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from: エリスさん
2013年03月21日 17時07分16秒
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夢のまたユメ・79
上映が終わって、百合香は3Dメガネを外した。だが、隣に座っている紗智子はまだ呆けているようだったので、百合香がそうっとメガネを外してあげた。
「大丈夫? 疲れちゃった?」
「......百合香さん。ううん、感動しすぎて動けなくなってた」
「無理ないわ。映像も綺麗だったものね」
「そうなの! あの、ランタンが空を舞うところなんか......目の前でランタンが浮いていたでしょ?」
「3Dならではよね」
「見に来てよかったわ。ありがとう、百合香さん!」
「どういたしまして。さっ、帰りましょ。私たちが最後になってしまったわ」
見れば、周りには誰も居なくて、シアターの出口につながるスロープのところでメガネを回収するスタッフが待っていた。
「リリィさ~ん、早く降りてきてェ~」
シマだった。
「ハイハイ。メガネは私が(回収)ボックスに入れるから、掃除始めていいわよ」
「リョ~カイしましたァ!」
シマはおどけて答えながら、脇に置いていた箒とちりとりを持って、シアター後方から掃除を始めた。
百合香は紗智子からメガネを受け取ると、さっきまでシマがいたところに置いてある回収ボックスにそれを入れた。
二人はシアターを出ると、ゆっくりとポスターや展示物を見ながら歩いた。すぐには別れたくない、そんな気持ちからだった。
だが、入退場口まで来るとそんな穏やかな空気が一気に緊張した――ぐっさんが待っていたからである。
「あ、あれ? ぐっさん」と、百合香は誤魔化すように言った。「ぐっさんも何か映画見てたの? 奇遇だね」
「ごめん、奇遇じゃない」
と、ぐっさんは言うと紗智子の方を見た。
「あなたにお話が合って、待ってました」
「......なんでしょうか」
紗智子もぐっさんが怒っていることを察して、緊張した。
「ここじゃ他のお客さんに迷惑がかかるんで、少し離れましょう」
ぐっさんが先に立って歩き出したので、二人も付いて行くしかなかった。
ぐっさんは二人をファンタジアからも他の店舗からも離れた広いところに連れて行った。
「あなた、リリィがミネ――弟さんと別れたことは、当然知ってますよね」
「......ええ。知っているわ」
紗智子は目を伏せがちに答えた。
「家族が二人の交際を反対したからだって聞いてますけど?」
「ちょっと、ぐっさん!」と、百合香は割って入った。「紗智子さんは何も悪くないから!」
「悪くなくても! リリィがミネと別れさせられたのに、自分はまだリリィと仲がいいつもりでいるって、どうゆう神経よ! 普通は会いに来ないでしょ!」
「今日会ったのは偶然なの。偶然会って、同じ映画を見るって分かったから、私が無理に誘ったのよ。本当は、紗智子さんだって私に会わないようにしようとしてて......」
「だったらファンタジアに来なきゃいいじゃん! 他にも映画館はあるんだから! そうでしょ?」
「わざわざ遠くの映画館に行けって言うの? 私に会わないようにするために? 私はそんな気を使ってほしくないわ」
「もう! リリィがそんなだから!」
いつのまにか百合香とぐっさんの口論になってしまったが、そこで紗智子が「そうです!」と割って入った。
「あなたの言う通りです......私、百合香さんに会いたかったんです」
「紗智子さん......」
「ここに来れば、百合香さんに会えるかもしれないから......だから......」
紗智子が泣きそうになってしまったので、百合香は紗智子の両手を握った。
「いいのよ。私もあなたに会いたかったんだから。そういう風に思っていてくれて嬉しいわ」
「百合香さん......」
紗智子をなだめた百合香は、ぐっさんの方に向き直って、言った。
「ごめんね、ぐっさん。あなたが私を心配してくれているのは分かるわ。でも私、こんなことで――男の事で友人を失いたくないの」
