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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2014年02月07日 10時48分40秒

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    夢のまたユメ・90

    「半陰陽?」
    物語の中では良く目にする単語だが、現実に聞くのは初めてだった。
    「えっと......神話小説を得意とする嵐賀エミリーが、オリュンポスシリーズの中で混沌神カオスのことを両性として描いていて、女神ガイアはそんなカオス神のことを"お姉様"と呼んでいたけど......」
    と、百合香が頭の中を整理したい一心で、知識の中から関連していそうなことを口にすると、
    「うん、僕もその小説読んでるよ。そのカオス神は僕に近いかな。体は男性のもの、女性のもの、両方を備えていて、でも精神は女性に近いってことだよね」
    「CLAMPの『聖伝(リグ・ヴェーダ)』では、阿修羅が性別の無い子供として描かれてて......」
    「うん、あの子は言わば"どっちも持っていない"半陰陽だよね。胸は男性として描かれていたわ」
    「武内直子の『美少女戦士セーラームーン』では、セーラーウラヌスの天王はるかが、男性であり女性であるって......」
    「うん、だから! 僕はその人たちと同じ。男性と女性、両方の性器を持って生まれたの。でも見た目は男性に近かったから、戸籍は男性として届け出てるのよ」
    「......本当、なのね?」
    「なんなら、今ここで裸になって、どうなっているのか見せてあげましょうか?」
    それは御免こうむりたい、と百合香は思っても口に出せないでいると、ちょうどそこへ晶子がお茶とケーキを運んできた。
    「だめよ、ルーシーちゃん。ここはそういうお店じゃないんですからね。露出禁止(^_^;)」
    晶子が言いながら、テーブルにお茶とケーキを並べる――小坂のお茶はホットのローズヒップティーだった。
    「ハーイ、店長。以後気を付けまァす」
    「それじゃ、ごゆっくり......」
    と、晶子は訳知り顔で微笑んで、階段を下りて行った。
    「店長には全部話してあるの、僕のこと」
    と、小坂はお茶を飲んだ。「うん、おいしィ。店長が煎れてくれるローズヒップティーが一番おいしいわ」
    「そうね。お茶の煎れ方に関しては、私も晶子には敵わないわ。まあ、だからこそ喫茶店をやっているんでしょうけど......それは置いといて」
    「そうね。僕のこと話さなきゃ......生まれた時から、僕の体は普通じゃないってお医者さんが気付いて......」
    IS(半陰陽)と言っても、人それぞれ個人差がある。小坂馨の場合は、男性器の下に隠れるように女陰があることが分かり、出生翌日に検査を受けたところ、体内には精巣と共に子宮・卵巣も備わっていることが分かった。いずれ手術を受けて、男性・女性どちらかの性別にならなければならないが、今はまだ生まれたばかりの赤ん坊でその手術には耐えられない。しかし出生届を役所に提出する時に性別を書かないわけにはいかない。それで小坂馨の両親は、どちらかと言えば見た目が男性に近かったので、男性として届を出したのである。
    そのまま男性として育てられたが、しかし成長するにつれ小坂の性格は明らかに女性のものであり、幼稚園に上がるころには小坂は――そして両親も、この子が女の子であることを認めた。
    とは言え、戸籍上は男性である小坂は、学校などでは男子として振る舞うようにしていた。当時はまだ戸籍の性を変更する法律がなく(その法律が出来たのは2004年だった)いずれは手術を受けて男性にならなければならない。それでも、どうしても女の子としての自分を抑えることが出来なくて、家の中ではしばしば女の子の格好をしていて、それを両親も止めたりはしなかった。
    「理解のある両親で良かったわね」
    百合香は心からそう思った。中には世間体を考えて、子供に偏見を押し付ける親もいる。そういう親だったら、小坂は無理矢理男の子にさせられていただろう。
    「でも今は戸籍の訂正ができる法律があるのよね? だったら、手術を受けて女性になって、戸籍も女性に直せるじゃない」
    「そうなんだけど......そう簡単にはいかないの」
    小坂はそう言うと、一気にお茶を飲み干して、一息ついた。
    「だってね、僕の恋愛対象って女性なんですもん」
    「あっ!......そういう問題が......」
