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from: エリスさん
2015年07月31日 11時56分41秒
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夢のまたユメ・114
「......って、ことがありましてね」
ナミは何も包み隠さずに、百合香に馨と何があったのか話して聞かせた。
百合香はそれを聞いて、もう頭を下げるしかなかった。
「ああもう......ホント、ごめん」
するとユノンが言った。「ユリアスは何も悪くないよ。私も紗智子さんの意見に賛成!」
久しぶりにユノンこと田野倉由乃が百合香に料理を習いに来ていて、ナミはその味見役として呼ばれたのだった。
「ユノンがそんなこと言うから、カールさんもユノンに相談できなくて、紗智子さんに相談する羽目になってるんだよ? バイトの同期なんでしょ?」
とナミが言うと、
「あっちのが二カ月後だよ。でも、私が相談に乗ったとしても、紗智子さんと似たようなことしか言わないと思うよ。私もユリアスにはミネさんが一番合ってると思うもん」
「ここには常識人はいないんですか?」
ナミはそう言ってから、ユノンの作った肉じゃがを口に入れた。「ちょっと醤油入れ過ぎじゃない?」
「そう?」と百合香は言った。「私はちょうどいいと思ったんだけど?」
「リリィさん、もしかしてお疲れ気味ですか?」と、ナミは言った。「疲れてると濃い味付けの方が美味しく感じるって言うけど」
「ああ、そうかも。昨夜、3時間ぐらいしか寝てないから」
「ちゃんと寝てください! 妊婦がなにやってるんですか!」
ナミの言葉はごもっともである。
「小説書いてたら、なんかストーリーがまとまらなくて、なかなか書き終わらなかったのよ。そろそろネットにアップしたいのに」
「そういう時は書かなくていいんです! リリィさん一人の体じゃないんだから」
「まあ......そうなんだけど......」
「そうなんだけど、じゃなくて! ちゃんと自覚してください!」
ナミは少し百合香に怒りも覚えているので、キツイ言い方になっていた。それを百合香も理解しているので、とりあえず話題を変えようと、こう言った。
「でもホラ! ユノンは千秋のために料理を覚えてるんだから! 千秋は東北人だから濃い味付けの方が......」
百合香が言っている間に、ユノンの表情が微妙になってきたのに気付いた百合香は、
「どうしたの?」と、ユノンに聞いた。
「ああ、ユノン」と、ナミが言った。「まだリリィさんに言ってなかったんだ」
「え? なにを?」
「いや、俺もジョージさんに聞いたんですけど、ユノンと千秋さん別れたんですよ」
「ハァ?」
寝耳に水とはこのことである。
千秋はこの間の震災で故郷が被災し、両親を助けるためにも帰郷しなくてはならなくなったのである。その際、ユノンにも一緒に付いてきてほしいと言ったそうだが、ユノンには声優になるという夢もあり、そのために母親がパートまでして学費を出してくれたのである。最近はオーディションにも挑戦するようになり、小さな役だが声優のお仕事ももらえるようになった。父親がいないため、母親と祖父母に育てられたユノンは、これからが親孝行のしどころである。なのに、家族と夢を捨てるわけにはいかなかった。
ユノンの選択は百合香には良く理解できるが......。
「それじゃ、どうして今日お料理習いに来たの?」
「それは......新しい彼氏が肉じゃがが好きだって言うから......」
「早いよ!」と、百合香とナミは同時に突っ込んだ。
ユノンほど可愛い子を、世の男どもが捨て置くはずはなかった(^_^;)
結局、話は百合香のことに戻された。
「とりあえず、無事に身二つになるまで、カールさんと結婚するかどうかは保留しといていいと思います」と、ナミは言った。「その頃には事態が変わってるかもしれませんし」
「そうかしら......」と、百合香は言ってからほうじ茶を飲んだ。
「場合によっては俺もいますから」
「それはもう無いから!」
「うっ! 傷ついた......」
「ユリアス、今度は酢豚の作り方教えてね!」
「それも新しい彼氏の好物?」
「ううん、お母さんの」
「だったら教えてあげる」
傍から見たら深刻な話のはずなのだが、それでも和気あいあいと食事が出来てしまうのが、この三人の凄いところかもしれない。
次の日の夕方、崇原喬志が自ら校正の仕事を届けに来て、ついでにネット小説の相談に乗ってくれた。
