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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2014年12月26日 11時16分43秒

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    夢のまたユメ・106

    五人分のそうめんを茹でて、薬味もネギとわさび、そして恭一郎ように七味唐辛子を用意した百合香は、ぐっさんに手伝ってもらって二階に運んできた。二階はすでに恭一郎がテーブルを並べてくれていた。
    五人は食べながら、ナミの相談事を聞くことにした――ナミは食べ終わってからにする、と言ったのだが、ぐっさんが、
    「明日早番で出勤するんだから、用事は早めに済ませてよ」
    と言ったからだった。
    「実は、転職を考えていまして......」
    「あら、ファンタジア辞めちゃうの?」
    百合香が言うと、隣に座っていた恭一郎が、
    「その前に、小説家になる夢はどうするんだ?」
    「え!? 転職って就職? バイトじゃないの?」
    宝生兄妹が先走ってしまうので、ナミは手を挙げて二人を制した。
    「いや、バイトです。正社員で就職とかではないです。小説家になるのも諦めてません。そうじゃくて、そこへ転職するのは、夢に向かってのステップアップといいますか......」
    「どうゆうこと?」
    「新人賞に応募していたのはご存知ですよね。で、まあ、今回も審査で落とされまして......」
    「海原書房の"うなばら賞"と新世界社の"飛翔文学賞"に応募していたのよね」と、百合香は言った。「第何次審査まで通ったの?」
    「うなばら賞は第2次審査、飛翔は第4次審査まで......」
    「飛翔は第5審査が最終審査だから、いいところまで行ったのね。残念......。うなばら賞は何次まで審査があるんだっけ?」
    「第3審査までです」
    「だったら、そっちもいいところまで行ってるんじゃない。海原書房は審査が厳しいって、出版業界では有名なのよ」
    「そうなんですか?」
    「だから、私は一度もあそこの新人賞には応募しなかったのよ。仕事上付き合いのある会社だったのに」
    「そうだったんだ......ええ、それじゃあ、これってやっぱり......」
    ナミが天井を見ながら悩んでいると、ぐっさんが脇腹を小突いた。
    「話を先に進めなさいっての」
    「すみません。それでですね、その海原書房の編集者の人から声を掛けてもらって、ときどき作品を持ち込みしてたんです」
    「新人賞は終わったのに? 持ち込みするように勧められたの?」
    と、百合香は驚いた。「それは、あなたに才能がある証拠よ!」
    「やっぱり、そう思ってもいいんでしょうか?」
    「いいのよ、自信を持ちなさい」と、百合香は自分のことのように喜んだ。
    「はい、ありがとうございます。それで、その編集者の人が、うちでバイトしないか、って言ってくれたんです」
    「ああ! そういうことね」
    と百合香が言うと、恭一郎も言った。
    「それはいい。出版社で働くなら、プロの作家の原稿を直に見る機会もあるだろうし、文章力を鍛えられる仕事もさせてもらえるはずだ」
    「恭一郎さんもそう思いますか? その編集者さんもそんなことを言ってました」
    「実際にそういう人物を間近で見ているからね」と、恭一郎は言って、百合香を指差した。
    「あ!? そうか、リリィさんも印刷会社にいた時に......」
    「そうよ」と、百合香は言った。「入力オペレーターの時も、機械校正士の時も、プロの作家の原稿、文章を間近で読んできたから、表現力も鍛えられたわ」
    「でもさ」と、ぐっさんは言った。「それって、出来上がった本を読んでても身に着くものなんじゃないの?」
    「もちろんそうよ」と、百合香は言った。「でも、出来上がった本を読むときって、好きな作家とか好きなジャンルだけを読むことが多くない? 興味のない作家やジャンルには手を伸ばさないでしょ? それだと世界観が限られてしまうのよ。それはそれでいいことかもしれないけど、もっと自分の才能を伸ばしたいのなら、知らない世界を見ることも必要なの。出版業界に勤めていれば、好き嫌いに関係なくいろいろな作品を見ることができるわ」
    「そっか。ナミにとっては出版社に勤めることは、いいことなんだね」
    「そうよ」
    「じゃあ、やっぱり俺」と、ナミは言った。「転職します、海原書房に!」
    「でも、この時期に転職するのは、どうかしら......」と、それまでずっと黙っていた馨が口を開いた。「ファンタジアにとっては夏休みって繁忙期でしょ? 辞めさせてもらえないと思うわ」
    「それもそうね......9月まで待ってくれって言われそう」
    百合香はそう言って少し悩むと、「ねえ、その海原書房の編集者って、誰なの?」
    「崇原さんって言って、月刊つばさ編集部の人です」
    「なんだ、崇原さんか!」
    「リリィ、知ってるの?」と、ぐっさんが言うので、
    「私が校正の仕事を貰ってる人よ。印刷会社にいた頃からの知り合い」
    「なんだ、そうなんだ!」
    「ナミ、崇原さんには私から話してあげる。あなたがファンタジアを辞められるようになるまで、待ってもらえるように。だから、あなたはちゃんと野中マネージャーに話をしなさい。大丈夫、野中さんなら変に引きとめたりはしないわ。本人の将来のことをちゃんと考えてくれる人よ」
    「そうですよね! 野中さんなら分かってくれますよね」
    後日、ナミが転職のことを野中マネージャーに話したところ、案の定、この時期に辞められると困る、ということは言われたが、それでも野中は話し合いの最中にも大いに悩んで、
    「よし、分かった! なんとかしよう」
    と、急きょバイト募集の広告を出した。その結果、野中は一週間でハードスケジュールな面接をこなし、三人の新人を採用した。
    「池波君、この三人を君が退職する8月31日までに、戦力になるように教育してくれ。それが、君が円満退職する条件だ!」
    「分かりました! 頑張ります!」
    一方、百合香は崇原が校正の仕事を持ってきてくれた時に、ナミの話をした。
    崇原もだいたい予想は付いていたらしく、
    「こちらは急ぎませんから、池波君が都合のつくころに入ってもらえれば大丈夫ですよ。しかし驚きましたねェ、池波君が百合香さんの再従弟(はとこ)だったとは。しかし、納得できる部分もある」
    「納得?」
    「池波君の文章が、百合香さんに似ているんですよ。むしろ、型にはまっているというか......」
    「ああ......やっぱりそうですか。なにせ、私が添削してあげてましたから」
    「そうでしたか。だから、池波君には型を壊してほしくて、うちのバイトを勧めたんです」
    「それで!」
    「ええ。彼にはいい体験になると思います」
    「本当に......ナミのこと、よろしくお願いします」
    「はい。ユリアス先生の愛弟子、責任を持ってお預かりいたします」
    崇原が改まって頭を下げるので、百合香も釣られてお辞儀をするのだった。

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