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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2014年12月19日 12時28分28秒

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    夢のまたユメ・105

    7月に入って、百合香のお腹の中の子供も順調に育ってきていることが分かるぐらい、百合香のお腹も膨らんできた。
    この頃になると東京ではもう震災の影響もほとんど消え、食材を手に入れるのも問題なくなり、水道水も普通に飲めるようになっていた。あるとすれば、原子力発電所が稼働していない影響で、節電を呼びかけられていることだが、
    「妊婦が節電なんか考えなくていいのよ。暑いのを我慢してエアコンを点けないでいたら、胎教に良くないのはもちろん、室内でも熱中症は罹るのよ」
    と、寿美礼に言ってもらえたので、あまり気にしないことにした。それでも温度は弱めにかけている。
    そろそろ夏休みに入ることもあって、シネマ・ファンタジアの方も忙しくなってきて、最近はユノンたちもなかなか訪ねてくれなくなったが、その分、馨が仕事終わりに遊びに来るようになった。保育園は夕方6時までしかやっていないからである。
    この頃の馨のマイブームは、百合香のお腹を撫でながら、
    「元気に出ておいで。僕が遊び相手になってあげるからね」
    と、お腹の子に話しかけることだった。流石に「パパですよ」という嘘は言わないようにしている。
    「夕飯食べてくでしょ?」
    百合香がそうめんの束を手に持ったまま台所から聞くと、馨は、
    「その前に、女装するの手伝って」
    「あら、わざわざしなくても、今のあなたは十分可愛いわよ?」
    以前より髪を伸ばしている馨は、元からの女顔も合わさって、普段の格好でも女性に見えるようになっていたのだが、やっぱりツインテールのウィッグを被って化粧もしないと、自分が女だと言う自信が持てないようだった。
    百合香は、仕方ないなァ、と思いつつそうめんを袋に戻し、お鍋の火を止めて、馨と一緒に自分の部屋に入った。なんだかんだ言っても、馨に化粧を施すのは嫌いではなかった。
    先にウィッグを固定してから、百合香が馨の顔に化粧を施していくと、だんだんと完璧な女性になっていく。
    「これからご飯だから、口紅だけはやめておきましょうね。でも、ほら......」
    百合香は手鏡を馨に渡して、仕上がりを見てもらった。
    「うん、すごくいい......ありがとう、百合香さん」
    「どういたしまして」
    馨があまりにも可愛く笑うので、百合香はつい、その唇にキスをした。
    「さて、じゃあ夕飯作るの手伝ってね」
    百合香が立ち上がると、ちょうどその時に玄関のチャイムが鳴った。
    「あら、誰かしら」
    百合香が玄関に出ると、勢いよくその人物は入って来た。
    「リリィ! 来たよォ!」
    ぐっさんこと、山口冴美だった。
    「え!? ぐっさん、どうして......」
    「どうしてって、会いたいから来た......あれ?」
    ぐっさんはすぐに、百合香の後ろにいる人物に気付いた。
    「カール......だよね?」
    馨はびっくりして硬直していたが、「は、はい......」とだけは答えられた。
    すると、ぐっさんの後ろにいた人物が額を押さえながら言った。
    「だから、連絡取ってから行った方がいいって言ったのに......」
    ナミこと池波優典も来ていた。
    「なに? どうゆうこと!? なんでカールが女装してるの????」
    ぐっさんが混乱しているので、とにかく彼女らを二階の仏間兼居間に通した。
    そして百合香から、馨と付き合っていることを告げて、その上で、馨の抱えている障害のことを説明した。
    「......というわけで、馨は精神的には女性なので、こうゆう格好をしています」
    「分かった?」と、ナミがぐっさんに聞くと、
    「うん、分かったけど......なに、ナミは知ってたの?」
    と、ぐっさんはナミに詰め寄った。
    「知ってたから、最近ちょっとリリィさんと距離を取ってたんです」
    「あら、そうだったの?」と、百合香は驚いた――そういえば最近、ナミから小説の添削を頼まれることもなかった。
    「そうですよ。二人の邪魔しちゃ悪いし......」
    「いやァね。何を遠慮する必要があるの。あなた、私の弟みたいなものじゃない」
    「そうなんだけど......」
    ナミはそう言いつつ、ちらっと馨の方を見た。それに気付いた馨は、ニコッと笑い返した。――どうやらナミの本心は、また馨に誘惑されて一線を越えるのを恐れているようだった。
    「でもまあ、こうしてぐっさんにもバレちゃったし」と、百合香は言った。「もう、みんなに内緒にするのもやめようか」
    「そうね、そうする」と、馨は言った。「ぐっさん、近いうちにみんなを集められる?」
    「飲み会やる? やるなら今週中だよ。来週はポケモンの映画が始まっちゃうから、忙しくてそれどころじゃなくなっちゃう」
    「うん、任せるわ」
    「任せるわ、ね。本当に女なんだね......」
    「うん、ごめんね」
    「謝ることじゃないって! こっちこそ、気が付いてあげられなくて、ごめんね」
    恭一郎が帰って来たのは、そんな時だった。
    「ただいま。皆さん、いらっしゃい」
    「あっ、お邪魔してまァす」と、ぐっさんが嬉しそうに言った。
    「百合香、メシは?」
    「あっ、そうだ!」と、百合香は思い出した。「まだ、そうめん茹でてないわ。みんなも食べて行くでしょ?」
    「うん、食べる! それに、こっちの用件がまだ終わってないし」
    と、ぐっさんは百合香と一緒に立ち上がった。「だから、手伝うね」
    「ありがとう。そっか、ただ会いに来てくれただけじゃないのね」
    「うん、ナミが相談があるんだって」
    「ナミが? 何かあったの?」
    「いや、それは」と、ナミは軽く手を挙げて言った。「ご相伴にあずかってからでも、いいです」
    「あらそう。いいわ、あとでね」
    百合香はぐっさんと一緒に台所へ降りて行った。

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