すると、ぐっさんは深いため息をついた。
「そうだよね。リリィは男より女の友情を大事にする人だよね。そういうところ、尊敬するけどさ......じゃあ、最後に言わせて」
ぐっさんは紗智子の方を見ると、言った。
「リリィのお腹の中にミネの子供がいることは知ってますか?」
「え!?」
紗智子は驚くと、百合香の顔を見た。
百合香は困った顔をしていた――出来ればまだ内緒にしていたかったのに。
「本当なの?」
という紗智子の問いに、「うん......」とだけ百合香は答えた。
「そういうことなんで」と、ぐっさんは言った。「そのことを踏まえた上で、もう一度ミネとのことを考えてあげてください。リリィの友人としてお願いします」
ぐっさんは頭を下げると、その場を後にした。
残された二人はしばらく佇んでいたが、いつまでもそうしていられないので、
「行こうか......」と、百合香が言って、紗智子の手を引いて歩き出した。
二人はそのまま外へ出て、近くの公園へ行った。
「ここなら邪魔は入らないでしょう。見晴らし良くできてるから(あまり樹がない)変な人も来ないし」
百合香はそう言うと、ベンチに座った。
「百合香さん......子供って......」
紗智子も隣に座りながら言った。「何カ月なの?」
「もうすぐ三カ月かな......この間、初めて悪阻を経験したわ。まだ軽い方なんだけど、これからひどくなるらしいわ」
「だったら破談の話が出た頃には、もう妊娠に気付いていたんじゃないの?どうしてそのこと、私たちに――父と祖父に話さなかったの? そうすれば、いくらなんでも子供のことを無視して二人の仲を裂こうなんてしなかったわ」
「子供を武器にしたくなかったのよ。分かるでしょ? そんな無理に結婚したところで、幸せになんてなれないわ。それより、私はこの子を宝生家の跡取りにすることを選んだのよ。うちは鎌倉時代から続く旧家の血筋なのに、本家にも子供が産まれなくて、このままでは宝生家の嫡流が絶えてしまうから」
「本当に? 本当にそれが理由?」
「そうよ。他に何があるって言うの?」
「あなたの自己犠牲ではないの? 自分さえ身を引けば――っていう」
正直そういう気持ちもあるが、百合香は微笑みでそれを否定した。
「本当に宝生家の血筋を保つためよ。だから、あなたもご家族には内緒にしていてね。私の子供が取り上げられないように」
「......分かったわ」
「ありがとう。じゃあ、今度は私たちの話をしましょう......会えるかもしれないって、思ってくれていたのよね」
百合香に言われて、紗智子は黙ってうなずいた。
「私ね......友達はそれなりに多い方だと思うんだけど、それでも、百合香さんほど好きになれた人は初めてなの。だから、このまま会えなくなってしまうのが寂しくて。......変よね、まるで恋してるみたい......」
「別に変なことじゃないんじゃない?」
百合香にしてみれば、女同士で恋を語る「百合」など当たり前の世界だった。だが紗智子は今までそういう経験がないのだろう。
「私も紗智子さんのこと大好きよ。あなただけじゃなく真珠美さんも。だから、翔太と結婚してあなた方と家族になれるのが嬉しかった――儚い夢で終わったけど」
「百合香さん......」
「ねえ、だったら私たち"スール"にならない?」
「スール?」
「姉妹という意味よ。知らない?」
「あっ、マリみて(マリア様がみてる)の?」
「そう。私たち、ただの友達になるよりスールになった方がしっくりくると思うわ。どっちが姉だか妹だか分からないけど」
百合香は紗智子の手を取って立たせ、向かい合い、改めて両手を握り合わせた。
「ここで誓いましょう。私たちは、これからどんなことがあっても強い絆で結ばれたスールよ」
「ありがとう、百合香さん......誓うわ。私は今日からあなたのスールよ」
二人は互いに左頬を触れ合わせた。そして先ず百合香が紗智子の頬にキスをして、紗智子もそれに倣った。
それが二人がスールになった儀式だった。-
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