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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2013年02月15日 12時49分02秒

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    ようこそ!BFWへ・5

    Junoのライブの甲斐もあり、朝井洋伸も目を覚ました。しかし、持田沙雪はまだ呼吸を止めたままだった。
    CDアルバム一枚分――全12曲、ノンストップでの演奏を終えて、真理子はタオルで汗を拭きながらドラムセットから離れた。
    サックス奏者である真理子の夫・三原孝司(みはら たかし。東の街の女王伴侶)も肩で息をし、他のメンバーたちも貧血寸前だった。
    「皆様、お疲れ様でした!」
    今井洋子たち居城付きの侍女が、Junoメンバーにスポーツドリンクを持ってきた。真理子には親友の莉菜が、女王自ら持ってきた。
    「お疲れ様、マリコ」
    「お疲れ様って言えるのかしら......」
    まだ肝心の町長・持田沙雪が目覚めていないと言うのに。
    「一人目覚めただけでも、功労ものよ。恐らく彼は、御祖が籠られた原因の一端を担っていたはずだわ。本来ならそのまま消滅していたはず」
    「そうね......御祖がそれを望んでいれば」
    舞台の下の客席では、朝井洋伸と庚結花が持田沙雪の手を取って、祈っていた。
    「沙雪さんが目を覚ましてくれれば、私はどうなってもいいの。沙雪さんの代わりに私が死んでも、後悔しない」
    「僕だって。サユさえ目覚めてくれたら、僕はどんな目にあってもいいから......」
    「だから、お願い。沙雪さん......」
    「目を覚ましてよ、サユ!」
    その様子を舞台上から見ていた真理子は、莉菜に言った。
    「両手に花ね、彼女」
    「若いっていいわね」
    北上郁子が片桐枝実子を連れて現れたのは、ちょうどそんな時だった。
    「ただいま戻りました、女王様がた」
    郁子がそう言ってお辞儀をすると、郁が歩み寄ってきて、妹の肩に手を置いた。
    「お役目ご苦労様、アヤ。疲れたのではない?」
    「いいえ、姉さま。大丈夫です。それより、お連れしました」
    郁子はそう言って、枝実子の方に手を向けた。
    すると枝実子は一歩前へ出て、五大女王に恭しくお辞儀をした。
    「ご無沙汰を致しております、女王様がた。お召しにより参じました」
    なので真理子は舞台上から言った。
    「ご足労様です、片桐殿。さっそく、御祖の君の説得にあたってもらえますか」
    「承知しました、東の街さま。ですが、その前に......」
    枝実子は持田沙雪の方へ行った――彼女の顔を覗き込み、その頬に触れてみる。
    「......急がなければ......」
    「え?」と朝井洋伸が聞いた。「急ぐって......」
    「かなり危険ってことよ」と枝実子は言うと、郁子の方を向いた。
    「アヤさん! ピアノの伴奏をお願い」
    「あっ、はい! 曲は?」
    「メンデルスゾーンの"歌の翼に"を。それから、アヤさん以外の皆さんは、目をつぶっていてくれませんか」
    「オイ! ちょっと待て!」
    そう怒ったのは建だった。「あんた、ただの小説家だろう。それなのに、Junoの演奏やアヤ姉ちゃんの日舞でも目覚めなかった持田を、まさか何とかしようって思ってるんじゃないだろうな!」
    「もちろんよ。時間がないわ」
    「出来るわけねぇだろ! しかもなんだ? 目をつぶれってのは!」
    すると郁が建の腕をつかんだ。「やめなさい!」
    「だって、カール姉さん!」
    「いいから控えなさい!」と郁は言ってから、枝実子に頭を下げた。「すみません。妹は知らないんです。あなたが......」
    その先が言えない郁に、枝実子は微笑んで見せた。
    「北の街さまは妹御(いもうとご)に恵まれていますね、アヤさんといい......お願いです、急がせてください」
    「みんな!」と言ったのは真理子だった。「向こうに寄って、壁の方を向いて目をつぶりなさい」
    そう言いながら真理子も莉菜と一緒に舞台から降りてくる。代わりに枝実子が舞台に上がった。
    客席の下手側に皆が固まって、壁の方へ向いたのを確認した郁子は、枝実子に言った。「私は目をつぶらなくていいんですか?」
    「目をつぶってピアノが弾けるなら、そうしてくれても構わないけど?――いいのよ、あなたは私の一族の一人だから許すわ」
    「では、ちゃんと目を開けて伴奏します」
    郁子は舞台袖に置かれているピアノの方へ行くと、伴奏を弾き始めた。その途端、枝実子が紫色の光に包まれて変身し始めた。黒いキトンを着た、長い黒髪の、長身の女神に。
    女神が歌い始めた。
    「 コバルト色した 広い空映す
    海を眺めれば 神の御座で
    暁の女神は薔薇を翳(かざ)して
    月の女神は竪琴鳴らし
    王の嫡妻(むかひめ)は思い出歌う     」
    その歌声を聞いた恵莉は、目をつぶったまま呟いた。「す、凄い......」
    「エリーよりうまいね、流石に」と有佐が言うと、
    「うまいのは認めますけど」と建は言った。「あの人、何者なんですか? 五大女王を差し置いてッ」
    「言うなれば、御祖の理想の姿よ」と郁が答えた。
    「理想?」
    「そう。小説家として成功し、仲間に恵まれ――囲まれて、そして愛する者と共に生きる。そうゆう人生を御祖が夢見たことで生まれたキャラクターなの」
    「ただし、すべてにおいて理想的では小説にならない」と真理子が言った。「だから過酷な運命も背負わされた。人間でいる間は生涯純潔――処女を守らなければならない。前世の姿の時は、最愛の者とだけは添い遂げられない――そうゆう運命を背負うことで、このBellers Formation Worldで一番尊い存在でいられるのよ。私たち五大女王よりもね」
    「そんな......」
    建が言いかけた時だった。
    誰かが咳き込む声が聞こえた――その声のする方を、咄嗟に目を開いて振り向いた建は、見てしまった――咳き込む持田沙雪の前に立つ、紫の光に覆われた女神を。
    女神の方も建に気付いた。だが女神は、柔らかく微笑むと、元の片桐枝実子の姿に戻った――紫の光も消えてしまう。
    枝実子は郁子に手を挙げて見せて、伴奏を止めさせた。
    「皆様! もう大丈夫です、目を開けてください」
    枝実子の言葉で皆が目を開け、持田沙雪が息を吹き返したことに気付いた。
    「サユ!」
    「沙雪さん!」
    洋伸と結花が真っ先に駆け戻ってくる。五大女王と芸術の町の住民も戻ってくると、まだ持田沙雪が血の気の無い顔をしているのに気が付いた。
    「長時間、仮死状態だったのです」と枝実子は言った。「息を吹き返させるのがやっとでした。あともう少し、芸術魂(アーティストパワー)を注がなくては」
    「それなら私たちに任せて」と恵莉が言った。「ちょうどステージの準備をしていたの。カール、他のみんなも準備できてるでしょ?」
    「ええ、もちろん」と郁は言った。「みんな、配置について! すぐに始めるわよ!......どうしたの? タケル」
    郁は、タケルが表情を強張らせているのに気付いた。――建は枝実子の正体を見てしまったので、咎められるのではないかと緊張していたのである。それに気付いた郁子は、妹の方へ行って肩をポンポンッと叩いてあげた。
    「心配しないで、私がなんとかするわ」
    「姉ちゃん......」
    建がまだちょっと怖がっていたので、飛び切りの笑顔を見せて安心させた。
    「それじゃ、アヤさん」と枝実子は言った。「私たちは御祖のところへ」
    「え? 私もですか?」
    「あなた以外に私のサポート役がいる?」
    「分かりました、ご一緒します」

