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from: エリスさん
2016年03月04日 02時07分51秒
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2016誕生日特別企画「桜色の乙女」・2
乾の町の桜の園に案内されてきた枝実子は、その広大な土地一面に何十本もの桜が咲き誇っているのを見て、感嘆の声をあげた。
「素敵ねェ......あまりに美しすぎて、桜に惑わされそう」
「いいですね。キツネやタヌキのように化かされてみたいものです」
郁子は枝実子をもっと奥地まで案内した。すると桜が別の種類になった。
「ミザクラです。サクランボ収穫用の桜でして」
と郁子が説明すると、
「そっか。桜は観賞用と、サクランボが生る収穫用とでは種類が違うのね」
と、枝実子は言った。
「観賞用の桜にも実は生るのですが、あまり美味しくないんです。ほら、こっちの桜は佐藤錦が実るのですよ」
「もしかしてアメリカンチェリーの木もある?」
「ありますよ。もっと奥の方に。ご案内しますね」
二人は並んでしばらく歩いていた。
どれぐらい歩いたか、ふいに枝実子が口を開き、言った。
「桜色の肌の乙女......」
「はい? 今、なんと......」
「桜色の肌の乙女、よ。なんか、いい言葉じゃない?」
「確かに。まだ年若い娘の純潔を言い表しているかと思えば、どこか艶(なま)めかしいような」
「でしょう? ああ! どっかで使えないかな」
「私も使ってみたい言葉です」
「いいわよ。でも、最初に使うのは私ね」
枝実子が言いながら歩き出すと、足が何かを踏んだのを感じた。
枝実子が下を見ると、そこには散った桜の花びらに紛れるように、ピンク色の浴衣だった。
「長さから言って」と、郁子が言った。「寝間着として使われている浴衣ですね」
「どうしてこんなものが、ここに?」
「さあ......風に飛ばれて来たのでしょうか?」
「帯も一緒に?」
枝実子が更に拾い上げたものは、いわゆる三尺帯だった。
「子供がするものよね? 三尺帯って」
と、枝実子が言うと、
「最近は可愛いし巻きやすいってことで、大人でも使っている人はいるそうですよ。それにしても......ますます不可解な落し物ですね」
二人が尚も歩いて行くと、アメリカンチェリーの生る桜の木に着いた。すると、地面にさくらんぼの種や芯がいくつも落ちているのを見つけた。
「この木だけ葉桜になって、実もいっぱい生っていたので、目について食べたくなったのでしょうね......」
と、郁子が分析すると、
「誰が?」と、枝実子が言った。「ここはアヤさんの所有する桜の園でしょ? 町長の断りもなく、勝手にサクランボ狩りをするような輩が、この町にいるとでも?」
「まあ、考えづらいことですが。先ず、動物ではないことは確かです。下の方の枝しか食べられていませんし、落ちている種から察するに食べ方も綺麗です。リスやネズミだったら歯形などが残っていそうでしょ?」
「不可解なことがまた増えたわね」
枝実子はそう言いつつ先を行こうとして、立ち止まった。
見つけた――おそらく、落ちていた浴衣の持ち主であり、サクランボを食べた本人を。
その少女は15、6歳ぐらいで、白い肌に少し赤みを射したまさに「桜色の肌の乙女」だった。そんな少女が、穏やかな微笑みを浮かべて、花びらの絨毯に横たわっていたのである、一糸まとわぬ姿で。
「まあ、いったい誰かしら?」と、郁子は駆け寄った。「見た事もない......いいえ、どっかで見たような気もするけど、でも、まったく知らない少女だわ」
「つまり、乾の町の住人ではないと?」
枝実子は少女の傍に跪きながら言うと、その肢体をまじまじと眺めた。
「おお......なんと美しい少女か。傷一つないこの体は、まさに純潔の乙女にして......」
「ちょっと、枝実子さん! じゃなくて、エリス様!」
郁子の突っ込み通り、枝実子はいつの間にか片桐枝実子から神界のエリスに変化していたのだった。
「しかも紫のキトンってことは、女神ではなく両性神の方に変化(へんげ)なさいましたね」
「その通りだ、乾殿(いぬいどの。エリスの時は郁子のことを「乾殿」と呼んでいる)。この少女のあまりの美しさに、私の中の男の部分が反応してしまったようだ」
エリスがそう言って少女を抱き起すと、
「いけません! まだこの子が誰かも分からないうえに、どう見ても未成年ではありませんか」
「私がキオーネーを妻に迎えたのは、彼女が15歳の時だったが......」
「昔と今とでは違います!」
二人が言い争いをしているせいか、その少女は目が覚めて、右手で目元をこすり始めた。
目を開いたことで、郁子は気付いた――姉様(ねえさま)に似ている、と。
そしてエリスは、少女がにっこりと笑って自分に抱きついてきたことで、ますます興奮した。
「おお、そなた!」
それを合意の合図と受け取ったエリスは、彼女の唇に口づけをした。
「エリス様!」
郁子が思わず目を背けた時、その背けた方向から誰かが走って来るのが見えた。
北の街の女王・佐保山 郁(さおやま かおる)だった。
「さくらこ!」
郁はそう叫びながら駆け寄ってきて、今まさに行われている光景を見て驚き、そして、エリスの前に平伏した。
「その子をお望みでございますか? 女神様」
郁の言葉に、エリスは少女にキスするのを止めた。
「北の街殿、今の私は両性神の方だ。ゆえにエリスと呼んで構わぬ」
「はい、恐れ多いことにございます。では、エリス様......どうか、その子はご勘弁ください!」
そこで郁子も「いい加減、その子を離してください、エリス様ッ」と、眉間に皺を寄せたので、エリスは苦笑いをしつつ少女を離してあげた。
しかし少女は別段嫌がっていたわけでもなく、手を離された後もしばらくエリスに笑顔を向け、それから郁の方へ歩み寄って行った。「マーマ!」と、言いながら。
「さくらこ! もう、この子は心配させて......」
少女を抱きしめながら言う郁の顔は、まさに母親の顔だった。
「どうゆうことですか? 姉様」と、郁子は言った。「姉様にお嬢様がいるなど、あなたと姉妹の盃を交わして早20年というのに、今まで聞いたこともございません」
「そうよね。私も隠してきたから......でも、この子は間違いなく私の娘よ。私と夫・藤村郁彦(ふじむら ふみひこ)との間に生まれた娘。私たちは"桜子"と呼んでいるわ」
「呼んでいる......とは、どうゆうことですか? 姉様」
「御祖(みおや)が名付けてくださったわけではないのよ。だから、私と夫で勝手に付けたの」
「どうゆうことですか? それは!?」-
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