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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2013年12月27日 10時31分06秒

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    夢のまたユメ・88

    秋葉原某所。電気街通りからは一本外れた道路沿いにあるビルの地下に、そのメイドカフェはあった。
    『なんか......入りづらい』
    明らかに秋葉原のオタク向け。百合香がいつも利用している静かな感じのメイドカフェではないことは、看板やポスターからも察せられた。それに、時折ドアが開いて賑やかな声が聞こえて来るし、店から出て階段を昇ってくる男性客たちも、兄の恭一郎を遥かに超えたオタクっぷりなのが分かる。
    『いや、オタクに偏見があるわけじゃないのよ。うちのお客さんにもそういう人は多かったし。ただ......私には付いていけない(^_^;)』
    それでも、ルーシーが指定してきた待ち合わせ場所がここなのだから、入るしかない。
    意を決して、百合香はお店に入るための階段を下りた。
    店の前に来ると、もっと強烈にカラフルなポスターが貼ってあって、百合香は怖気づいたが、ちょうどその時、中から誰かが出てきた。
    ミニスカートのオレンジ色のメイド服を着て、メガネを掛けた20歳前後の女性だった。
    「まあ、お帰りなさいませ、お嬢様!」
    手に籠に入ったビラを持っている。宣伝活動へ出掛けるところだったのだろう。
    「こ......こんにちは」と、百合香は挨拶をした。
    「あら、緊張なさっていますね。こうゆうお店は初めてですか?」
    「ええ......いえ、メイドカフェ自体は初めてじゃないんですけど」
    「こうゆう雰囲気が初めてなんですね」と、メイドは笑いかけた。「どうぞ、入ってみるとなかなか楽しいですよ」
    「はあ......」
    百合香はメイドに促されて中に入った。
    中に入ると、やはりやたらと百合香の馴染めないことをしている男性客が多く、百合香は一歩後ずさりをしてしまった。
    「よろしかったら個室などもございますよ、お嬢様」
    「えっと......実は待ち合わせをしていて......連れが、"ルーシー"の名で予約を入れたと言っていたんですが......」
    「あら! じゃあ、あなたがルーシーちゃんのチャット友達?」
    「ルーシーさんをご存知なんですか?」
    「ええ、もちろん。だって、ルーシーちゃんはここのメイドですもの」
    「え!?」
    確か、週5勤務の会社に勤めてるって言っていたはずだが......まあ、メイドカフェを「会社」と表現したのかもしれないが。
    『何かわけがあって嘘をついていたのかな? ネットの世界だから多少はあるかもしれないわね』
    百合香がそう思っている間に、メイドは店長らしき女性(黒いスーツ姿だった)に声を掛けて、予約されている席を確認した。
    「ルーシーちゃんまだ来ていませんよね? でしたら個室に変更してあげてもらえませんか」
    「そうねェ」と、店長は言った。「お嬢様がおくつろぎできないのであれば、個室に御通ししましょう。幸い一部屋空いているし」
    メイドが気を利かしてくれたおかげで、百合香は奥の個室に通された。
    「改めまして、わたしはメイドのローラと申します」
    と、メイド――ローラが名刺を差し出してきた。
    「ありがとう。助かりました。私は......」
    「ユリアスさん、ですよね。ネット小説を書いているとか......本名はルーシーちゃんが来てから明かしてあげてください」
    「......ええ。そうします」
    「何かお飲みになりますか?」
    と、ローラはメニューを開いて見せた。メニューの中身もかなりユニークな名前が付けられていたが......。
    「これはつまり、メロンソーダですよね?」
    「はい。それになさいますか?」
    「はい、これで」
    「畏まりました、お嬢様」
    ローラは一礼すると、部屋を出て行った。
    ローラがカウンターに向かって注文を言い終えたとき、ちょうど店のドアが開いて誰かが入って来た。
    「あっ、ルーシーちゃん!」
    ローラに呼ばれた人物は、ちょっと恥ずかしそうに、
    「まだ変装する前だから、その名前で呼ぶのはやめて......」
    「あら、ごめんなさい。それより、お友達来てるわよ」
    「え?」と、その人物は壁際の席を見渡した。「予約した席には、いないけど?」
    「個室にしてもらったのよ。あなた、本当に彼女と会うのは初めてみたいね。彼女、こうゆうお店は慣れていないんですって」
    「え!? メイドカフェに行くのが好きだって言ってたのに」
    「それきっと、メイリッシュとかキュアメイドみたいな、落ち着いた雰囲気のお店のことよ」
    「あっ、そっか......」
    そこへ、カウンターから店長がメロンソーダをお盆に乗せて差し出した。
    「ちょうどいいから、あなたが持って行ってあげなさい」と、店長が言った。「3番のお部屋よ」
    「はい。すみません、今日は我がまま言ってお休みいただいてしまって」
    「いいのよ。さあ、お嬢様が待ってるから」

    百合香がぼうっとしながら待っていると、隣の部屋から団体客と数人のメイドが、
    「おいしくなァ~れ、おいしくなァ~れ!」
    と、何やら一緒に呪文を唱えているのが聞こえてきた。
    『こうゆうのを売りにしているメイドカフェが多い、というのは知ってたけど......慣れないなァ......』
    そこへ、ドアがノックされて、外から声がかかった。
    「失礼いたします。ご注文の品をお届けに上がりました」
    先ほどのローラの声ではなかった。というより、声が......。
    あれ? と思ったが、百合香は「どうぞ」と答えた。
    「失礼します」
    入って来たのはメイドではなかった。黒のジャケットに白いシャツ、そして黒いジーンズの、男が入って来たのだ。しかも、百合香が良く知っている。
    「......どうして?」
    「どうしてって......」と、その人物はテーブルにメロンソーダを置いて、百合香の向かい側に座った。
    「今日、待ち合わせの約束をしたのは、僕だから......」
    「......カールだったの?」
    百合香の目の前に居るのは、元ファンタジアのフロアスタッフ・小坂馨だった。

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