    御祖の君の部屋は、居城の最上階にあった。
    その扉にもセキュリティーが付いていた。パソコンのキーボードと同じ配列の文字盤である。
    枝実子はパスワードを入力した。
    〔olympos-01-eris-emiko-katagiri-emily-arashiga〕
    そのパスワードの長さに、郁子は感嘆した。
    「名前がいっぱいあると大変ですね」
    「本名と、人間での名と、ペンネーム(嵐賀エミリー)ね」
    「あっ!? 前世での名が本名になるんですね」
    「そうよ。この姿は仮の姿なんですもの」
    そうこうしているうちに、扉が開錠されて、右側に(引き戸が)開いていった。
    二人が中に入ると、中はほとんど何もない広い部屋で、窓際に白いシーツだけが広がっていた。その上に、一人の人物が倒れていた。
    腰に届きそうな長い黒髪、ふくよかで白い肌に、薄い白い着物だけを着ていた。
    「やれやれ......」と枝実子は言った。「以前お邪魔した時は、この部屋は楽しそうなもので一杯だったのに、この虚無感広がる部屋の状況は、まさに御祖の君の心を具現化したものですか」
    口調が女神エリスの時のそれになっている......と郁子が気付いた時には、枝実子はもう女神エリスに変身していた。
    「ご無沙汰をしております、私と同じ名を持つ、我らが御祖の君......」
    エリスは倒れている人物を抱き起した。その人物こそ、Bellers
    Formation Worldの生みの親、御祖の君こと淮莉須 部琉であった。

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