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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2015年05月21日 21時12分29秒

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    夢のまたユメ・110

    馨が宝生家に戻ると、百合香は何をするでもなく、ただ自分の部屋で座って惚けていた。馨が声を掛けても、しばらくは我に戻らなかったぐらいである。
    それだけ、目の前に翔太が現れたことは衝撃だったのである。
    「ミネさんは帰ったわ」
    馨が言うと、
    「そう......」とだけ、百合香は言った。
    馨は百合香の前に座ると、彼女の手を取った。
    「大丈夫? まだ少し惚けてるわ」
    「うん......ちょっとびっくりしただけ。来るなんて思わなかったから......」
    「紗智子さんとお母様が内緒話しているのを聞いてしまって、それで確かめに来たって、ミネさんは言ってたわ。二人に注意しておいた方がいいかもね」
    「いいわよ......そういうことなら、遅かれ早かれいつかは翔太にバレていたわ。私も想像してみるべきだった。......いいえ、もしかしたら、これを望んでいたのかもしれない」
    それまでは紗智子だけが知っていることだった。だから長峰家の中で百合香のことが話題になることは避けられていたのに、そこに真珠美が加わってしまった。秘密を共有している二人に、二人だけで百合香のことを話題にするなというのは無理な話である。そしていつかは翔太の耳に入り......。
    ――会いに来てくれる――それこそが、百合香の本当の望みだったのかもしれない。
    そのことに馨も気付いて、言った。
    「百合香さんは、僕と結婚してくれるのでしょ?」
    「ええ、するわ」と、百合香は即答した。「それは決定事項よ」
    「本当に愛しているのはミネさんなのに?」
    その問いに、百合香は悲しそうに笑った。「......ごめんなさい」
    「いいの......身代わりになることは覚悟の上だから」
    馨は百合香を抱き寄せると、彼女の唇にキスをした。
    そのキスが激しすぎて、百合香の息が続かなくなる。
    「馨、待っ............」
    言葉を全部言い終る前に、過呼吸の発作が起きて、百合香は床に手をついた。
    「百合香さん! ごめん、つい!」
    馨はゆっくりと百合香をその場に横にして、背中をさすってあげた。
    「僕はただ、自分の不安を拭い去りたくて......あなたに触れていれば、安心出来るから......」
    幸い百合香の発作は軽い物で、やがて呼吸も落ち着いてきた。喋れるようになった百合香は、馨の手を取って自分の胸に当てた。
    「大丈夫よ、もう......ごめんね、健康じゃなくて」
    「僕こそ、百合香さんは喉が弱いって知ってたのに、無理させちゃって」
    「......ごめんね......」
    「謝らないで、僕が悪いのに......」
    「......ごめんね......ごめんなさい」
    百合香が謝り続けるのを聞いて、馨は気付いた――百合香が謝っているのは別のことだと言うことに。
    未だ翔太を愛していることへの――馨に対しては"愛"ではないことへの謝罪。
    「いいんです......もう分かりましたから......」
    むしろ邪魔なのは自分だと、馨は思い知らされていた。

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