良物件なのよ」
    「当の本人は社会人としては未熟ですけどね(^_^;) そんなことより」
    「そうね、そんなことより今後の事よね」
    百合香と大原は気を取り直して相談を始めた。
    とにかく会社を辞めるにしても、辞めると宣言してから一カ月は社に残って、業務の引き継ぎをしなければならない、というのが労働基準法で定められている。しかし百合香の場合、一カ月も勤務していられるような状況ではない。
    「そこで出て来るのが有給よね......あとでちゃんと調べるけど、宝生さんの有給があと20日残っているのなら、それを全部使えば、あとは10日ぐらい出勤すればいいのよ」
    「10日ぐらいなら、なんとか働けます」
    「そうしてくれる? でも、悪阻とかきつくなったら言ってね。早退とかできるようにするから」
    「ありがとうございます」
    「出産後はどうする? ファンタジアに戻って来る? 沢口さんみたいに」
    「それなんですよねェ......」
    沢口さんには同居しているお姑さんがいて、この人がかなり理解のある人なので、沢口さんが働いている間は子供たちの面倒を見てもらっている。しかし百合香の場合は、実の母はすでに他界しているし、姑がいるわけでもない。出産が済んでも、乳離れするまではもちろん働きに出られないし、いろいろと考えると子供が保育園か幼稚園に預けられる年齢になるまでは、百合香が職場復帰するのは無理である。
    「まあ、復帰するかは、またその頃考えます」
    「そうね......じゃあ、次の出勤の時に正式な手続きをしましょう」

    百合香の勤務が来週いっぱいと決まり、フロアスタッフの間で衝撃が走った。
    一番ショックだったのが、百合香が翔太と結婚しない、ということだった。
    「ミネに責任取らせなさいよ!」
    と、怒ったのは、ぐっさんだった。「両親の反対とか、生ぬるい事言ってんじゃないよ!!」
    「駆け落ちするとか考えなかったの?」と、かよさんが言うので、
    「そうゆう無茶なことが出来る年齢は過ぎましたよ。それより、無事にこの子が生まれてくれることを考えて......実は翔太にも子供が出来たことは話してません」
    「なんで!?」と、ぐっさんがまだ怒りが収まらない様子だったので、沢口さんが、「はいはい、落ち着いて」と、背中を撫でるのだった。
    ちなみにここは和風喫茶である。毎度おなじみ仕事後のお茶会だった。
    「とにかく宝生さんは、子供のために最良の選択をしたのでしょう? だったら応援してあげようよ。宝生さん、もうベビーベッドは買った?」
    「あっ、それなら幼馴染が......」
    近所に住む幼馴染の荒岩静香と福田千歳にも、百合香が妊娠しているにもかかわらず翔太と別れたことは知られてしまった。先ず、玄関先で恭一郎が翔太を追い出しているところを静香が目撃してしまったのと、百合香が母子手帳を持っている人しか買えないお水を買っているのを千歳に見つかってしまったので、二人から、
    「どうゆうことなのか説明しなさい!」
    と、詰め寄られてしまったのである。
    この二人は百合香の母・沙姫の葬儀の騒動の時も居たので、すべて説明したのだった。すると、
    「じゃあ、うちのベビーベッド上げるよ。もう使わないから」
    と、静香が言ってくれ、千歳も、
    「ベビー服縫ってあげるよ。私、そうゆうの得意なの」
    と、言ってくれたのである。
    「だからベッドと服は心配ないんだ」
    するとぐっさんは、
    「ええ~私も何かしたい! 欲しい物、なにかない?」
    と言うので、
    「そうねェ。ストロベリーパニックのDVDが欲しいかな」
    「そうゆうんじゃなくて! って、それなに?」
    「私も最近存在を知った、百合系のアニメなの」
    「妊娠中にそんなの見ちゃ駄目ッ」と、かよさんは言った。「生まれてくる子まで、あなたと同じ同性愛者になったら、どうするの!」
    「え? 何も問題ないでしょ?」
    「いや、無くは......無いのかなァ?」
    胎教以前に、百合香の子供なら性別どころか人類かどうかも問題なく恋愛する、そんな子供が生まれそうだった。

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