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from: エリスさん
2015年06月19日 10時57分07秒
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夢のまたユメ・112
「とりあえず」と、ナミは言った。「ちゃんと服着たらどうです? ミネさん」
「あ、ああ......」
翔太はそう答えると、そそくさとシャツのボタンを留めた。
「リリィさん、恭一郎さんは今日何時に帰って来るの?」
ナミの質問に、
「今日は遅番だから10時ぐらい......」
と、百合香は先刻翔太に言ったこととほぼ同じことを言った。するとナミも、
「それじゃ少しぐらいなら話できますね」
と、これも先刻の翔太と同じようなことを言ったナミは、二人を百合香の部屋に呼んで、正座させた。
「なに考えてるんですか、二人とも」
ナミのお説教はもっともである。
「先ずミネさん、あなたこの家の出入りを禁止されてるでしょ? 縁談が破断した時点で」
「そうだけど......リリィが妊娠してるって知って、訪ねないわけにはいかなくて......」
「だとしても、恭一郎さんの手前、せめて外で会うとかなかったんですか? あなた方のことですから、人目のないところで会ったりしたら、そりゃあこうなることも予想できますよね。傍から見てもラブラブな二人だったんだから」
「いやァ、どうも......」と、翔太が照れると、
「褒めてないからッ」と、ナミは突込みを入れた。「リリィさんもリリィさんですよ」
「ああ、うん......」と、百合香が返す言葉に困っていると、ナミはズバッと言った。
「これってカールさんへの裏切り行為ですよ。本当に分かってますか?」
「......分かってるわ。分かってるけど......」
「分かってても止められないんですよね、ミネさんへの想いは」
「うん......」
「だったら駆け落ちでもなんでもすればいいんですよ!」
「出来ないわよ、そんなこと!」と、百合香は言った。「そんなの身勝手な人間のすることだわ。置いていかれる人たちの迷惑を全然考えてない!」
「今リリィさんがやってることが身勝手ではないとでも?」
それを言われてしまうと、百合香はもう何も言えなくなってしまった。
そんな再従姉の姿を見て、ナミはため息を付いた。
「すみません、俺も言葉が過ぎました。リリィさんにもどうにもならないんですよね。好きな気持ちを止めることも、周りの人達を気遣ってしまうことも」
「ナミ......」
「いいんです。あなたのそういうところ、嫌いじゃありませんから。......それで、ミネさん。リリィさんとの話は済んだんですか?」
「いや、その......」と、翔太は言いづらそうに言った。「話する前に、そういうことになってしまって......でも! 君が来るちょっと前に話をしようとしたんだ。なのに、リリィが聞いてくれようとしなくて」
「ダメじゃん、リリィさん。話ぐらい聞いてあげなきゃ。ミネさんだって恭一郎さんに殴られるかもしれないのに、あえて訪ねてくれたんだから」
「......うん、そうね」
「今なら俺がいるから。第三者が間にいれば冷静に話しできるでしょ?」
「ありがとう」と、翔太は言った。「じゃあ、リリィ、聞いてくれ」
「......ええ」
「もう結婚してくれとは言わない。俺たちが結婚すれば、君に辛い思いをさせることになる。特に君のお母さんのことを......なんの罪もないお母さんのことを悪しざまに言う奴らが出て来るかもしれない。それは、君にとって一番辛い事なんだろ。だから、結婚は諦める。でも、子供の認知だけはさせてくれ」
「翔太......」
「君がまだカールと結婚しないのは、カールを戸籍上の父親にさせないためだろ? だったら、せめて子供の戸籍の父親の欄に、俺の名を載せてほしい。それ以上は望まないから」
翔太がそこまで考えてくれていることを知った百合香は、正直迷った。――本来ならば嬉しい申し出である。だが、子供の戸籍に翔太の名が残ると言うことは、それだけでスキャンダルにはならないのだろうか?
「考えさせてもらえないかしら......」
今の百合香には、そう言うのが精一杯だった。すると翔太はニッコリと笑った。
「ああ、じっくり考えてくれ」
二人がそのまま見詰め合ってしまったので、ナミはポンッと手を叩いて、二人の世界を壊した。
「話が終わったところで、ミネさんはさっさと帰ってください。恭一郎さんが早く帰ってくるかもしれませんから。リリィさんはとっとと校正の仕事を始めてください」
「その仕事、明日の朝にもう一度来てもらうんじゃ駄目? まだ夕飯の支度が出来てなくて......」
「そっちは俺に任せてください!」
というわけで、翔太を帰らせたナミは、百合香の代わりにシチューとしゃけのムニエルを作るのだった。-
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