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from: エリスさん
2013年05月10日 11時07分26秒
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夢のまたユメ・80
翌日。
ファンタジアの面々は百合香の送別会のために、いつもの飲み屋に集まっていた。
そこで百合香が悪阻のせいで中座してしまったので、カヨさんこと門倉香世子は男子に一喝した。
「あんた達! 今日は喫煙禁止!」
当然の如く男子たちから不平の声が上がったので、ナミこと池波優典も言った。
「ええ~じゃないよ! 俺だって今日は煙草我慢してるんだから。妊娠してる人がいるんだから当たり前のマナーだろ!」
それでようやく男子たちも納得して、ぐっさんこと山口冴美が障子を全開し、部屋の空気を完全に入れ替えた頃、沢口さんに連れられて百合香が戻ってきた。
「ああ~、ごめんね? もう大丈夫だから」
百合香は努めて明るく振る舞ったが、顔が青白くなっているのは誤魔化せなかった。
しかし沢口さんは慣れたもので、
「大丈夫よ、冷たい物でも飲んで喉をすっきりさせれば」
と、すぐに店員にアイス烏龍茶を持ってこさせた。
「それで、どこまで話したっけ?」
と、百合香は烏龍茶を飲んでから言った。
「あんたと紗智子さんがスールになったところまで」
と、ぐっさんが言うと、ナミが突っ込んだ。「なんなんです? その百合的展開は」
「私らしいでしょ?」
「らしいですけど (^_^;) 」
「普通の人には理解できないよ」と、ユノンこと田野倉由乃も言った。「私は分かるけどね、ユリアスの小説読んでるから」
「とにかく、紗智子さんとはこれからも、ミネとは関係なく仲良くしていきたいってことなんだね」と、ぐっさんは言った。「しょうがないなァ、もう......」
「ごめんね、ぐっさん。心配させちゃって」
と、百合香が言うと、ぐっさんはため息を付きつつも笑った。「まあ、そこがリリィの良いところだからさ」
「ありがとう。ぐっさんなら分かってくれると思ってたわ」
百合香がそう言うと、嬉しかったのか、ぐっさんは照れ笑いをした。
マツジュンこと松本純一が、後藤結奈(ごとう ゆいな)を連れて入って来たのは、そんな時だった。
「どうも、遅れました」
「あっ、後藤さん!」
後藤は右足にギブスを巻いて、松葉づえを突いていたのだった。
「本当に大丈夫なの!? こんな怪我してる時にここに来て!」
百合香が言うと、後藤は「大丈夫でェ~す\(^o^)/」と笑って答えた。
「どうしても行きたいって、聞かないんですよ」と、マツジュンが代わりに答えた。「リリィさんに会いたいからって」
「私だったら、いつでもファンタジアに遊びに来るのに......」
後藤が怪我をしたのは今日の勤務中だった。
とある3D作品で、上映終了時に3Dメガネの回収を担当していたのだが、その際、メガネを持たずに退場してきた男性客がいたので声を掛けた。
するとその男性客は、
「俺、本当はこのシアターじゃないんだよ。隣の7番シアターで映画見てて、この後の仕事の約束まで一時間以上あるから、それまでここで時間を潰してたんだ。だからメガネは借りてないよ。ホラ、荷物を調べてもいいよ」
と、悪びれもせず自分のバッグを開いて見せた。
3Dメガネを初めから持っていなかったことは分かったが、次の問題が沸き起こった。客が持っていたチケットは確かに隣の7番シアターの物で、今から1時間も前に上映が終了している。その後、この8番シアターで1時間も映画を「無銭鑑賞」していたことになるのだ。
後藤はそのことを確認する為に、
「チケットはこの一枚だけですか? こちらの上映回のチケットはお持ちではないんですか?」
と、尋ねた。すると客はまだ自分がやっことを理解しておらず、
「ないよ。たまたま時間が余ったから、ここで時間潰してただけだし。ホラ、本当に3Dメガネ入ってないだろ? な?」
「恐れ入ります、お客様。メガネのことはもう結構ですが、二つ目の映画のチケットをお持ちでないというのは、こちらとしては困ります」
「ハァ? 何言ってんの?」
