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from: エリスさん
2013年06月13日 17時22分31秒
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夢のまたユメ・82
「でも、あなたとは結婚できない」
百合香が真剣な眼差しで言うと、ナミは咄嗟に、
「どうして!」と、大きな声を出してしまった。
「理由は二つある。一つは、あなたが久城家に連なる人だから」
「それって......リリィさんのお母さんの事でってこと?」
「そうゆうことよ」
「俺はそんなの気にしてませんよ。お母さんが義理の父親と――そんなの、お母さんのせいじゃないって、俺は聞いてるし」
「そうじゃなくてッ......母の実家の人達よ。あなたが私と結婚したら、あなたまで母の実家の人達に悪しざまに言われるようになるから」
「だからッ、俺はそうゆうのも気にしないって言ってるんです。久城の本家のことなんか、俺だって最初っから嫌ってるし。俺のじいちゃんの事、妾の子だとか馬鹿にするから......だから、今更なにを言われても、もうどうでもいいんですよ、あんな奴らは!」
「そんな簡単に無視できるような人たちじゃないのよ! あの人たちは、自分たちの理屈で私たちを貶めて来る。あの人たちの言いがかりで、私も兄もお父さんの子供じゃないって言いふらされて。私たち兄妹を取り上げてくれた産婦人科医師の寿美礼おばさんが、私たちは間違いなくお父さんとお母さんの子供だって、カルテまで見せて証明してくれているのに、それも偽造だとか言われて。結局私たち、中立の立場に立ってくれてた遠縁の人がやっている病院で、DNA鑑定までして証拠を叩きつけなきゃならなかったのよ!」
「......そこまでしたの?」
ナミにとっては初耳のことで、驚くしかなかったが、しかしあの久城家の人達ならやりかねないことではあった。
「だから、あなたとは結婚しては駄目なのよ。あなただけじゃなく、おば様や琴葉ちゃんにまで災いが及ぶもの」
「そんな......きっと母さんも姉ちゃんも、俺の家族は誰もそんなこと気にしたりしないのに......」
そうは言うものの、ナミにも百合香が懸念していることは、良く理解できる。それだけ久城家は理屈の通じない家なのである。
「分かったよ、久城家のことはもう......また後で考えるとして。もう一つの理由って?」
ナミが目の端を拭いながら言うと、百合香も一呼吸置いてから話し出した。
「私、もう......翔太以外の男の人とは......」
「......なんだ。結局はそういうことか......」
自分に恋をしてくれていたのは、本当にもう昔のことで、今はもうすっかり長峰翔太に溺れてしまっているのだ。だから、長峰翔太に操を立てて生きていきたい――そういうことなのだ。
「そっちを先に話してくれれば、すぐに納得したのに」
「ごめんなさい。でも、久城家のことも重要な話だったから」
「もういいよ......帰ろう」
ナミは右手を差し出して、百合香の左手を握った。
二人はそのまま黙って歩き出した。
何も言わなくても分かっている――自分たちは、これからもこの距離感を保っていくのだ。恋人にはなれなくても、友達以上の、家族に近い存在として。
それが二人の絆だった。
百合香が家に帰ると、すぐにルーシーからチャットのお誘いメールが届いた。
百合香はパソコンを開いた。
「今日、送別会だったんだよね?」
ルーシーからの問いかけに、百合香は、
「うん。みんなに最後の挨拶をしてきたわ」
「みんなのことだから、これからもユリアスさんの家に遊びに行くと思うよ。今までもそうだったんでしょ?」
「そうね。だといいんだけど」
「なァに? 何か心配事でもあるの?」
百合香は少し戸惑ったが、今までもルーシーには何でも正直に話してきたので、思い切ってキーボードを叩いた。
「ナミのこと、振っちゃった」
「ええ!? どうして!?」
「馬鹿だよね。以前はあんなに好きだったのに。ルーシーさんにもさんざん愚痴を聞いてもらってたのにね。でも、今はもう駄目なの。翔太の事が愛しくて、彼以外の男性は考えられない。それに......」