「池波君から、睡眠時間も削って執筆しているって聞きましてね」
崇原は爽やかな笑顔で言った後、「お体、大事にしていただかないと」
「はい、すみません(-_-;)」
「ユリアス先生の最近の作品ですが......」
崇原は手帳を開いて、書き込まれていることを確認した。「短編が多いですね。そのうち百合系のアダルト作品が4割ですか......」
「すみません......」
「いえ、責めてるわけではないです。先生の路線として読者に受け入れられていることは確かですから。ただ、書くのにかなり苦しんでいらっしゃるところを考えますと、本当に書きたい作品ではないのではないかと」
「はい......と、いいますか、今は何を書きたいのか、ちょっと先が見えなくなってきていると言いますか」
「ああ、ありますね。そういうこと」
崇原は手帳を閉じると、百合香の目を見て言った。
「どうでしょう。自分の身近なことをモデルに書いて見ては」
「身近なこと、ですか?」
「そう。実際に合ったことを参考に、脚色を加えて書いてみるんです。自分のことですから、それほど苦も無く書き出せるかと思いますよ。......先生は、わたしの妻の〈箱庭〉という作品をご存知ですか?」
「ええ、もちろん。恋人のいる人を好きになってしまったヒロインが、それでも好きな人の子供を授かるために、週末だけその人を家に招いて"不倫の恋"を重ねていく話ですよね」
「そう。世間一般的には、恋人がいる相手を好きになっても、相手が結婚までしていなければ"不倫"と表現しなくてもいいのに――しかも、その相手は恋人に捨てられて傷心だった。そんな時に可憐なヒロインに誘われたら、男は拒絶なんかできないものです。それなのに、彼女は自分たちの逢瀬を"不倫"と表現し続けた......」
「ヒロインの気持ちを読み続けて行けば、どうしてそんな表現をしたのか、良く分かります。相手の男性はまだ別れた恋人を愛してた。自分を愛していない人と逢瀬を重ねているのだから、それは不倫なんだって......でもこれ、不思議な話ですよね。結局、その週末婚とも言うべき逢瀬は、すべて二人が一夜のうちに見た夢だったんですよね」
「そうなんです。初めての逢瀬から、子供が産まれるまでの10カ月間。それを、たった一夜のうちに夢として見たんです、僕たちは」
「......え!?」
「そう、あの話は、僕と沙耶が実際に体験したことなんです。二人で同時に同じ夢を見ました。おかげで、僕は自分を捨てた恋人と無理心中しなくて済みました」
「......その設定も、実際のことだったんですか」
「ええ。人に話しても、誰も信じてはくれませんがね。でもこの不思議な体験のおかげで、僕たち夫婦は今幸せです」
と、崇原はニコッと笑った。「ところで、この作品の脚色されているところは、どこだと思いますか?」
「え? えっと......男性の――つまり崇原さんの、死んだ妹さんが幽霊として出て来るところですか?」
「いいえ、そこは実話です」
「実話なんですか!? えっと、それじゃ......」
百合香は〈箱庭〉の話を隅々まで思い出すと、言った。「もしかして、ヒロインの母親ですか? 物語では、最後に二人が和解したことになってますが」
「正解です」と、崇原は言った。「実際に見た夢には、彼女の母親が訪ねてくるなんてことはありませんでした。ましてや、母親がヒロインを我が子として愛しく思っているなど......現実の世界でも、そんなことはありません。沙耶の母親は死ぬまで自分の産んだ子供たちを愛そうとはしませんでした。あれは、沙耶の願望を描いたものなんです」
「そうだったんですか......」
言われて見ると、百合香は今まで沙耶から母親の話を聞いたことがなかった。それだけ疎遠になっていたのだろう。でも、沙耶自身は母親に愛されたい気持ちでいっぱいで、だからこそ、自分をモデルに書いた作品の中で、せめて母親に愛される自分を描きたかったのだろう。
「あなたも自分をモデルに書いてみませんか。話に聞くと、かなり波乱万丈な人生を歩んでおられるようですし、それに脚色を加えれば、とても魅力的な作品に仕上がると思いますよ」
「ええ、もしかしたら......」と、百合香は笑った。「しばらくネット小説はお休みして、その作品の構成を練ってみようと思います」
「期待していますよ」
「はい(^o^)」
目から鱗が落ちるとは、こうゆうことかな? と百合香は思ってみるのだった。-
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