    将来、誰かと結婚しようと思うなら、恋愛対象が女性であるなら自分は男性でいないと、婚姻が認められない。
    「同性愛の辛いところよね。だから日本では、夫婦としてではなく、養子縁組で親子になるしかないんだけど......」
    百合香がそう言うと、小坂はクスッと笑った。
    「そういう話題をサラッと受け入れられるところは、やっぱりリリィさんね」
    「ん? 何が?」
    「同性愛を否定しないところ」
    「それはそうよ。だって私がバイ(バイ・セクシャル)なんですもの」
    「店長とも付き合ってたのよね」
    「そうよ。晶子は私の最初の恋人だったの」
    「どうして別れちゃったの?」
    「私が就職して、会える時間が少なくなってしまって......そんなうちに、お互いに別の人を好きになりかけてたから、話し合って別れたのよ」
    「好きになりかけてた人って、男の人?」
    「私はね。晶子は後輩の女の子だったわ。私と違って晶子は完璧な同性愛者だから......」
    「そうみたいですね。何度か彼女さんと一緒に居るところを見た事あります」
    「あっ、付き合ってる人いるんだ......」
    今でも「ユリ姉さまのアキバ妻です(^o^)」とか言っているくせに、と百合香は思ったが、嫉妬しているみたいに見られるので、口にするのはやめた。
    「僕も、そういう人と巡り会えてたら、こんなに悩まなくて済んだのにな」
    小坂は言うと、背もたれに体を預けて、伸びをした。
    「前にリリィさんに聞かれたの、覚えてるかな。初体験の翌日に二回目を経験するのは、痛い物なんだろうかって」
    「ああ、ごめんね」と、百合香は恥ずかしくなった。「ルーシーさんとは何でも話せる間柄だと思ってたから......」
    「ううん、いいの。僕もそういう相談されて嬉しかったよ。身近に思ってくれてるんだって......だけど答えに困っちゃった。だって僕、女の子としての経験はなかったから。僕が交際してたのは二人とも女の子で、どっちも僕のことは普通の男だと思ってたから......」
    最初の彼女と初体験を迎えたのは、小坂が高校2年の時だった。その時も小坂は男として振る舞っていた。胸は男の胸と見えるぐらい平たいし、下半身をじろじろと見られなければ「普通と違う」とバレる心配はない。しかも相手も初めてで緊張していて、ほぼ"おまかせモード"だった。このまま男として押し通そうしたのだが......。
    「僕の性感帯はどうも女寄りらしくて、ついつい本性が出ちゃって......"あなた、オカマだったの!"って、途中で怒って帰っちゃったんです」
    「それで振られちゃったのね?」
    「はい。だから、大学に入ってから出来た二人目の彼女の時は、ホテルに入ってすぐに僕の本性を明かしたんです。服を脱いで見せて......そしたら......」
    少し長い沈黙が流れたので、百合香が言った。
    「ひどいことを言われたのね」
    「......化け物......って」
    「最低ね。そんな女、別れて正解よ。......でも、その彼女たちあなたの体のことを知って、その後、噂を流したりはしなかったの?」
    「幸いと言うか、彼女たちもそんな変な奴と付き合ってたなんてことは言いたくなかったらしくて、僕がISだってことは家族以外だれにも知られずに、今までこれました」
    「学校の体育の時間とかでも、同級生に怪しまれることもなかったのね?」
    「この平たい胸のおかげで、見た目はほとんど男子でしたから。水泳の時間も、同級生たちも皆そうだったんだけど、前を隠しながら着替えるのは当たり前だったから、不審に思われなかったわ。高校は水泳の授業がない学校を選んだの。友達にプールに誘われても、お腹を壊したとか風邪ひいたとか嘘ついて断ってたの」
    「大変そうね......」
    「それなりにね。でもまだ騙(だま)す相手が同級生ぐらいだったら、全然平気だけど、恋人になってしまうとやっぱり騙してはいられなくなるって分かったから、恋愛にはかなり慎重になったわ」
    「そうよね......慎重にもなるわよね」
    「うん......だからね、リリィさんと出会えて、すごく嬉しかったの」
    「私と?」
    「ええ。リリィさんは、男性も女性も恋愛対象になれる人だって、全然隠さずに公表してたでしょ? だから......安心して、好きになれた」
    「......え?」
    百合香は思ってもいなかった――小坂がそういう目で自分を見ていたなんて。
    「僕、リリィさんのことが好きなんです。恋愛対象として」

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