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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2013年02月15日 12時14分46秒

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    ようこそ! BFWへ・1

    北上郁子(きたがみ あやこ)はいつも通り薙刀の稽古をしていた。
    「乾殿(いぬいどの)」と呼ばれる郁子の屋敷には剣術を稽古するための道場も、ピアノ専用の部屋も備わっている。この世界を統治している《御祖の君(みおやのきみ)》からご寵愛をいただく町長(まちおさ)の一人ともなれば、それなりの暮らしは約束されていた。だからと言って驕り高ぶらないのが郁子の良いところであった。
    そんな郁子の所に、慌ただしく廊下を走ってやって来た者がいた。
    「町長(まちおさ)! 阿修羅王(アスーラ)様!」
    阿修羅王というのは、郁子が物語の中で名乗っている二つ名である。「芸術学院シリーズ」の登場人物・北上郁子は、学生時代に文学の勉強をしながら、大梵天道場というところで武術を習い、師範代の一人である阿修羅王を襲名している――という設定である。
    『私をこの名で呼ぶということは......』
    郁子は薙刀を振り下ろすと、右手に持って待っていた。
    慌ただしい人物は、道場のドアを開くと言った。
    「町長! 大変でございます!」
    入ってきたのは、大梵天道場で郁子の後輩にあたり、師範代の一人・夜叉王(ヤクサー)を襲名している神原晶(かみはら あきら)だった。
    「何事です、神原。騒々しい」
    「みおやが! 《御祖の君》がお籠りになられてしまわれたと、今、居城でご奉公中の今井殿より知らせが!」
    「御祖が?」
    御祖が籠る――どこか具合が悪くて私室から出て来ないのか、それとも何か精神にダメージを受けて、心を閉ざしてしまったのか。
    『御母君が亡くなられたときは、三日ぐらい放心状態だったけど......まさか』
    郁子は薙刀を目の前に翳して、両手に持った――右手は逆手で。
    「散(さん)!」
    郁子が薙刀に言霊をかけると、薙刀は阿修羅神が彫られた中央から真っ二つに割れた。そして、両手に分かれた薙刀をぶつけ合わせて、くの字に曲げ、スカートの下に隠しているホルダーに、右手のを左足に、左手のを右足にはめ込んだ。
    「参ります......」
    郁子は神原を連れて通信室へと向かった。そこにはすでに、夫の高木祥(たかぎ しょう。この世界では夫婦別姓が多い)と、秘書官の梶浦瑛彦(かじうら あきひこ)がいた。
    「待たせたわね、ショオ。梶浦」
    「僕は待っていないよ。それより、洋子君が」
    「アヤ先輩!」
    通信機のモニターから、今井洋子(いまい ひろこ)が呼んでいた。
    「大変なんですゥ! 御祖が引き籠ってしまって、全然反応がないんです!」
    「具合がお悪いの?」と郁子は聞いた。「それとも......」
    「病気とかではないみたいです。窓から覗いてみたら、ただ部屋の中でお座りになってるだけで」
    「あえて言うなら、心の病ね、きっと......そうなると......」
    《御祖の君》が重病などで執筆活動が出来なくなると、この世界の住民の中で、現在執筆中の作品の登場人物たちに影響が出ることがある。
    「どこか影響が出てる町はない?」
    「あります! 〈神々の御座シリーズ・人間界の町〉は、通信に障害電波が出ていて、ほとんど会話ができません。〈雪原の桜花の町〉は完全に通信が途絶えています」
    「障害電波ではなく、完全に途絶えているの?」
    「はい、完全に無反応です」
    「すぐに〈雪原の桜花の町〉に誰か向かわせて! 住民たちが危ないわ。〈神々~〉は大丈夫でしょう。......私もそちらに行きます」
    「お願いします! お待ちしてます」
    郁子は通信を切ると、祥に言った。
    「あなた、また一緒に舞ってくれる?」
    すると祥は郁子の両手を取った。
    「君と舞えるのなら、どんな時でも大歓迎だよ。でもその前に、君はその汗を落とした方がいいんじゃないかな?」
    薙刀の稽古をしていたので、体中に汗が噴き出していた。だが、
    「時間がないわ。シャワーなんて浴びてる暇はないの」
    「そう」と、祥は言って、神原の方を向いた。「お湯で濡らしたタオルを持ってきてくれ、部屋まで」
    「かしこまりました」
    神原は答えると、すぐに通信室を出て行った。

    この世界――Bellers Formation Worldは、御祖の君と呼ばれる淮莉須 部琉が作り上げた想像と創造の世界である。この世界で起こるすべての事象は、御祖の意志と夢が影響していた。
    その御祖が心を閉ざして引き籠り、その結果、一つの町が消えようとしていた。

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