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from: エリスさん
2013年05月24日 14時01分29秒
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夢のまたユメ・81
「それじゃどうするの?」
ぐっさんが言うので、う~ん、と百合香は悩んでから言った。
「実は在宅で出来る仕事を探してるんだけど......私、マスコミ校正の免状を持ってるのよ」
「マスコミ校正って?」
と、後藤が聞くと、
「雑誌とかで通信教育の広告見た事ない? そこで紹介されてるよ」
と、ユノンが代わりに答えた。
「ええ? 気にしたことないなァ」
「通信教育は学生さんには馴染みがないかもね」と、百合香は言った。「転職するにも免許があった方が有利でしょ? だから今はいろんな資格が通信教育で学べるんだけど、私も印刷会社にいる間にそのマスコミ校正の免状を取ってるの――正確に言うと、通信教育を終えましたって言う課程修了証ね」
「ヘェ~! それで、そのマスコミ校正ってなんです?」
と、さらに後藤が聞くので、
「印刷物にミスがないか確認する仕事よ。誤字脱字とか、色合いとか。実際に私、印刷会社に居た頃は印刷現場の校正士だったのよ」
「ああ、なんかそんなような話、聞いたことあるかも」
「でもリリィ、そうゆう仕事って在宅で出来るものなの?」
カヨさんが聞くので、
「出来ますよ」と、ナミが代わりに答えた。「俺が持ち込みに行ってる出版社でも、在宅バイトの人が原稿と印刷物を持って帰って、赤字を付けて返しに来てるの見た事あります」
「そうね、私もそうゆうのを探してるの」と、百合香は言った。「週刊誌とか、作業期間が短い印刷物を扱っている出版社や印刷会社は駄目だろうけど、月刊誌とか季刊誌とか、作業期間も長くて出版物も厚みがあるような物を扱っているところなら、在宅校正士を雇っている率は高いのよね......ただ......」
「ただ、なに?」
と、ユノンが聞くと、
「ハローワークですでに何社か当たってみたんだけど......すべて断られたのよ」
「それって、リリィが身重だから?」
と、ぐっさんが聞くと、百合香は手を振りながら「違う違う(^_^;)」と答えた。
「前に勤めていた会社よ。朝日奈印刷――12年も勤務していたのに、突然辞めた理由を、当然詮索されるわけ」
「セクハラされたからでしょ?」
「そんなことハッキリ言えないんだって。転職する際に、前の会社の悪口なんか言ったら、印象悪くなるよ」
「事実でも?」
「事実でも! まあ、今回の場合はまだそこまで......面接に辿り着く前に書類審査で落とされてるんだけどね」
「え!? なんで!?」
と、ぐっさんもユノンもナミもそれぞれに言った。
「なんでユリアスの職歴で、書類審査で落とされるの?」
と、ユノンが言うと、
「もしかして......」と、マツジュンが言った。「前の会社が手を回してる、とか?」
「そこまではしてないと思うけど、似たようなことかもね」
「どうゆうこと?」と、カヨさんが聞くと、
「朝日奈を辞める時、上司に言われたのよ。転職する際、印刷会社は横のつながりがあるから、同じ業界じゃ生きていけないかもしれないぞって。それが実際に起きてしまったってことよ。多分、私の履歴書を見た人事部の人が、朝日奈に12年も居たのに、結婚退職でもないのにいきなり辞めたことについて、先ず朝日奈に問い合わせたんだと思うわ。そうすると、朝日奈は事実を喋るわけにはいかないから、言葉を濁して私のことを話すはずなのよ」
「リリィを悪く言ってるってこと!?」
と、ぐっさんの顔に怒りの表情が浮かぶ。
「悪く言うつもりはなくても、聞いた相手がそう受け取ってしまう内容しか話せないと思うのよ。例えば、セクハラって言葉の代わりに"男性社員との間に軋轢がありまして......"なんて答えてたら、聞いた人は"上司と不倫でもして、それがバレて辞めさせられた"って解釈するかもしれないでしょ」
「なに? その理不尽!」
「もし仮に、正直に"セクハラ被害を受けて"って答えたとしても、聞いた人は"男性社員からのちょっとしたスキンシップも、過剰反応して受け取るヒステリー女かもしれない"って解釈するかもしれないし」
「だから何なの! そのふざけた話は!?」
完全にぐっさんが怒ってしまったので、百合香はぐっさんの口の中にデザートに付いていたサクランボを入れた。
「落ち着いて。すべて仮定の話だから」
「でも実際、会社からは断られ続けているんですよね?」
と、マツジュンが聞くので、
「まあね。だから、校正の仕事は諦めようかと思ってるの。代わりに、ハガキのあて名書きの仕事っていうのを見つけたから、それに応募しようかと思ってるんだ」
「それって、どれだけの稼ぎになるんです?」
と、ナミが聞くと、
「まだ分からないけど、どうやら歩合制らしいから、私の頑張り次第じゃないかな」
「頑張りすぎて、体壊さないでよ。大事な体なんだからね!」
と、ユノンは言いながら、自分のデザートを差し出した。「これ、食べる?」
「大丈夫よ、自分のあるから。ありがとね」
送別会は百合香の体のことを考えて、9時にお開きになった。
百合香のことはナミが自宅まで送ることになった。他のメンバーはそれぞれ二次会に繰り出したり、そのまま帰ったり......。
百合香が妊娠中は自転車を乗るのを控えるこことにしたので、二人は遊歩道を歩いて帰ることにした。
「もう、すっかり桜も散っちゃったねェ」
百合香が呑気にそんなことを言う。だが、ナミはちょっと真剣な表情をしていた。
「どうしたの? 難しい顔して」
「リリィさん......」
「なァに?」
「いっそのこと、俺と結婚しませんか?」
「......だから、それは......」
以前にもその話が出て、百合香は断っていた。だがあの時は、百合香の妊娠が分かったばかりで、そんな自分とまだ若いナミが結婚してもいいものかと考えたからこそ断ったのだが。今となっては、ナミもそれは重々承知のことである。
「それに、小田切さんとは本当にもういいの?」
「桂子とはとうに別れましたよ。あいつ、俺の夢とか全然理解してくれないから......それに、そもそも俺があいつと付き合いだしたのは......リリィさんに、男として見てもらえてないんだって、勝手に俺が思い込んでしまったせいだから」
「なに? それ。初耳」
「だって、初めて言ったもん」
と、ナミは少し拗ねて見せた。「リリィさんは、俺の事、弟か息子みたいな感じでしか見てくれてないって......だから、諦めて、桂子と付き合ったんです」
「......もう、私たちってホントに気が合うのね」と、百合香は苦笑いをした。「考えることも、やってることも同じじゃないの」
「そうですね。俺も入院した時、リリィさんに打ち明けられて、同じこと思いました」
「やっぱり私たち正真正銘の再従姉弟同士なのね。血のつながりって怖いわ」
「リリィさん......」
「うん......あなたとなら、凄く気の合う夫婦になれると思う。あなたとなら......」
百合香はナミの正面に立って、優しく見つめた。
「ありがとう、ナミ。あなたの申し出はとても嬉しいわ」
「それじゃ......」-
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