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from: エリスさん
2014年06月27日 12時13分53秒
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夢のまたユメ・98
「本当にいいのですか?」と、崇原は言った。「このサイトに参加したからと言って、すぐに作品を書籍化できるわけではありませんよ」
「分かっています」と、百合香は言った。「それでもチャンスはできました。日々の生活に追われて、出版社に投稿するための作品が書けなかった私としては、作品発表の場でそれを兼ねることができるのなら、こんなに好都合なことはありません」
「そうよね」と、沙耶も言った。「あとは読者に作品の良し悪しを決めてもらうだけでいいのだものね」
「ただ、出版することも念頭に執筆するとなると、今まで見たいな自由過ぎる書き方は改めないとね。やたらとお色気シーンが多かったから......」
と、百合香が照れ笑いをすると、沙耶が言った。
「ストーリーの展開的にそれが必要だったら、全然構わないと思うけど?」
「ううん。読者集めのためにわざと入れてる時のが多かったわ。必要以上に過激にしたりね」
「やっぱりそうですか」と、崇原は言った。「実はここ最近の百合香さんの作品を見させてもらったのですが、そのように感じるシーンがいくつかあったので気になっていたんです。やっぱりアクセス数を上げるためですか?」
「アクセス数と言いますか、読者を増やすためでした。ネットで作品発表をするには、やっぱり多くの人の目に止まってほしいですから......でも、もうやめます」
「それがいいですね」と、崇原は言った。「百合香さんは素地はいいですから、わざと読者をあおるようなことをしなくても、普通に勝負できますよ」
「ありがとうございます。それじゃ、早速......」
百合香は携帯電話を出すと、サークルプレイヤーにアクセスし、「作家を目指す人々の集い」に参加した。崇原のパソコン画面にも百合香のハンドルネーム"ユリアス"が5人目に表示された。
「ご参加ありがとうございます」と、崇原は微笑んだ。「あとは自宅に帰ってからでいいので、ご自身のサイトとブログに、こちら(「作家を目指す人々の集い」)のサイトに参加したことを発表してください。百合香さんのように前からサークルプレイヤーに加入している人がこちらのサイトに参加してくれれば、読者メンバーを通してこのサイトのことが目に止まるようになります。そうやって徐々に参加者を集めて行こうと思っています」
「集まるといいですね」と、百合香は言った。「このサークルプレイヤーで小説を発表しているのは、私の他にも何人もいますから、きっとその人たちも参加するようになると思います。新設サークル紹介のトップにも名前が出ていることですし」
百合香が携帯でトップページを開いて見せると、確かに新設サークル紹介のコーナーに「作家を目指す人々の集い」の名前が一番上に載っていた。サークル名がここまではっきりとしていれば、作家を目指す人は必ず閲覧するに違いない。
「そうですね、確かそこには新設されてから一週間は名前が載ると、運営の方から聞いています。その間に......あっ!」
と、崇原が驚いた――早速、誰かのハンドルネームが参加者リストに表示されたからである。それを見た百合香は、
「ああ、その人は......このサークルのオーナーさんです」
百合香は崇原のパソコンを借りて、検索画面で今表示された人のサイトを開いた。タイトルから察するに恋愛小説の作家を目指している人らしい。
「なるほど、宣伝効果は確実にあると言うことですね」
と、崇原が言うと、
「サークル紹介のコーナーは、サークルプレイヤーを利用している人なら誰でも見てますよ。みんな、面白い物がないか追及してますから」
と、百合香は言った。「ところで、さっきから"サークルプレイヤー"って呼んでますけど、このコミュニティーサイトって名前が変わるんですよね?」
「ええ、6月に」と、崇原は言った。「まだ新しい名前は内緒ですが、それに合わせて新しい機能が追加されたり、もしくは今まであまり使われてこなかった機能が排除されたりするんですよ」
「そうなんですか......」
「詳しくはまた、運営側からお知らせが来るはずなのでお待ちください」
「分かりました」
とりあえずサイトについての説明は終わったので、崇原夫婦はパソコンを閉じて、百合香の向かい側に座り直した。
「せっかくですから、何か甘い物でも食べませんか? ご馳走しますよ」
と、崇原が勧めてくれるので、百合香は遠慮なくレアチーズケーキを頼んだ。
「あなた、私も同じものをね。あと、お茶のお代わりも。百合香さんも飲む?」
と、沙耶が言うと、
「そうね。もう一杯ほしいかな......」
なので崇原は微笑んだ。「OK. 買ってくるよ」
崇原が行ってから、百合香が飲み終わったカップを返却棚に運ぼうとしていると、沙耶が、
「ああ、私がやるわ! あなたは座ってて」
と、トレーを持ち上げた。「あなたは今が大事な時なんだから」
「ありがとう......でも......」
よくよく考えたら、百合香はまだ崇原夫婦に妊娠したことを話してはいなかった。それなのに二人とも知っているのは、どうゆうことなのか。
「この間、メリアン(女学園)で会った時、あなたのバッグに妊婦さんのタグが付いていたから。今日も付けてるじゃない?」
沙耶は百合香のバッグにぶら下がっている「お腹に赤ちゃんがいます」のタグを手に取って見せた。
「そっか。それで分かったのね」
「今、何カ月?」
「もうすぐ3カ月なの」
「じゃあ悪阻で大変なんじゃない?」
「それが、もう悪阻の時期を過ぎちゃったらしくて。逆に食欲が出てきて困ってるわ」
「普通は困ることじゃないけど......震災のせいで、必要な物が手に入りづらくなっているのね」
「そうなの。特にお水が――ペットボトルの水が品薄で困ってるの」
「被災地の方に優先的に運ばれてるでしょうしね......でも、そろそろ水道水も放射能の問題は心配なくなってきているようだから」
「ええ。私もそう思って、今日は普通に喫茶店のお茶を飲んでるわけだけど」
「ああ、そうよね」と、沙耶は微笑んだ。「ご主人も喜んでいるでしょ? お子さんが出来て」
「......それがね......」
崇原が戻って来たのは、そんなときだった。
「なんの話をしてたの?」と、崇原が二人の前にケーキを出しながら聞くと、
「百合香さんの赤ちゃんの話よ。ご主人もお喜びなんじゃないかって、私が聞いたの」
「ああ、そっか。それで、ご結婚はいつなんです?」
「あの......結婚は、しないんです」
と、百合香が話すと、当然の如く崇原夫婦は驚いた。なので百合香は自分たちの事情をかいつまんで説明した。話を聞いた後、崇原夫婦は二人とも放心していたが、先に崇原がハッと気が付いて、言った。
「それじゃあなたは、子供を産むために仕事も辞めて、無職なのに養ってくれる夫もいないということですか?」
「まあ、兄の収入がありますが......正直、これからの出費を考えると、それだけじゃやっていけないので、在宅でできる仕事を探しているところです」
「それなら、うちの仕事を引き受けてくれませんか?」と、崇原は言った。「我が社でちょうど、校正士を募集していたところだったんです」
「え!? ホントですか!?」と、百合香は驚いた。が、すぐに考え直した。
「でも私、妊娠してるから。満員電車には乗れないので、会社に出勤するのは無理です」
「ええ、ですが校正なら在宅でも出来る仕事です。校正刷りと原稿は郵送でやり取りしてもいいですし、わたしが帰宅途中にあなたの家に届けてもいい。それなら可能じゃありませんか?」
今日はなんて日だろう――と、百合香は思った。将来の希望に対する道が開けた上に、仕事の話まで舞い込んできた。しかも理想的な形で。
当然、百合香が断るはずがなかった。
「是非、お願いいたします」-
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