百合香は久城家のことが原因であることも話した。
「ナミの家族に迷惑を掛けたくないの。おば様も琴葉ちゃんも、とってもいい人なのよ。ナミのお父さんとはまだ会ったことないけど、きっといい人に決まってる。おじい様も。母は、ナミのおじい様にとても感謝していたもの」
「ねえ? 言いづらいかもしれないけど――ちゃんと教えてくれる? ユリアスさんのお母さんの事。その親戚の事も。ちゃんと事情を知らないと、私もアドバイス出来ないよ」
「そうね。ルーシーさんになら話してもいいかな......」
百合香は傍らに置いていたお茶を一口だけ飲んで、改めてパソコンに向かった。
「私の母の、先ずは父親の話をするわね」
ナミはその夜、自分のアパートではなく、実家に帰って来た。なんとなく一人になりたくなかったのかもしれない。
すると、リビングに祖父の久城正典(くじょう しょうすけ)がいた。
「あれ? じいちゃん、来てたの」
ナミが言うと、
「おまえこそ、急に帰って来るとは、どうゆう風の吹き回しだ?」
そこへ、キッチンから酒と肴を持って母の池波満穂(いけなみ まほ)が現れた。
「おじいちゃんも言ってやって! もっと小まめに顔見せに帰ってこいって」
「そうだ、満穂の言う通りだぞ。前に栄養失調でぶっ倒れたって言うじゃねえか。たまには母ちゃんの上手い飯を食いに来ないと、そのうち死んじまうぞ」
「うん......まあ、だから今日は帰って来たんだけどさ」
「ん? なんだ、やけに素直じゃないか。まあ、一杯やれ!」
と、正典はお猪口をナミに渡して、お酌してやった。
「で? 何かあったのか?」
そこへ、お風呂場から髪をタオルで拭きながら、姉の池波琴葉(いけなみ ことは)もやってきた。
「お風呂あがったよォ。お母さん! 私もなんかちょうだァい!」
「はいはい、烏龍茶でいい?」
「うん、それでいい!」
と、琴葉が言い終らぬうちに、ナミは言った。
「リリィさんに、結婚を申し込んで、断られた」
しばらくの沈黙......。
「なに? あんた。百合香さんにプロポーズしたの?」
と、琴葉が言うと、ナミは不機嫌そうに、
「だから、そう言ってるじゃん」
「だって、百合香さんってお腹に赤ちゃんがいるんじゃ?」
「それがどうかしたのかよ......」
「前の彼氏の子供を産もうって人に結婚を申し込むって、並大抵の覚悟じゃできないことよ。それを、あんた、やってのけたわけ?」
「そうだよ! なんか文句あるかよ......」
すると琴葉はナミの隣に座って、肩をパーンと叩いた。
「でかした! あんた、男の中の男だよ!」
「そうよ!」と、満穂も向かい側に座った。「母さんもあなたを誇りに思うわよ!」
「ああ! よくぞ覚悟した!」と、正典も言った。「おまえは偉いぞ、優典!」
「みんな、俺の話ちゃんと聞いてた?」と、ナミは忌々しそうに言った。「俺、断られたんだよ」
「なに言ってんの! 一回断られたぐらいで!」
と、琴葉はまた弟の肩を叩いた。「断られても、何度でも何度でもプロポーズするのよ! それが男ってものでしょ!」
「そうよ! 母さんも応援するわよ。百合香さんなら、うちにお嫁にきても、嫁姑でもめることないし、大歓迎だわ!」
「私も! 百合香さんが妹――ううん、お姉様って呼んじゃうわ。とにかく、彼女なら大賛成よ!」
「うちが大賛成、大歓迎でもなァ......」
ナミはお猪口の酒を一気に飲み干した。
「じいちゃん......リリィさんのお母さんのこと教えて」
「沙姫ちゃんのこと?」
それでまた、しばらくの沈黙が流れる。
「そうか......」と、正典は言った。「それで断られたのか」
「うん......うちの家族に迷惑かけられないって」
「そうなのね......確かに、百合香さんにはこれ以上、久城の本家とは係わらせない方がいいのかもね」
と、満穂が言うと、琴葉が聞いた。
「私もそのことは良く知らないんだけど......そんなにひどい確執があるの?」
「確執なんてものじゃない。もう、呪われてるとしか言いようがない」
と、正典は言った。「すべては、兄さん......沙姫ちゃんの父親から始まっている」
正典は意を決して話し出した。-
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