「詳しい話は劇場責任者からご説明いたしますので、少々お待ちいただけますか」
後藤は先ず、自分の代わりに8番シアターのメガネ回収ができるスタッフを呼んでから、シーバーで野中マネージャーを呼んだ。
「二つ作品をご覧になっているのですが、一回分のチケットしかお持ちでないお客様がいらっしゃるので、対応お願いします」
後藤がシーバーで喋っている間に、少しは理解できたのだろう、「冗談だろ? 俺は時間が余ったからいただけで......」と、ぶつぶつ言いながらその客は立ち去ろうとした。
「待ってください。今、責任者が参りますので......」
後藤は客を追いかけて、追いついたところで前に立った。すると、
「うるせェよ! メガネは借りてないって言ってるだろ!」
と、客は後藤を突き飛ばした。その場所が、ちょうど宣伝用に置かれているテレビとDVDプレーヤーのところだった。後藤はテレビにぶつかり、ラックごとテレビとDVDプレーヤーが倒れた。そして後藤も転んでしまい、その足の上にDVDプレーヤーが落ちたのである。
男性客は逃走したが、防犯カメラから事の顛末を見ていた支配人が警備員を呼び、SARIOの出入り口で取り押さえられた。
男は、途中から見たとは言え、二作品目の料金を払っていないことによる「詐欺罪」と、倒れて故障してしまったテレビとDVDプレーヤーの「器物破損」、そして後藤に対する「傷害罪」で警察に逮捕された。
「それで、後藤さんの怪我の具合は?」
と、カヨさんが聞くと、後藤は焼き鳥を食べながら、
「脛にひびが入っただけです」と、明るく答えた。
「それ、全然"だけ"じゃないから。大ごとだから!!」
百合香は恐れおののきながら、そう言った。
なので、ぐっさんも後藤のために小皿にサラダを取ってあげながら、
「本当に休んでた方が良かったんじゃないの? ご両親、良く外出させてくれたね」
「ご両親だってすっごく心配してましたよ」と、マツジュンが言った。「それでも、結奈が聞かないんですよ。絶対に行くって! だから......俺が家まで送るってことで、ご両親にお願いされました」
「エヘッ (^o^) ジュン君、うちの両親に受けがいいもんで」
「ノロケる元気があるんなら大丈夫そうね」と、カヨさんは半ばあきれるのだった。
「でも、私で良かったですよ」と、後藤はぐっさんから受け取ったサラダを食べながら言った。「これが一日早くて、リリィさんがメガネ回収してたら......って思ったら、そっちのが怖かったです」
「あっ、そうだよ!」と、ユノンも言った。「ユリアスだったら、確実に流産してた!」
なので皆も「ああ~」と納得した。
「みんな、納得しないで (^_^;) 誰であろうが怪我人が出てるんだから、大変なことなのよ! 本当に、私がその場に居たらその客――いや、男の首をひねり潰してあげるところよ」
「だから、そうゆう危険なことをしないでください (^_^;)」と、ナミが言った。「確かに腹が立ちますけどね。"時間が余ったから、見てた"って、それはそっちの都合であって、こっちには関係ないですよ。どんな理由があれタダ見はタダ見なんだから」
「常識がないのは確かよね」と、カヨさんは言った。「だからしっかり罰は受けてるよ。タダ見さえしてなければ警察にも捕まらないし、その後の仕事にも間に合っただろうし......なんか、その後の仕事って商談だったらしいよ」
「それ、間違いなく商談相手を怒らせてダメになってますね」と、ユノンは言った。
「いやァもう、いい気味ですよ!」と、後藤は言って、「ユノンさん、そこの焼きナス取って!」
「もう全部あげるよ、食べな」
と、ユノンは大皿ごと後藤に渡した。
それでこの話は終わりとなり、いつの間にか話は百合香の今後のことになった。
「子供産まれるまでは仕事休むとして、産まれてからも仕事できるの?」
カヨさんの疑問は当然のものだった。
「そうなんでよ......兄が、生活費の心配はするなって言うんですけど、正直......兄の稼ぎだけで生活できるぐらいなら、そもそも私が今まで働いていなかったわけで」-
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